コアなタイトル記事、5つ目にお付き合いくださってありがとうございます。
5回目となるこの記事は、寄稿いただけたサンプルSSを参考に、執筆術3及び4で説明した内容に沿って解説していきます。
ご提供いただいたサンプルSSはこの上もないほど指摘点が存在していて、サンプルとしてはとても優秀な作品でありました。それだけにどこから説明をしたら理解していただけるのか、とそこを悩んでしまうほど。
そして悩みに悩んだ結果、指摘点を初心者と中級者に分けて説明することに致しました。
そんな訳で執筆術5は主に初心者に重点を置いています。
執筆術3及び4に目を通されていない方はそちらから。既読の方はサンプルSS をご一読の上、この記事に戻っていらしてください。
尚、サンプルSSのご提供者様がどなたなのかは、判る方には判ると思いますが、そこは重要点ではありませんので省略させていただいております。
さて、サンプルSS読後の感想はいかがでしたでしょうか。
ひょっとしたら予想より長い・・・と思った方がいらっしゃったかもですね。または何も思わなかったという方も。
何かを思った方は、物語の未来を予想しながら読んでいらっしゃる方。何も思わなかった方は、何も考えずに読んでいらっしゃる方だと断言してほぼ間違いないと思います。
では、読者が未来を予想しながら…は、どこから始まっていると思いますか。
ズバリ、それはタイトルからです。
このお話、「ご褒美までもガマン大会」というタイトルなのに、ご褒美後もお話が続いています。
予想より長いという印象を抱いた人は、ご褒美後のお話がある事に気付いた時にそう考えたと思います。
以上を踏まえ、執筆術3・4でお話したSSの書き方に沿って、初心者向けに解説してゆきます。
1・侮るな!三段構成の重要性
サンプルSSで、初心者でも読み取る事の出来る一番の問題点は、三段構成になっていない、という点です。
恐らくこのお話は、こういう話を書こうと思いつき、タイトルであるご褒美までもガマン大会というネーミングを先に決めてから、内容を執筆していくうちに、これがあるのが常識かも、あれを足したら面白いかも、こうなったら面白いかも、と団子を串に刺していくようにお話を綴って行き、こんなボリュームになりました、となったのだと思います。
そのため、ストーリー展開が散漫で、お話として焦点が絞り切れていないので著者が何を言いたかったのかが読み取りづらく、本来なら面白いと思ってもらえる箇所が少しも生かされていない作品で終わっていて、しかも読後の印象が残らない残念なお話となっています。
作品の味を上手く引き出すために必要なのは、要素を盛り込むことではありません。それを活かせるように工夫を凝らすことです。
そのために重要なのは、やはり三段構成を遵守すること。それを守っていればこんな読後感にはならなかっただろう典型です。
辛いお菓子に砂糖を入れて美味しくなることもありますが、本来の味付けである、からいものは辛いまま、甘いものは甘いまま、しょっぱいものはしょっぱいままの方が目的の味を思う存分楽しめます。
まずは思いついたエピソードを活かす方向でお話を構成するべきなのです。
味が足りないと気づいた時にはいつでも足すことが出来るのですから。
ところで、サンプルSSが三段構成になっていない事には気づけていましたでしょうか。
三段構成とは、『 何が 』⇒『 どうして 』⇒『 どうなった 』という形だと説明しましたよね。
このお話は、『 ローリィがガマン大会を思いつき 』⇒『 実際にガマン大会を敢行し 』⇒『 蓮から怒られた 』という形になっておりますが、これは三段構成ではありません。
なぜかと言うと、主体がずれているからです。
サンプルSSは神視点(三人称)で書かれているので分かりにくい人もいるかと思いますが、もし一人称で書かれていたとしたらどうなると思いますか?
ガマン大会を思いついたのはローリィですから、ローリィの視点で書かれているはずですよね。
大会を実行したのもローリィですからもちろんローリィの視点です。
そしてその通り、三人称ながらも所々でローリィの心情が一応は描かれているので、その通りで進んでいます。
でも、最後はローリィが蓮に怒られています。正しく言うと、蓮がローリィに怒っています。この出来事自体はさほど問題ではなく、書き方さえきちんとしていれば3段構成として扱えました。では、何がダメだったのか。
注目すべきは物語のラストの一行。
『 そのことを知った蓮は”全くしないのではなく程々でお願いします”と前言を撤回したという。 』
…で物語が終わっている所です。
つまり前2つはローリィが主体になっているのに、3つめは蓮が主体となってしまっています。これでは三段構成とは呼べません。主体をずらしたらダメなのです。
思うに、後半部分は書いているうちにこうなったら面白いのでは…と急遽思いつき、そのまま足した部分なのだとお見受けします。
結果、主軸がブレてしまったためにお話の本質が見えなくなり、何を伝えたいお話だったのかが伝播しないばかりか、しまりのないお話となってしまったと考えられます。
主軸をブレさせるとどういう事になるのか、それをご理解いただけたのではないでしょうか。
サンプルSSは、こういう書き方をしてはダメだという失敗例としては、文句なしの作品です。
お話は、思いつきの勢いだけで執筆してはいけません。勢いも、時には大事なこともありますけれども。
再三に渡り繰り返しておりますが、三段構成はとても大切な構成の形です。有名な某ディズニー映画もそれを基本に物語がくみ上げられているぐらいです。
全体的な組み立て工程は私とは異なりますが、根本が同じということはそれが基本の形ということなのです。
では、なぜ三段構成なのか。もちろんそこには理由があります。
それは、人の記憶力や瞬時の理解力と関係しているのです。
例えば、あなたがコンビニに行こうとしたとき、家族の誰かから、または職場の誰かからお使いを頼まれたとしましょう。
「 悪いけど、コンビニに行くのなら一緒に買い物してきてもらえる?8枚切りの食パンとシュークリームと、ペットボトルの水とマスクと、ウエットティッシュを一つずつ。お金はあとで払うから~ 」
お願いされたあなたは了解し、メモもせずお買い物に出かけます。
果たしてその5つの品を、あなたはミスせずコンプリートすることが出来るでしょうか。しかも自分の買い物のついでに。
答えは否。まず出来ないと断言できます。
あなたは何かしら間違うか、忘れるかをするはずです。
あるいは、5つのお買い物はきちんと出来たとしても、自分の買い物が適当になっているはず。
なぜそうなるかというと、人の一次記憶の棚は基本的に3つだと言われているからです。
例えば、あなたが新しい職場に就職したとします。
出勤初日は覚えることだらけです。朝から指導係の話を聞き、メモを取ってゆくことになるでしょう。
最初は迷わずメモを取れるはず。そういうことなのかと案外すんなり教えてもらったことが頭に入ってくるかもしれません。
一つの説明が終わったら、また新たな仕事の説明を受けます。時間はまだまだありますから。
その時にもあなたはこう思えるはずです。
うん、この位ならまだ大丈夫そう。
そうして二つ目の説明が一通り終わり、三つ目の仕事の説明を受けても、もしかしたらまだ余裕があるかもしれません。
けれど、4つ、5つと教わることが増えるごとに、あなたは自信を喪失していくに違いありません。
しかもメモを取っているにも関わらず、もう無理、もうこれ以上は覚えられない!!と、心の中で必死に叫んじゃっているかも。
それは仕方のないことです。
なぜなら、人の一次記憶の棚は3つまでしかないのですから。
とはいえ、一日に3つの事までしか覚えられないという意味ではないですよ。
一つの事柄に対して覚えられるのが、一日3つという意味です。ですから、指導係の名前はちゃんと覚えているはずです。
それなら、最初に教わった仕事を3つぐらいなら覚えていそうな気もしますよね。でもそうはならないのです。なぜかと言うと、初めての職場で教わった仕事の、何を先に覚えたらいいのか、あなたの脳はその時点で優先順位をつけることが出来ないから。
結果、記憶は混乱したまま整理を付けることも出来ず、翌日になっても覚えている事は一つもない…という有り様に。
そうならないために、もし人に何かを教えるときは、一日3つまで、を基本にするといいです。
そして出来ることなら、次の日に新たなことを教えるのではなく、前日に教えた3つの仕事を、1~2日ぐらい、繰り返してもらうといい。
なぜかと言うと、人は一次記憶に入れたものを繰り返すことで、長期記憶に移行させてゆくからです。
そういう教え方をもしあなたがしたら、きっと後輩から尊敬される先輩になれるでしょう。
同じことを教えてもらっているはずなのに、あの人に教わると早く覚えられる気がする…と、言われるような先輩になれちゃいます。
逆に、誰かに何かを教わるときは、一日3つだけ教えてください、とお願いしたうえで仕事を教わると良いです。
前述したように長期記憶に移行させるには相応の時間が必要ですが、教わったことをどこに書いたのかぐらいは記憶に残っているはずです。あとはメモした通りに仕事をクリアしていって、それを繰り返すことで長期記憶に移行させていけばいいのです。
いずれはメモを見なくても仕事が出来るようになっています。
つまり、あなたは5日で15の仕事が出来るようになっているということ。最初はメモを見ながらではありますが。
一週間後、あなたは必ず人からこういう評価を頂けるはず。
あの新人、物覚えが良いんだよね!と。
これはあくまでも平均的な人に当てはまる事柄です。つまり、秀才・天才タイプではなく、一般的な、世の80%の人に当てはまる事柄です。そう聞くとびっくりしますよね。でも本当のことなのです。
また、他にも世の80%の人に該当する事柄があります。それは、一瞬の判断力のこと。
人間はパッと見で、3つの事柄までならミスなく処理できる能力があることが分かっています。
具体的に言いましょうね。
例えば、ハート・クローバー・スペード・ダイヤのトランプを、ぱっと見の判断で赤と黒の山に分けてみてください。あくまでもカードを見て、一瞬で判断していくのです。
トランプは52枚しかありませんから、1分も掛からず、ミスなく二つの山に分けることが出来るはずです。
でももし、トランプをマーク別で分別するとしたら。あるいはエースからキングまで、4枚ずつ13の山に分けるとしたら、一瞬の判断でミスなく行うことは出来ません。なぜなら、人の一次記憶の棚は3つしかないからです。
どうぞ実際にやってみてください。この真実は、身をもって実感していただく方が早いと思います。
※ただし、やり方によっては4種分類はミスなく行うことが出来ます。でもその説明は面倒なので割愛します。
私はこの法則を随分前から知っていたので、営業事務をしていたとき、ミスなく、一秒の無駄も出さないようにしながら書類整理をしていました。
過去、最高額のボーナスを叩きだした事務員は、あとにも先にも私だけだろうという自負も未だに持っています。
そんな訳で、三段構成というのは読者様の記憶にとどまりやすい形であると同時に、一次記憶に余計なストレスを与えることなく、無理なく読んで頂ける形でもあるのです。
事実、読者様の中には弊宅の目次一覧を見て、SSや連載物を問わず、タイトルから内容を瞬時に思い出せる人は案外多いと思います。それは、こんな事も意識してお話構成をしていたからだ、とご理解いただけたのではと思います。
逆に言えば、お話の中にいくつも、いくつもネタを盛り込んだりすると、読者はそのどれを覚えておけばいいのかが判らず、迷ってしまうことに。
結果、どんなに一生懸命盛り込んだネタさえも生かされることなく、面白くないお話だった、という印象で終わってしまうのです。
従いまして、お話を構成する時は、必ず三段構成を基本としましょう。それを肝に銘じてください。
そうするだけで初心者でも、十分面白く楽しいお話が書ける可能性があるのですから。
蛇足ですが、執筆術が記事毎に3項目構成にしてあるのも、それが理由です。
2・推敲の重要性
タイトルと内容の不調和、不一致を失くす一番の方法は、お話を書ききってからタイトルを付けるようにすること。あるいはもう一つ方法があります。それは、決定したタイトルからお話を構成してゆき、その領域から決して外れない内容を綴ることです。
ただし、後者にはマイナスな側面があります。
タイトルから想起したストーリーの場合、読者様がタイトルを見ただけでまるで読んだかの如く中身が丸判りになってしまう可能性が高くなります。
実際にサンプルSSはバレバレですよね。
そういう場合はよっぽど上手にお話を書いてゆかないと面白いと思ってもらえる可能性が低まってゆくだけです。
とはいえ、タイトルの付け方にはその人独自のセンスも関係していますので、たとえお話を書ききってからタイトルを付けたとしても意味のない人は結構います。
それに、思いついたお話のほとんどはそのままでは使えない矛盾を抱えていますから、どちらにせよ内容の推敲やタイトルの見直しが必要になってくると思います。
ですからやはりお話を書ききってから、改めてタイトルを考える、という形を取るのがベストかな、と私は考えます。
では、改めてもう一度おさらい。
お話を書くにはまず、構成しなければなりません。構成とは、大きく言えばお話の大まかな流れを決めることです。
ここからここまでを話しにする、と決めて、内容が自然な流れになるように組むことが肝要です。しかし、実際にはたった一回の執筆で、何の不備なく書き綴れるお話はまずないと言って過言ではありません。
そこで重要になってくるのが推敲作業です。
推敲と聞いて、誤字脱字のチェックをすればいい、と考える人は多いと思いますが、実際にはそんなお手軽な作業ではありません。
推敲とは、自分が書きたいお話内容に沿っているかどうかを確認しながら、不要な部分を切り捨て、お話が抱えている矛盾点を克服してゆき、または説明不足を補うと共に、全体の体裁を整え、内容の精度を上げていく作業のことです。ともすればそれは執筆以上の苦労を伴います。
推敲作業をしないということは、そのすべてを放棄しているということです。
つまり、そういうレベルのお話しか書けないということです。
しかし、そうは言っても初心者ですと、たとえ推敲しようとしても、どこが問題点なのか、どう直すべきなのか、個人レベルの差が大きく出るところと言えます。でも敢えてやってみてください。
構成の重要性もさることながら、推敲を重ねてゆくことで修行をしていくより他に道はありません。
なぜなら、推敲しない作家に成長できる要素は皆無ですから。
とにかく一つだけ言えることは、初心者ほど短編を執筆し
その際には必ず
①思いついたエピソードを使って
②どんなラストにするかを決めて
③誰視点にするのかを確定してから執筆してゆく
この流れを徹底遵守することです。
3・問題点を克服するための抜粋
では、実際にサンプルSSを推敲していきましょう。
まず、最初に申し上げた通り、このお話は構成自体に問題があります。どこに問題があったか覚えていますか?
まず最初におおまかな構成を整えていきましょう。
タイトルに沿う内容にするために、『次の日の夜分~』から始まる、蓮が主体となっている文章は全て削除します。
あとは残った文章内に存在している問題点をピックアップ。
着目すべき点は、自然の成り行きではない箇所や、消化しきれていない表現の所。また、行動理由が不明確なそれらが対象となります。
以下がその主なものです。
◇愛が好物のローリィが住まう
◆ローリィの一言で急遽実施されることになった
◆豪華な賞品が出る
◆大盤振る舞いで見事に耐えきった者全員に賞品をやる
◇医師団を待機
◆暑さ・寒さ・痛み
◆このためだけに呼ばれたハリウッドスターのクー
◆特別のご褒美
◇のものは消化できていない表現箇所。
◆は自然の成り行きとは言い難い箇所、及び理由が不明確な個所。
さて、初心者の皆さん、いいですか。心して聞いてください。
人が行動を起こすとき、そこには必ず考えがあります。いい変えると、そこには動機があるのです。
お腹が空いたら誰でもご飯を食べると思います。
ご飯を食べるのはお腹が空いたから。これが行動理由です。しかしこれは動機にはなり得ません。
人がご飯を食べるのは、生き続けたいという欲求があるからです。これが本当の動機です。
逆のことも言えます。例えば、お腹が空いてもご飯を食べない人の動機にはどんなものがあると想像しますか?
その人はもしかしたら生きることに絶望しているのかもしれません。あるいは、アレルギーがあって、食べられないものを出されたから食べないのかもしれません。または誰かと一緒にあとで食べる気なのかもしれません。
動機は一つとは限りません。それは人の数だけ理由が存在するのです。
では、例えば街中で本を読んでいる人がいたとします。その理由は何だと思いますか?
急に読みたくなったから?その本を読んだらお小遣いがもらえるから?
誰かから命令されたから?大好きな作家さんの本だから?それともただの暇つぶし?
このどれか一つが行動理由になるかもしれません。けれどそれは動機ではありません。
動機とは、何故その人がその行動を起こすのか、その根本的な心の動きのことです。
これを一切考慮せずに書かれたお話ほど説得力がなく、中身もなく、薄っぺらい上辺だけを揃えたお話となります。
たとえば、このサンプルSSの最大の問題点は、その夜にローリィがガマン大会をしようと思い立ったのに、その思い立った理由がどこにも書かれていないことです。
行動理由の説明が無ければ読者を納得させることは出来ません。
いえ、本当は描かれているのですよ。削除対象の中にこっそりと。
『 それはほら、暑さのせいでダレきってたヤツらをここでシャンとさせようと思ってな・・・。 』
つまりこの書き方がNGなのです。
行動理由を綴る時は、必ずキャラクターが行動を起こす前後に読者に説明をする必要があります。なぜなら、人の一次記憶の棚は3つしかないからです。
行動理由を明示しないままお話を進めようとすれば、読者は抱いた疑問を脳裏に抱えたままお話を読み進めることになります。
貴重な一次記憶の棚を、そんなことのために使う価値があるというのなら話は別ですが、実際にはさほどの理由でもないですよね。
こんな風に、読者に余計な苦労を強いてはいけません。そもそも
「 なぜガマン大会をしようと思い立ったんだろう? 」
この疑問を抱えたままの状態では読者は物語に感情移入が出来ません。ひいてはお話の流れ自体に納得も出来ません。
では、なぜ著者はこの形を取ったのだと思いますか?
これを私は少しのあいだ考えてみたのですが、恐らくこれは伏線を張ったつもりだったのかな、と見受けました。
よく推理小説などで最後のどんでん返し…なるものが披露されることがありますが、サンプルSSはその形を取ろうとしたのかな、と想像しました。
でも、そうだとしてもやはり使い方として間違えているのです。
伏線とは、のちの展開に必要な事柄をそれとなく提示しておくことです。
それが巧妙で、かつ絶妙な理由であればあるほど、キャラクターの行動に真実味がにじみ出て、それが物語に面白味をプラスするアイテムとなり得ます。
そのためには、伏線がコレだと分かるように書いてはいけないのです。そんな書き方に意味などありません。
つまり、サンプルSSの書き方は伏線として機能していないということです。
もし伏線として機能させるのなら、行動理由は必ずキャラクターが行動を起こす前後に、読者に説明しておかなければなりません。
その上で本当の行動理由、動機についてを最後にお披露目するというのがセオリーです。
先日、弊宅にて、『夕日を探しに』というお話をお届けしました。このお話で社さんが蓮キョを修学旅行に連れて行こうとした行動理由を覚えているでしょうか。それは、「学校の行事に修学旅行がないことを知ったキョーコちゃんが落ち込んだから」でした。
でも、ヤッシーの動機の本当の理由は別の所にありました。それが最終話で披露されています。
つまり社さんは、本当は二人の仲を取り持つつもりで、修学旅行に行こうと思いついたのです。これが真実の行動動機だったのです。
しかし、結果として社さんの思惑は空振りになりました。なぜなら、二人は既に両想いでしたから。
夕日を探しに・・・は、その落差を楽しんで頂くためのお話でした。
これが伏線であり、そしてこれが回収するということです。伏線は、回収されることで初めて機能する物語のスパイスなのです。
ネタは美味く消化してなんぼのものです。けれどどんなに旨味があるものでも、使い方を間違えればそれは苦みとして読者の脳裏に残ります。
自分は初心者だという意識があるのなら、身の丈にあった展開を選ばなければ痛い失敗を味わってしまうのです。
さて、この他にもサンプルSSには理由が明かされていない行動が多くみられます。
そもそも、ローリィがガマン大会を思いついた理由が「暑さでダレきっているヤツらをシャンとさせようと思って」…だとするならば、なぜこのタイミングでシャンとさせなければと思ったのか、その動機が明かされておりません。
また、ガマン大会は急遽実施されることになったはずのに、どうして医師団の手配がついているのかも疑問です。その説明も一切ありませんし、加えてきちんと消化もされていません。
せっかく医師団の説明を入れたのに、医師団の存在がその場で終わってしまっているのは勿体ないです。
書いても意味をなさないのなら、それは必要のないものと判断して、推敲時に削除すべきだったのです。
無意味な部分は他にもあります。物語最初に登場する、「愛が好物の」というローリィに対する形容詞です。
原作を知っている人ならローリィの好物が愛であることは周知の事実ですよね。だからわざわざ入れたのかな、と想像できますが、逆言えば誰もが知っていることならわざわざ言葉にしなくてもいい、不要な部分ということにもなります。
それを敢えて表現するなら、それを活かさなければなりません。
しかし、お話を読む限りはそれをフォローする部分を見つけることは出来ませんよね。
また、削除対象から拾い上げたローリィのセリフから、物語の今が夏であると推測できます。では、ガマン大会の暑さはともかく、室温10℃をどうやって実現させたのでしょう。急遽思いついた大会なのに凄いですよね。
その場所の確保は?どうやったのでしょう。
カキ氷の材料ってどうやって手配したの?社員全員分って物凄い量になると思うのですけど。
しかも暑さの次のガマン大会だったということは、それまで氷はどこかに保管されていた事になりますよね。それはどこに?
また、そのカキ氷を作っていたのは誰ですか?カキ氷製造機はいくつあって、それらはどこで調達を?その説明も一切されておりません。
説明がなければ読者はそのシーンを想像することが出来ません。説明文をつまんで終わりになってしまいます。
それでは現場の空気感や臨場感は伝わってきませんし、キャラクターたちの緊迫した様子や息遣いも読者には一切届きません。
推敲対象個所はまだあります。
そもそも、露骨に顔を顰めた社員全員の目の色が変わるような豪華賞品って一体なんでしょう?
それ、全然出てこないのですよ。実際にガマン大会をクリアーした人もいるのに。
きっと読者様は「どんな賞品なんだろう」って想像したと思います。私だってワクワクしながら想像を巡らせました。
結果、けれど種が明かされることはなかったのです。それじゃ面白くもなんともないですよね。
だって、『 ああ、これなら自分でも頑張るかも 』…という共感すら覚えることが出来ないのですから。
だいたい、そこまで必死になって欲しいと思えるような賞品を、ローリィはたった一晩でどうやって手配したのでしょう?しかも、何人クリアーできるかも判らないのに。
お話では、実際にガマン大会を耐え抜いた社員全員に漏れなくプレゼントしちゃっている様なのですが、余ったりしなかったのでしょうか。無駄は出なかったのでしょうかね。そもそも事前に必要数が判らないはずなのに、不足なく手配できちゃった豪華賞品っていったい何だと思います?
勝敗の行方より読者の興味は間違いなくこっちに傾くような気がします。
それから、ローリィはガマン大会に3つのガマンを用意しました。
暑さ、寒さ、痛み、です。
これ、気持ちはね、判らないでもないですけど。そもそもこのガマン大会をクリアすることで、暑さでダレてしまった社員が本当にシャンとすると思えます?なぜローリィはそれを信じられたのでしょう。その動機も説明の必要があります。でなければ読者は共感できません。
また、3試合目に必要となる痛みガマンのためにローリィはクーを手配したのですが。
そう。ローリィが手配したのはクーだけです。だってそう書いてありますから。
『 このためだけに呼ばれたハリウッドスターのクー 』って。
ということは、どこかに電話を掛けたのだった…と、冒頭で、またしても理由を伏せた形で読者に伝えていたローリィのあの行動の結果は、クーを呼びつけたということです。
それ、クーさんはよく了承しましたよね。
たとえお世話になったローリィ・・・ボスのためとはいえ、こんな事のために呼ばれてわざわざ出向くなんて。私なら絶対出向いたりしませんけどね。
でもクーは来てくれたんですよ。じゃあ、なぜ来てくれたのでしょうか。クーがこの行動を起こした理由も読者には一切説明されておりません。だから読者はいまいち感情移入が出来ないのです。
それから、これが最大の謎。ジュリエナさんはおまけの登場のはずですよね。
だってそう言っていますから、ローリィが。
つまり、彼女の手料理というのは、ローリィにとっても予想外な出来事のはずです。でも、タイトルを見るとそうじゃないような気がしますよね。
もし、伏線を回収するのであれば、それはここでなければなりません。
つまり、クーを呼ぶふりをして、本当はジュリエナを呼んでいた、となれば多少は面白い展開なのですよ。
でも、そう受け止められる文章はどこにもありません。伏線回収がなされてない。
説明がなければ読者には何も通じません。
察して欲しいなんておこがましいことを考えるのはもってのほかです。
執筆術3で、「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」という映画が面白くない理由を語りましたけれども、サンプルSSはそれと全く同じことをしています。
動機の解明なき物語ほど面白くないものはないのです。それを充分ご理解いただけたと思います。
同時にキャラクターの行動理由を明確にしないことがどのような悲劇を生むのか、よくご理解いただけたのではと思います。
そしてそういう書き方が、どれほど読者の目に不可解に映るのかも。
こういう数々の矛盾点や疑問点が積み重なったお話は、一次記憶の棚が3つしかない人間にとっては苦労を強いられるだけのお話です。ついでに言えばだいぶ面白味に欠けてしまいます。もしかしたら途中で読むのをやめてしまった人もいたかも。
読者様が何を覚えておくのかに悩み、何に焦点を当てて読むべきなのかに悩み、そして何が面白いのか判断に悩んで終わるだけの物語では、そもそも読む価値をどこに見出せばいいのかすらも判りません。
結果、著者が面白いと思える内容だけが羅列された、意味のないお話である・・・という認識しか出来なくなるのです。
以上の指摘を見て、辛辣すぎると思った人もいたかもですね。
その通り、初心者にこれをすべてクリアしろと言っても土台無理なのは承知の上です。
ですが、考えてみてください。初心者だから、で読者が納得できると思います?
これは初心者レベルの内容だ、と受け止める読者こそいると思いますけど、そう思われた著者に次があると思います?
あなたなら他の作品も是非読んでみたい!と思います?
私が言いたいのはそういうことです。
そして、私が以上の問題点を指摘出来たということは、私は毎回それらをすべてクリアした上でお話を公開しているということです。
初心者ならここまで書ければ頑張っている方だよねって、自分で天井を作っていたらいつまでたっても上達など出来ません。
面白いと思ってもらえるお話にしたいのなら、その手間を惜しんではいけません。
矛盾の数だけお話はつまらなくなりますし、リアリティも欠けてゆくのですから。
自分のレベルを少しでもアップさせたいのなら、考えながら書き、読んで悩み、都度訂正して書いていくよりほかに方法はありません。
初心者さんなら、ある意味読者様に一番近い立場として話に向き合うことが出来るはず。
どうぞ読者の思考で、読者の目線で、読者の心で
そういう腹積もりで自分が書いたお話と向き合って執筆し、推敲を重ねてください。
それが次の一歩に繋がりますから。
さて、次回。伝えるべきと考えていた内容が全て入りませんでしたので、執筆術6 はこの推敲の続きをお届けいたします。
具体的にどういう風に直せばいいのか、その手ほどきと、実際に訂正したお話をお届けできればと考えています。
ご興味がある方は是非お付き合いくださいませ。
有限実践組ブログ運営管理者 一葉梨紗
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