遠いデザイン12-2
週末の土曜日、七瀬は券売機の前に立ってプール利用券のボタンを押していた。運動から休眠状態にあった体が陽気にでも起こされたのか、突然ムズムズしはじめ、彼を何年かぶりにこの市営プールへと連れてきたのだ。どうせなら、人の汗や脂で汚れていない水に入りたくて、開館直後の時間を選んだのだが、水着に着替えて屋内プール場に出てみると、すでに外周を水中歩行で回り続けている女たちがいて、水面に反響するしゃべり声や笑い声が耳栓をしている上からも聞こえてきた。
ただ、波だっているのは外周ばかりで、泳者がいないプール中央部は水しぶき一つ立っていない。七瀬はそこを一人悠々とクロールで泳ぎ出す。しかし、わずか二十五メートル先の対壁に手が着く前から、息切れし、筋肉が悲鳴を上げはじめる。それでも、水中歩行をしている女たちの視線が気になりもして、彼は不要な努力を強いられる。
水中にはふくよかな白い足が何本も上下していたが、それを追い越すだけのスピードが出ない。最初、心地よかった水の感触もすぐに重い抵抗力と化して全身にまとわりつき、七瀬は体力の衰えをつくづくと実感させられた。
どうにか一往復し終えたところで、ぜいぜいする呼吸を整えようと、上下に揺れる女たちの背中についてプールを一周歩行する。そして、また泳ぎはじめる。そんなことを繰り返しているうちに、意外にも、二往復、三往復と、ノンストップで泳げる距離が伸びてきた。
相変わらずスピードにこそ乗れないが、それは元来、彼が正しいクロールの泳法というものを身につけていないからであり、水に親和してきたからだの方は運動の快感に目覚めでもしたのか、肺活も心拍も筋肉も、ねばり強い動きをみせはじめる。まだまだ捨てたもんじゃないな、と彼は水中でバタ足の蹴りを強めた。
遠いデザインとは、遺伝子の設計図のこと。
13年前の2001年が舞台。
中年男が若い女性に憧れる、よくあるテーマの小説。
この歳になると。そんなことしか書けませんので…。
地域の産業支援を本格的にやりだしてから、
コピーを前みたいに書けなくなったので、
その手慰みのつもりで書いています。