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84000キリ番GREEN23様からのリクエスト4話目お届けです。
■ 指先の嫉妬 ◇4 ■
「・・・というわけで、社長さんに行けと迫られて致し方なく出演いたしました!!」
と、仁王立ちの敦賀さんを前に、私は額を床にこすりつけん勢いで平謝りした。
場所は敦賀さん宅の、ひろーいリビングの中央である。
私が出演した歌番組は生ではなく収録タイプで、ビーグルのお歌が終わったあと、私は彼らと一緒にスタジオに戻って収録予定時間をスタジオで過ごす、という予定になっていた。
だからこそ今しかないと考えたあのときの私は、ステージを降りて裏に入ったところでアイツに食ってかかっていた。
「あんた!!ステージ上で何してくれてんのよ!!」
収録のために立ち位置に向かった時点で敦賀さんの存在に気付いてしまっていた私は、舞台上から引けるまでずっと敦賀さんから目を離すことが出来なかった。
なぜなら、恐ろしい怒のオーラが見えていたから。
しかもそれは歌を歌いながら魔界人が自分に近づいてくるごとに増し増しになっていた。
「別に大したことはしていないだろ。あの日の情事に比べたら」
「大有りよ!」
「!! そうか。ところで悪いなキョーコ。今日はもう俺はお前とは一緒にいられないんだ」
「はぁっ?!ちょっと!ちゃんと敦賀さんに話を通していくんでしょうね?もちろん気付いていたでしょ、敦賀さんがここに来てるって!!」
「まぁな。だからこそ俺はいまお前の前から去りゆく。(すぐそこに近づいてきている)あいつのことはお前に託す。悪く思うなよ、キョーコ。じゃ、そういうことで」
「ちょっ、悪く思わないわけがないでしょーが!!!冗談じゃない、逃がさないわ!!」
ステージ上で魔界人が私の首に絡みつき、私の後ろに回ったのはもしかしたら敦賀さんから身を隠すためだったのかもしれない。
それが結果としてもっと恐ろしいことを呼び寄せたことなどこの男は分かっていないのだ。
それぐらい、敦賀さんは怒っているに違いなかった。
スタジオに戻って収録予定時間を過ごすはずだったそれを完璧に無視して、逃走しようとしている魔界人の衣装の裾を私は全力で引っ張った。そのタイミングで敦賀さんが現れた。
「 やあ、お疲れ様。ところで、こんなところで何をしているのかな?」
「「 ・・っっっ%$&!$&#$!!!」」
しかも、しかも。仲間がいた分あいつの方に分があって、私は見事に逃げられてしまったのだ。一人残された私は敦賀さんに連行されて今に至る、というわけだった。
正直に事実を伝えたところでお仕置きは免れまい。そう覚悟して土下座告白をしたのだけれど、意外なことに敦賀さんの怒号オーラはこれで弱まってくれた。
「・・・・そう。社長から。なるほど、そういうことか」
「そういうことなんです!」
「俺はてっきり相変わらず危機管理がなっていないどころか群れからはぐれたアリンコ以下の君が出演を快諾したのかと思ったけど。そういえば社長が昨日、変なことを言ったっけ。あれはそういうことだったのか」
「変なこと?って何を言われたんですか」
「・・・いい気味だ。ちょっとは余裕をなくしてみろ、みたいなこと」
ふぇぇぇぇ。余裕を?
敦賀さんがそれをなくすのと、私が魔界人のリクエストに答えるのに一体どんな繋がりが?
「十分よく分かった。社長が噛んでいたのなら仕方ない。ごめんね、最上さん、怖い思いをさせて」
そういって、床にひれ伏した私に右手を差し出してくれた敦賀さんは、本当にもう怒っていないようだった。
敦賀さんの右手に右手を重ね、私が静かに立ち上がる。
そんな私を敦賀さんは、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺、けっこう最上さんのことは理解しているつもりなんだけど。ときどき君は俺の予想の斜め上を行くから、今日もそうかと思ってしまった」
えええ、なんですかそれ。だから今回ももしかしたらそれかもって、敦賀さん、思っちゃったってことですか。
そんなの、めちゃくちゃ心外です。
だいたい私、敦賀さんの予想の斜め上を行こうだなんてこれっぽっちも思っていませんし!
実際、そんなこと全然ないと思うのだけど。
「ところで、聞いてもいいかな?」
「はい、なんでしょう」
「この衣装って実際に使った美緒のだよね?」
「あ、はい。社長さんがわざわざ緒方監督に連絡して手配してくれたんです。出演条件が美緒で、ということだったので」
「そう。それで、なのかな。背中のファスナ―が壊れているのは」
「ファスナー?あ、いえ、違います。これは・・・」
敦賀さんが言ったように、いま私が着用しているのは美緒が来ていた黒ドレス風のワンピースだった。
そう。軽井沢であいつに追いかけられた時に着ていた
森の中で迂闊にも背中までぱっくりとファスナーを下ろされてしまった、私的にはいわくつきの衣装だ。
だからこれを社長さんから手渡されたとき、その記憶が蘇ってしまって心底腹が立ってしまった。
それで問い合わせたところ、緒方監督が返す必要はないと言ってくれたことで、万が一を考慮し、自分でファスナーを下ろせない仕様に変更したのだ。
「 え。自分で下ろせないようにしたの?なんで?」
「自衛のためです。万が一にもあの時と同じ衣装で顔を合わせて、また同じことをされたら嫌ですから」
「・・・・同じこと?それって、つまり以前アイツにファスナーを下ろされたことがあるっていう事でいいかな、最上さん?」
「あ・・・・」
はぶっ、しまった!
敦賀さんの怒りがあっという間に消えたから、迂闊にも口を滑らせてしまった。
あの時あったすべてのことは、墓場まで持っていくつもりだったのに。
「おや、どうしたのかな?急に両手で自分の口を覆ってみたりして?つまり、図星だったってことだよな?」
「はぶぶぶぶ・・・」
「はぶぶじゃわからないよ。最上さん、その可愛い唇をもう俺には見せてくれない気?」
はわわわわ、どうしよう!!!?
敦賀さんの背中から黒いオーラがどっと溢れてきているぅぅぅぅ・・・・
「ふふふふふいひゃひぇん!!ひまほは、ひはなはったほほにふぃひぇふははいっっ!!!」※すみません、今のは聞かなかったことにしてください
目に涙をにじませながらそう訴えたけれど・・・
敦賀さんが見逃してくれるはずもなかった。
「うん?もう一度、ちゃーんとすっきり、言ってごらん?」
私を見下ろしながらニーッコリとほほ笑んだ敦賀さんの右手が
もう使えなくなったはずの背中のファスナーを、難なく下ろした気配を察した。
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4で終わらなくてすみません。次で終わりになりますので~~~
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