84000キリ番GREEN23様からのリクエスト続きをお届けです。
前話<指先の嫉妬1>
■ 指先の嫉妬 ◇2 ■
『 椹さんから連絡があり、新規のお仕事を受けるかもしれません。本日これからお話を伺いに行ってきます。もし話が決まったらスケジュールの調整をお願いします 』
相も変わらず丁寧なキョーコちゃんからのメッセージを受け取った俺は、自分の目の前で演技に励んでいる担当俳優から目を外し、スマホの画面に見入った。
『 一流俳優の敦賀さんとの兼任ですから、なるべくお二人にご迷惑をかけないように自分のことは自分でしますので! 』
『 大丈夫です。困ったことがあったら社さんにご相談しますので! 』
それはとてもキョーコちゃんらしい対応で
俺としても彼女の意向をなし崩しにはしたくなかったし、何より自分で考えで仕事を取捨していきたいというキョーコちゃんの心意気は立派だと思い、敢えて否を唱えなかった。
しかし、だからと言ってキョーコちゃんのそれを100%受け入れた訳でもなく。
実はキョーコちゃんには敢えて伝えていないのだが、椹さんと相談しあい、キョーコちゃんへの仕事の件は先にマネージャーである俺のもとに情報が届いてから、キョーコちゃんに連絡がいくようにしてあった。
メール受信ボックス内にある、キョーコちゃんから来たメールの一つ前にある椹さんからのメールを開く。
その内容はこれから椹さんが伝えるであろう、キョーコちゃんあての出演依頼の詳細が記載されていた。
『 最上くんにTBMのゴールデンタイムに放送される音楽番組の出演依頼が来た。理由はビーグールのレイノが、会ってみたい芸能人に京子の名を挙げたこと。会いたい理由は昨年放送されていたダークムーンで京子演じる美緒にひとめぼれしたからだとか。
レイノに浮いた話がないこともあってその番組のシナリオライターやディレクターが是非!!と熱いラブコールを送ってきている。受けた場合の前撮り日は・・・・ 』
そこまで読んでメールから目を離した。
前撮り日など知ったところで意味のないことだと俺は知っているのだ。
ダークムーンの軽井沢撮影のあのとき、よほど怖かったのだろう、キョーコちゃんは蓮に電話までしてきていた。
もっとも、素直には言わなかったらしいけど。
蓮が察しただけだったけど。
それで、俺が蓮より先に沖縄から現地に飛んで、軽井沢に着いた途端、俺は肝を冷やしたのだ。
キョーコちゃんがストーキングされていたなんて今考えてもぞっとする。忘れられないそんなこと。
だからこそ先に言っておく。
キョーコちゃんじゃなくとも出演を承諾することは決してない、と。
レイノがキョーコちゃんにしたことを考えれば、キョーコちゃんが出演しようなんて考えるはずもないのだ。
コク、コク、コク、と三度頭を縦に頷き、俺はスマホを胸ポケットにしまった。
タイミング良く撮影シーンにカットがかかったことで、休憩を取るべく蓮が俺に視線をくれる。
長い足を優雅に操り、蓮は颯爽と俺の近くに戻った。
「 お疲れ、蓮。水いるか? 」
「 ありがとうございます、いただきます 」
そう言って俺から受け取ったペットボトルの蓋を開けた蓮が、椅子に腰を下ろしてから水で喉を潤した。
その一連の仕草に注視している周囲の女性陣の視線を感じる。
キョーコちゃんと想いを通じ合わせてから、蓮は無駄に色気を溢れさせるようになっていた。
さすが、抱かれたい男ナンバーワン。周囲の女性を釘付けってか。
でもそのフェロモン、キョーコちゃん相手では全く功をなさなそうなのが可哀そうな気もするけど。
「 誰かからメールですか?社さん 」
「 ああ、うん。椹さんから。キョーコちゃんの仕事の件について 」
「 それって、もしかしたらいい話じゃなかったんじゃないですか? 」
「 なんでそう思う? 」
「 さっき、メールを見ながら苦笑いしていたみたいだったので 」
はぁ?
お前、演技していたはずじゃなかった?
仕事をしながら目の端のさらに端っこの方で俺のことを見ていたのかよ。地獄耳ならぬ地獄目か。
「 ああ、まぁな 」
「 最上さんからはまだ? 」
キョーコちゃんの仕事の話は、キョーコちゃんより一足早く俺のもとに届くけど、そのことをキョーコちゃんには内緒にしていることを蓮はもちろん知っていた。
「 ああ、まだ。でも内容は分かってる。確実に断るだろう案件だからな 」
「 そうなんですか 」
「 ああ 」
こうやって蓮が意図的に話を振ってくるってことは、話を聞きたいという意思表示だという事は分かっていた。
けれどこの件は敢えて蓮に伝える気がなかった。
なぜなら言ったところで意味がないからだ。
キョーコちゃんがこの仕事を受けるはずもないことは分かっているんだし、どうせ蓮のことだ。後でキョーコちゃん本人から話を聞くのだろうから。
「 お? 」
胸元のスマホが振動した。
再び素早く手袋を装着し、携帯を引き抜くまでに2コール。
それで静まったということは、メール着信に違いなかった。
ということは、キョーコちゃんからだろう。
「 ・・・・うん、だよな 」
「 なにがです? 」
「 いや、今の、キョーコちゃんからだったから。仕事を断ったという内容の・・・・ 」
そこまで言って俺は言葉に詰まってしまって、ついで思考も動きも固まった。
「 ・・・・・っっ?! 」
なんだ、これ、どういうことだ?
出演することになった、って、なんでだよ!?
ストーカー男から派生してきた仕事なのに、なぜ出演を承諾したんだ、キョォォォォォォーコちゃんっっ?!??
「 社さん?どうかしたんですか 」
蓮に声をかけられ思わず大きく肩を揺らした。
キョーコちゃんからのメール内容は俺の予想を覆しただけじゃなかったのだ。出演することになった、の後に続いていたそれで俺は灰になりかけた。
『 先ほどご連絡した件ですが、出演することになりました。それで、大変申し訳ないんですが、この件は敦賀さんには内緒にしておいてください。必ずや後で自分から報告しますので 』
自分で報告って、つまりそれまで俺に黙っていろってこと?
そりゃ、事前にそうなるって分かっていたら俺だって黙っているぐらいは出来たけれども。
でも普段ならともなく、いま俺、不覚にも挙動不審をしちゃったんだよ、キョーコちゃん!!キョーコちゃんのメールがあまりにも予想外のこと過ぎて・・・。
「 や・し・ろ・さん? 」
ああ、ほら。もう見破られちゃったじゃないか。
蓮がこんな風にキュラキュラ笑顔を浮かべながら話しかけてくる時は、ターゲッチュウした合図だということを俺は以前から知っているのだ。
なるほど、これが蛇に睨まれた蛙の気分ってことか。
「 あ?なにかなぁ~? 」
苦笑いで返事をしたタイミングで今度は着信を知らせる振動が始まった。
藁にも縋る思いで通話を受けると、かけてきたのは社長だった。
『 ・・・つーことで、最上くんに承諾させたから! 』
一連の出来事を解説され、キョーコちゃんが承諾した理由を知った。顔には出さずに脳内で社長に文句を言い放つ。
させたから、じゃねーよ、アンタ。
何しくさってくれたんですか、余計なことをォォォォォ!!
『 いいか、社。この件、サラっと蓮に伝えとけよ 』
いやですよ!!!
なんで俺から血祭りにならなきゃいけないんですか。もとはと言えば社長が悪の元凶なのに。
『 いいか?最上くんが今を時めくビジュアル系バンドのボーカルから会いたいコールを受けたんだぞ?このことを知ったらさすがの蓮もシレっとなんてしておれんだろ。焦る蓮の顔なんぞ・・・・フフフフフ。たいそうな見ものだろうなぁ 』
にやり、と笑った社長の顔が見えた気がした。
つまりラブモンの余計な手出しが原因かっっっ!!!
ほんっとーに余計なことを、この社長はっ!!
蓮とキョーコちゃんはとっくにデキちゃっているんですよ?!
なんてことを蓮が社長に言わない以上、俺から話すわけにもいかないから、だから敢えて黙っていたんですけどねっっ。
しかし結果としてそれが要らん親切を呼びこむことになった、ということは・・・・。
こうなったもともとの原因は蓮だってことじゃないか。それなら俺、全然悪くなくない?
「 や・し・ろ・さん?♡ 」
たいそう機嫌よろしい声で
椅子に座って俺を見上げている蓮くんから再び名前を呼ばれて、俺はピキンと固まった。
この瞬間に俺が考えていたことはたった一つだ。
社長からの命令に従うべきか、キョーコちゃんからのお願いを受け入れるべきか。
俺に害のない答えを出すべく、俺は懸命に脳細胞を働かせた。
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一葉内の社さんって失敗することが稀なんですけど、こんな風に焦る社さんもたまにはいいですよねw
ドタバタ喜劇風。最初の頃の原作スキビってこんな感じでしたよねー♡
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