天使の落とし物 ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 弊宅500記事を記念してりかちゃん様からお与かり致しました記念リクの続きをお届けいたします。


 前のお話はこちらです↓

 天使の落とし物【1


■ 天使の落とし物 ◇6 ■





 いい加減、敦賀さんの後悔に付け入るのは止めにしないと。



 私がこの決心を固めたきっかけは、3週間目の検査で良好な診断結果が出た時だった。


 来週もう一度検査をしてみるけど現時点で問題点は見当たらない。だからリハビリには問題なく移行できるだろうからその予定で行こうとお医者様に言われたとき。



「 …ということで、こちらを読んでおいてくださいね 」


 眼鏡の向こうでほんのりと目を細め、穏やかな口調でそう言ったお医者様から手渡されたのは小ぶりの冊子。


 それにはリハビリを受ける上での注意点などが記載されていて、手渡す前に判り易くしてくれたのだろう、パラパラとめくると赤で丸印が付いた場所が幾つもあって、それが自分に関わりがある箇所なのかな、と想像しながら私はハイと受け取った。



「 良かったですね、予定よりも早く元の生活に戻れそうで 」


「 ……はい。ありがとうございます 」



 完治までの期間は人により、あるいはその間の過ごし方により短くなるケースも長くなるケースもあるそうだけど、私の経過が良かったのはやっぱり敦賀さんのおかげなのだろうな、と思う。



 敦賀さんはとにかく監視が厳しくて

 あれはダメ、これはダメって本当にうるさかったから。




「 ――――――― 最上さん、君はちょっと俺が目を離した隙にキッチンで何をしようとしているんだ 」


「 え?何ってお料理を…。体調もずいぶんよくなりましたし、初日などにはかなりご迷惑をおかけしたこともあり、またこれからしばらく居候させて頂きますのでせめてご飯ぐらいはと思って… 」



 敦賀さん宅があるマンション下のスーパーは、一定金額以上のお買い物をすると配達してくれるというサービスがある。

 電話で注文できることも手伝って私はこれ幸いと利用して、食材を手に入れたまでは良かったのだけど、敦賀さんは目くじらを立てて猛反対。



「 そんなことはしなくていい!今夜からシェフ込みでケータリングを依頼するから 」


「 そんな勿体ないことするんですか? 」


「 もったいなくない!食べ物は君の身体を作る大切なものだろう。そういう専門知識のある人にちゃんと身体に良い物を作ってもらった方が絶対いいに決まってるだろ 」


「 それ!!敦賀さんからそんな言葉を聞くなんて意外です!でもそういうのはご自分の身体を気遣う時だけにして下さい 」


「 決めるのは俺だ。俺が家の主なんだから 」


「 そんなのは横暴ですよ!だいたい、お金をかければ良いってもんじゃないです。食事は毎日のものですよ。ケガした時だけ良いものを食べたって意味なんてないんですから 」


「 ……そう。そういうこと言うんだ…。君のケガを考えてのことだったのに 」


「 敦賀さん。拗ねたフリは止めて下さい 」


「 あ、そ。言っておくけど俺が決めたことには従ってもらうよ。これ以上四の五の言うならここで物凄くディープなキスをお見舞いする 」


「 またそんなことを…って、いやあぁぁぁ!!!敦賀さん、やめて下さい、足に力が入っちゃうぅぅぅ~~!!私の顔を掴んだその両手を離して下さい~~ 」


「 ……君が、俺に黙って車イスを使わず松葉杖で立っているのがいけないんだろう 」


「 だって!キッチンに立てなければお料理が出来ないじゃないですか 」


「 だからしなくていいって言ってるだろ。そもそもこの家の中で松葉杖を使うのは禁止!転びでもしたら意味なんて全く無いだろう。何のために俺が車イスを用意したと思ってるんだ、君は! 」


「 もう!!もう、もう、もう!じゃあ、私が作るのがダメって言うならいっそ敦賀さんが作って下さいよ! 」



 我ながらひどい無茶ブリだなって思ったわ。

 だから当然、敦賀さんは無理だって言うと予想していたのに…。



「 なるほど、いいね、そうしようか。君が指示をくれればその通りに俺が作るよ 」




 …――――――― …って。


 こう言ったら何だけど、敦賀さんってほんと、読めない所が多いから。

 そう返って来た時は本当に驚いた。




「 …だけど楽しかったな…… 」



 でも、もうそろそろ甘えるのは止めにしないとね。


 これを何度自分に言い聞かせただろうか。



 それでも結局、私は自分が歩けない事を口実に、こんなギリギリまで敦賀さんから離れることが出来ずにいたのだ。



 敦賀さんのそばにいて、楽しい事は沢山あったけれど

 中でも一番嬉しかったのは夜に必ず敦賀さんが私の様子を見に来てくれることだった。





 子供の頃、何度か風邪を引いた事がある。


 咳が出る程度の軽い症状の時もあったけど、中でも一番ひどかった時があって、その時は自分自身、暑いのか寒いのかさえ分からないほど熱が出た。


 ちょうど骨折したことで出た熱は、その時の自分の状況と少し似ていたと思う。



 子供の時のそれはとにかくすごく喉が痛くて

 自分を含めた世界の全てが有り得ないほどぼんやりとしていたあの感覚を覚えている。



 昼間はほとんど寝ていたせいか意識が浮いたのは真夜中で、茫然とした視界に入ったのはお世話になっていたショータローん家の旅館の天井だった。


 苦しかったけれど、反して私の心はそのとき期待に満ちていた。

 なぜならそれより少し前にクラスメイトがこう言っていたのを聞いたから。




『 お母さんってさ、普段は怖いけど病気の時は優しいよね 』



 ……本当かなって、そう思っていた。

 半信半疑ではあったけど、でもそれを信じたかったのは事実。



 大人しく寝ていればいいのに。

 ううん、正確には私はちゃんと布団で横になっていたけど、目覚めてからは眠ろうとはしなかった。



 人様に迷惑をかけないように…と、隔離された和風のお部屋は夜中だったこともあって余計に静まり返っていて、その中で、熱に浮かされながら私は一か所しかない入り口のふすまをじっと見ていた。


 それが開くのを今か今かと期待しながら……。



 もしかしたら、もう少しで足音が聞こえてくるかもしれない。

 お母さんが心配そうな顔であのふすまを開けてそばに駆け寄ってくれるかも。


 そしたら私、大丈夫よって言うの。

 お母さんがそばにいてくれたら苦しくないわって。



 それを聞いたお母さんはこう言うの。大丈夫よ、そばにいるわって。

 そして私の頭を優しく撫でてくれるのよ……。




 あり得ないことだって、今はもう嫌というほど判ってる。だけど子供の頃の私はそんなしょうもない期待に胸を膨らませていたのだ。




 だって、こんなに喉が痛いのよ?

 歩けないほどフラフラな熱なのよ?


 もう暑いのか寒いのかも判らない。


 ああ、お水が欲しい。喉が痛い。


 私いま病気なんだもの。

 だからお母さん、私がひどい風邪を引いているって聞いたらもしかしたらお仕事の手を止めてここに来てくれるかも…。



 結局、あの部屋のふすまがあの人の手で開けられたことは一度もありはしなかったのだけど。





 骨折だと診断された日の夜。

 私は足の痛みに耐えきれずに目を覚ました。


 目に入った天井の様子が記憶のそれと違うことに違和を感じ、不安を覚えたのは束の間のこと。

 心配そうに私を覗き込んでくれたのは敦賀さんだった。



「 ……っ……敦賀さ……? 」


「 うん、そう。どうした? 暑い? 苦しい? 痛い? 」


「 ……っ…あ、し………… 」


「 うん、じゃあ痛み止めを飲もう。それと熱も出てきているみたいだから解熱剤も。その前に何か口にしないとだよな 」


「 …ど、して……? 」



 どうして?

 どうして敦賀さんが私のそばにいるの?


 どうしてこの人が私の面倒を見ているの……?

 一体どうして…




 でも嬉しかった。たとえそれが先輩としての責任感からだとしても。

 自分の具合が悪い時、片時もそばを離れず居てくれる人の存在が。




 私が眠りに落ちるまでの間

 大丈夫、辛かったら何でも言って…と何度も囁きかけてくれる優しい声が嬉しかった。




 お世話になって以降、敦賀さんは必ず夜中に私の様子を見に来てくれていたみたいで。

 大体の場合、私は眠っていたから

 それをはっきりと覚えている訳ではないけれど



 ほんのり火照った額に添えられる手の優しさが

 少しの間をおいてから安堵の溜息が聞こえてくるのが嬉しくて……。





 ――――――― 心配、してくれているんだ。この人は本当に




 こんなにたくさん迷惑をかけているのに

 こんなにたくさんお世話になりっぱなしなのに……




 甘えていちゃいけないと思いつつ

 どうしても私は敦賀さんから離れられなかった。






『 良かったですね、予定よりも早く元の生活に戻れそうで 』


『 ……はい。ありがとうございます 』



 お医者様には何食わぬ顔で答えたけれど、本当は私、治らなくてもいいとさえ思っていた。

 このままあの人のそばにいられるのなら、それもいいと思った。



 だけど敦賀さんが私を本気で心配してくれているのは知っていたから、私自身、せめてこの人の言葉には従おうと努めて頑張って来た。


 その成果がちゃんと現れたという事なのだ。



 だからもういい加減、敦賀さんの後悔に付け入るのは止めにしなくちゃと思った。




 3週間目の検査が終わり、先に診察室を出された私は、待ち合いロビーの先にある携帯使用可能区域に移動し、社さんを待つ間にけじめを付けようと社長さんに電話をかけた。

 迷惑をかけただろうこれまでの謝罪と、改めて自分から経過報告をしようと思ったのだ。




「 なぁにぃぃぃ??もうすぐリハビリに入るぅぅ??何の話だそれは 」


「 へっ?あの…ご存じでは…? 」


「 知らんな。俺は君が骨折していたという話すら誰からも報告を受けておらん。…ったく、あいつら… 」


「 へええぇぇぇっ??? 」



 驚いた事に社長さんは私のコレを何も知らなかったらしいのだ。


 それが余程不満だったのだろうか。


 社長さんは私が社長さんに電話を入れたことは二人に伏せておくようにと指示を出し、翌週、私が検査を済ませ、社さんと一緒に診察を受けたあと、先に診察室を出された私を予告なく迎えに来てくれたのだ。


 もちろん秘書さんと一緒に……。



「 最上君、行くぞ! 」


「 ふえええっ??でもあの、社さんがまだ中に… 」


「 案ずるな。ちゃんと奴らには後で知らせっから。ちゃんとな 」



 そう言われてしまえば逆らう術はなく。



 結局私はそのまま、社さんに声をかける事も出来ぬまま、社長さんの背中を追って待合室を後にせざるを得なかった。







 ⇒ 天使の落とし物◇7へ続く


色々言おうと思っていたのだけど忘れちゃったので一言だけ。


これ、やっぱり7話で完結しないわよ♡

以上!



⇒天使の落とし物◇6・拍手

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