遠いデザイン13-2
2001年 春
日常はその傷みやすい部分から微かに変色しながらも、一見変わりなく動いている。一日のはじまりは、いつも七瀬にとって、理髪店が朝一番の客を迎えるために散髪椅子の袖に並べる剃刀ように冷ややかで清潔だった。そして、彼が亮子から受け取ったメッセージーもこの日常の中でいろいろな解釈が試みられ、ずっと頭にあった一つの疑問、なぜJAの一部の男性職員から目の敵にされたのか、ということに答えらしきものを与えていた。
ケイタイをドライブモードに切り替えてから車のエンジンキーを回す。先に路上に出て手招きする妻に短いホーンの音を送り、ハンドルを戻してアクセルを踏み込む。最初の角を曲がると、サイドミラーに小さく残る妻の姿が飛び、入れかわりに広々とした空き地の風景が流れていく。
あれほどの美人だから、亮子に好意を寄せる男性職員は少なくないだろう。ただ、オレは仕事として彼女と会ってきたまでだし、誘いや好意を匂わせる言葉はおろか、プライベートな話題ですら一度だって口にしたことはない。かりに亮子が自分に好意を抱いてくれていたとしても・・・・・・いや、それは恋愛感情というより、スキ、キライ程度のシンプルなものだろうけど、そんな軽さも手伝って、亮子は仲のいい同僚に何気なくそれを口にしたのではないか。それが変に増幅された形で男たちの耳に入っていった、真相はこんなところだろう。
しかし、プロジェクトが終了してしまった今、そんな推測をなど無意味なことだった。亮子という存在はこれから日を追うごとにぼやけ、その形を無くしていくことが七瀬にはわかっていた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。