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弊宅500記事を記念してりかちゃん様からお与かり致しました記念リクをお届けいたします。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
前話こちらです↓
■ 天使の落とし物 ◇9 ■
私がめでたく退院する日の朝は、信じられないほどの快晴だった。
空は明るく澄み渡っていて、窓から入り込む光線が眩しくて、手をかざして病室から外を眺めた私は、まるで太陽が私に生きている実感を与えているようだと思った。
――――――― 昨日、面会時間終了間際に社長さんの秘書さんが私の所に来てくれた。
秘書さんは入院前に社長さんが用意してくれていた大まかな荷物を引き上げると同時に、翌日は10時頃にお迎えに上がりますと簡潔に告げて帰って行った。
だからてっきり私は秘書さんが迎えに来てくれるのだろうと思っていたけど、現れたのは予想外の人だった。
「 キョーコちゃん、退院おめでとーっ!!! 」
「 へっ?!社さん!? 迎えに来て下さったんですか?! 」
とても明るいノリで社さんが顔を出し、かげりの無い笑顔で病室に踏み入る。
あの日となんら変わらない、スーパーマネージャー・スーツスタイルの社さんは、ベッドから腰を上げた私の頭の上で右手を二回弾ませた。
「 あったりまえだよ!一週間、よく頑張ったね、キョーコちゃん。リハビリも順調だったみたいだし。今後は自身で毎日のケアを怠らなければ問題ないって聞いたよ。良かったね!本当に 」
「 はい!頑張りました!…確かに、自主的なリハビリはまだ必要ですけど、でも自分の足だけで歩けるようになりましたからもう平気です!! 」
「 うん、うん。ヨシヨシ 」
ポンポンとされたあとヨシヨシと撫でられ、照れくささで思わず下を向く。
入院時に私が聞き及んだ、社長さんの憶測を交えた敦賀さん、社さん二人の行動理由は私を充分驚かせた。
その真相を、次に敦賀さんか社さんに会えた時に聞いてみようかと考えていたけど、いざ社さんを前にして、やめるべきだ…と思った。
自分で気付けなかった事なのに、本当ですかと口にするのはマナー違反な気がしたのだ。
私がすべきことは、それが真実かどうかを確認することではなく、この感謝の気持ちを深く心に刻んでいつまでも忘れないでいる事だと思った。
「 びっくりしました。てっきり社長さんの秘書さんが来て下さるのかと思っていたので 」
「 まさか。どっちかっていうと俺が迎えに来るのが相応しいでしょ。マネージャーだし、通院だって俺がほとんど付き添ったんだし 」
「 そうですね。学校の送り迎えもして下さったし、治療費の支払いまでして下さったし? 」
「 そうそう!!俺以外にあり得ないでしょ!俺と……
蓮以外には…… 」
そう呟いて社さんはニッコリと目を細め、さあ行こうと促した。
「 さ、帰ろう、キョーコちゃん。松葉杖が外れて本当に良かった。でもまだしばらくは無理や無茶は禁物だからね? 」
「 はい!ちなみに私、自分の足だけで歩けたときやっと普通の人間になれた気がしました 」
「 ははは…。普通の人間って…… 」
リハビリ病棟の入院時、社長さんから指摘されて初めて気付いた自分自身の行動矛盾。
あれから何度も思い出そうとしたけれど、記憶にあるそれはひどく断片的なものばかりだった。
私が退院する数日前に敦賀さんも社さんもあの日に何があったのか、もう一人の当事者から聞き及んでいたらしいけど、対する私の方はこれっぽっちも記憶を取り戻せていなかった。
敦賀さんが表紙を飾ったあの雑誌。
あれを見れば何かを思い出せるに違いない…という確信のもと、売店に行けば手に入るだろうと考えていた自分の甘さに気付いたのは実際に売店へ行った時。
求めた雑誌はどこにも見当たらなかったのだ。
よく考えれば分かる事だった。
雑誌は通常、一ヶ月ごとに発行されている。
入院時、自分がケガをしてから既に4週間が経過していた。雑誌はとっくに品切れで、売店では次月号の入荷を待っている状態だったのだ。
「 ………っ… 」
社さんに続いてエレベーターに乗り込むと、一階のボタンを押したあと社さんは私の顔を覗き込んだ。
「 …っ?! なっ…なんでしょうか、社さん!? 」
「 うん、あのね……?……ん ――――――― っ …… 」
??????
なに?なんだろう。
社さんにしては歯切れが悪い?
「 社さん、どうかしたんですか? 」
「 うん。たぶん、キョーコちゃん驚くと思うけど、出来るなら寛大に受け止めてやって? 」
「 ……は? ……はい?? 」
意味が全く通じない。
なのにそれだけ言うと社さんは前を向いてしまって、私は右へ左へと幾度が頭を動かした。
……何を、驚くなって……?
リハビリを受けている間、どれだけ考えても思い出すことは出来なかったから、私は事故の件はしばらく放っておこうと考えた。
今一番大切にしなければならないことに全力を注ごうと決めたのだ。
重要なのは、自分がきちんと治ること。
今回のケガでは多くの人に迷惑をかけた。
なのに後遺症が残りました…なんて事態になったら、まともに顔を合わせられない。そう思った。
着階した地上ロビーは病棟とは全く違う風が流れていて、改めて退院することを実感する。
外に出るべく自動ドアの前に立つと、世界を切り拓くかの如く観音開きに開くドア。
眩しい太陽光がスポットライトのように私の全身に降り注ぎ、それがまるで未来の光明を示唆しているみたいだと図々しい事を考えて、私は心が弾んでゆくのを感じた。
そのまま社さんよりも先に一歩を踏み出すと、逢いたいと切望していた人の姿が視界いっぱいに広がった。
「 最上さん、退院、おめでとう 」
「 ……っ……敦賀さん…… 」
顔を見て、強く強く実感する。
私、こんなにも敦賀さんに逢いたかったのだと。
敦賀さんは有り得ないほど目立つ格好をしていた。
いえ、どんな服を着ていようがこの人が目立たないなんてことは無いだろうけど…。
グレー地に白の刺繍模様のおしゃれなワイシャツにソフトネクタイを携え、鎖状のネクタイピン、黒のジャケット、ポケットチーフ。
そして手には赤いバラの大きな花束……。
私の目に涙がにじむ。
「 最上さん。俺からのお祝いは受け取ってもらえない? 」
社さんが驚くなって言ったのってこれの事かなって思って、クスリ…と小さく笑った。
むしろ、敦賀さんらしくて誰も驚かないと思った。
でもそうじゃなかったのだ。
社さんが言っていたのはこの後のことだった。
「 ありがとうございます。嬉しいです 」
「 それじゃお姫様。俺の車まで、俺が君をエスコートすることを許してもらえますか? 」
「 ……っ… 」
なんか、妙に浮かれ気味に芝居じみてるなぁって、そんな印象を持ちながらも久しぶりの敦賀さんの香りに恋しさが背中を押し、私は臆することなく差し出された大先輩の腕に自分の腕を絡ませた。
どうぞ…と促されて一歩を踏み出したそのとき
自動ドアの前からずっと、華やかな生花の絨毯が敷かれていたことにようやく気付いて、私は目を見開いた。
その美しさに息を飲み、自分の足元から絨毯の道なりに視線を上げて
最後に視界に入った男の人を見た途端、一気に記憶の花が咲いた。
「 ……っっ!!! 」
あの人だ!!
骨折だと診断されたあの日、敦賀さんを待っている間に私に声をかけてくれたあの人。
「 …敦賀さんっっ!!! 」
「 なに、どうした? 」
そして社さんを待っている間にも声をかけてくれたあの人。
敦賀さんに少しだけ似ていると思ったあの……
「 ダメ!動かないで下さい、私の後ろにっ!!! 」
「 ……最上さん?! 」
私は素早く敦賀さんの前に立った。
大先輩をかばうように両手を広げ、腰を低く落として警戒心をあらわにした構えの姿勢で前を見据える。
血の気が引いていくのが判った。
なぜこれを忘れていられたのだろうか。
あの人だ。
あの人だったんだ。
あの日、私が自分の意思で
立て掛けてある木材にぶつかりその下敷きになってしまえば大丈夫に違いないと考えた、その原因となった人……
「 最上さん、いいんだ。平気だから! 」
敦賀さんは自分の前に立ちはだかった私を後ろから抱えるように抱きしめた。
大きなバラの花束から花びらがハラリと舞い落ち、花の絨毯に更なる彩りを添える。
それには一向に構わず、私は肩越しに敦賀さんを振り返った。
「 何がですか!私、たったいま思い出したんです!あの人はっ 」
「 違う!それは君の誤解だ! 良いから落ち着いて。そんないきなり大きく動いたらダメだ! 」
「 ……っっっ!!! 」
私を抱きしめる敦賀さんの腕に更に強い力が加わる。
恋しい人の腕に捉えられた私は
どうしてこれを忘れていられたのか、と背筋をブルリを震わせた。
⇒天使の落とし物◇10へ続く
エ…。頭の中では入ると思っていた内容が、全く入りませんでした…。
……キョーコちゃん、やっと記憶取り戻したのに…。
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