一葉でっす!о(ж>▽<)y ☆お待たせ致しました。
弊宅500記事を記念してりかちゃん様からお与かり致しました記念リクをお届けいたします。
いつもの様に長めです。
お付き合い頂けたら嬉しいです。
前話こちらです↓
■ 天使の落とし物 ◇7 ■
たどり着いた先はリハビリ棟の入院病棟。
とある病室の前で足を止め、くるりと振り向いた社長さんが言った、ここが君の病室だ…の言葉で中を覗き込んだ私は絶句した。
なぜならそこは個室だったのだ。
ええぇっ??!!
冗談でしょぉ?これ、一日いくらの部屋?!
だいたい私、通院するつもりでいたのにぃぃ!!
たぶん、私のこの思考はダダ漏れだったに違いない。
私の百面相を目撃した社長さんは眉尻を下げてプッと吹き出し、金の心配なら要らんから…と、いつもの調子で口端を歪めた。
「 ま、取り敢えず入れ。君の病室だから 」
「 ……はい 」
促されて入室し、人差し指で行動を指示され私はベッドに腰かけた。
入り口の扉が完全に閉められたことで3人のみの世界になる。
社長さんはベッド脇にある、明らかに持ち込んだのだろうと思われる肘掛け付きのゴージャスなイスに腰を下ろすと躊躇いもせず右肘をつき、秘書さんが後ろに佇んだところで手の甲に顎を乗せ深い溜息を吐き出した。
「 さて…っと最上君。取り急ぎ君の希望を聞きたい 」
「 はい? 」
「 今回の君のケガの件、知らせなくても構わんか? 」
「 ………は、い? 」
社長さんの言葉の意図が判らず、私は大きく首を傾げた。
実はだるまやのご夫婦には、事故の翌日、取り急ぎ社さんが、私の着替えの用意をおかみさんに依頼して、それを取りに行ってくださった時に何があったのかを連絡済みだったし、起きられるようになった時点で私からも電話を入れていた。
それ以外に誰かに知らせる必要などあるだろうか…と考え、それが自分の保護者への連絡はしなくてもいいかと尋ねられたのだと気付き、慌てて両手を左右に振った。
「 ああぁぁぁ!! あのっ、いいです、母には別にそんなっ!! 」
こんな事が耳に入ったりしたら呆れられるばかりじゃなく、人様に迷惑をかけるしか出来ない仕事ならやめなさいとか言われそう…。
「 そうか。じゃあ今回はそうしよう。君もこれからリハビリに入って一週間程度で退院できる訳だしな 」
「 はい!すみません。そのようにお願いします! 」
「 それにたぶん、そう考えて奴らも俺に連絡を寄越さなかったに違いねぇだろうしな 」
その言葉に私は再び首を傾げた。
「 え? それってどういう……? 」
それが余りに愚鈍な問い掛けだったからだろうか。
社長さんは苦笑を浮かべ、私だったらたぶん一生気付きもしなかっただろう見えない答えを教えてくれた。
「 君から電話をもらってからの一週間、こちらであらかたの事を調べた 」
「 ……はい 」
「 最上君のそのケガは、新しく始まった蓮のドラマ撮影の現場で起きた事故。それで間違いないな? 」
「 はい、間違いありません。すみませんでした 」
「 俺に謝罪は要らん。何しろこっちは気付きもしなかったんだ。
なぜ気付かなかったのか、判るか? 」
「 え……いえ、判らないです 」
「 その事故の件が一切噂になっておらんかったからだ。その理由は、現場に救急車を呼ばなかったからだろう 」
「 救急車? 」
「 そうだ。救急車が来れば何かがあったに違いないと誰もが勘繰る。ましてや撮影現場だ。複数の撮影班があちこちにいたはずだ。加えて君は意識を失って目を覚まさなかったと聞いた。そうだろう? 」
「 はい、そうだったみたいです 」
「 本来なら救急車を呼んでおかしくなかった状況で敢えてそれを選択しなかったのは、君を守るためでもあり、ドラマやその関係者を守るためでもあったんだろうと推測できる。
何しろ救急車が来れば噂などすぐ飛んだはずだからな。だが、君をこの病院へ連れて来たのは蓮だった。そうだな? 」
「 そう…です。敦賀さんがご自分の車で私をここまで… 」
「 そしてあいつらはその事実を俺にも伏せた。意図は明白。
俺に知らせたら俺から君の保護者へ連絡せざるを得ないからだ 」
「 ……え… 」
「 君は未成年だからな。どんな事故であったにせよLMEの社長として知らせない訳にはいかん。だが俺が知らなければ連絡が行くことも無い。
これはあくまでも俺の考えだが、もしかしたら万が一にも君の女優への道が、保護者の意向で断たれることがないようあいつらが配慮したんじゃねぇか、と思う。…ったく、蓮も社も、自分たちの判断だけでよくも勝手なことをしてくれたもんだ 」
皮肉っぽいセリフを吐きながらも社長さんはどこか誇らしげで、私はと言えばベッドの上で、ケガをしてから今日までを一度に思い返して胸が一気に熱くなった。
そんなこと、考えもしなかった。
本当に?
敦賀さんと社さんはそこまで私の事を考えてくれたのだろうか。
もしそうだとしたら
私、どれだけ感謝すればいいんだろう……
「 そんな訳で君の意向を聞いてみたんだ。念のためもう一度聞くが、この件は君の保護者には知らせない。それでいいんだな? 」
「 はい、本当にいいです。お願いします 」
「 結構。だがこういうことはこれが最初で最後にしてくれ。…で、新たに質問だがいいか? 」
「 はい、なんでしょうか? 」
「 過ぎた事ではあるが教えてくれ。いったい何故そんな事態になったんだ? 」
「 ……はい??? 」
その問いに私の頭は真っ白になった。
真っ白になって、そしてただ返答に困った。
「 え…と、なぜって、あの…私が、立て掛けてあった木材にぶつかって、それが倒れてしまってその下敷きになりまして… 」
「 ああ、それが骨折の原因である事は調べたから判ってる。俺が聞いているのは、なぜ君がそんなものにぶつかったのか、だ 」
「 な、ぜ…って、走っていて、バランスを崩して…… 」
「 蓮の現場で? どうして出演者でも何でもない君が走る必要があったんだ 」
…あ……れ…?
「 あの、急いで現場に戻ろうとして焦っていたので… 」
「 ……戻ろうと…ということは、君は蓮の現場に足を運びながらそこから離れた場所にいたという事か? それは何故だ 」
「 あ…――――――― …あれ?あの…… 」
このとき、私は初めて気付いたのだ。
自分の記憶がやけにおぼろげであった事に。
にも拘らずそれに一切の疑問を持たず、当たり前のようにそれを受け止めていた自分に。
「 最上君、自分でおかしいとは思わんかったのか?
だいたい立て掛けてある木材にぶつかったらどうなるかぐらい小学生でも分かりそうなものだ。バランスを崩したにしても、そもそも何故そんな物の近くで走ったりしたんだ? 」
なぜ?
なぜって聞かれても……。
「 すみませ……あの、事故の時のことは、実はあまり良く覚えていなくて…… 」
そうだ。
私は覚えていなかったのだ。どうして?
木材にぶつかって、脳震盪を起こしたのか気を失って、暫く目覚めなかったことはこの病院に着いた時に敦賀さんから聞いた話だった。
どうして?
私は一体、自分の記憶をどこに落としてきたんだろう……。
「 ……ふん。じゃあ質問を変えるか。蓮と社はその件に関して君に何も聞かなかったのか? 」
「 いえ、聞かれました。そう…この病院に着いた時に…… 」
私が目を覚ましたのはちょうど敦賀さんの車がこの病院の駐車場に着いた時だった。
助手席で目を覚ました私を見て、敦賀さんはひどくホッとした様子だった。
「 最上さん!!良かった、目を覚ましたんだ。ちょうど病院に着いた所だからこれから検査をしてもらおう。歩ける? 」
「 ちょうど???って、なぜに私が… 」
「 なぜって、君さっき木材にぶつかって、その下敷きになって気を失ったんだ。呼びかけても全然目覚めなかったから心配で……。ひょっとして覚えてない? 」
「 ……はぁ… 」
特に体が痛い訳でもなかったし、頭が痛むような事も無かった。
実際には、車を降りた瞬間、左足に雷が落ちたような衝撃を感じたのだけど、この時点では自分の身体に異変を感じることは出来なかったのだ。
車を降りる前に私が目覚めた事を知らせるため、敦賀さんは社さんへメールを打った。折り返してすぐ社さんから着信が入り、敦賀さんはそれに応じた。
「 社さん。いま病院に着いた所で最上さんが目を覚まして、これから受付に行って検査をしてもらいますので……え?ええ、いいですよ、ちょっと待ってください 」
ちょっと待っての声で携帯から耳を離した敦賀さんは、それを私に差し出した。
「 最上さん。社さん、少し話したいって 」
「 あ、はい、すみません、お借りします。……もしもし?社さん、最上です 」
『 キョーコちゃん、ごめんね、簡潔に答えてくれる? 』
「 はい 」
『 どうして木材にぶつかっちゃったんだろう? 』
「 は?…えっと、それ、すみません、良く判らないです。たぶんバランスを崩して…だと思います 」
『 たぶん…って……。もしかして覚えてないの? 』
「 はい、実は良く覚えてないです…… 」
私が覚えてない…と言うと、敦賀さんはすぐに私の手から携帯を取り上げた。
それを再び自分の耳に押し当て敦賀さんが発したのはたった一言。
「 社さん、今は… 」
それを受けて判った…と答えた社さんの声が私にも聞こえた。
通話はそこで終わったのだ。
「 ……それで?以後、何も聞かれておらんか? 」
「 いえ、あの…骨折だと診断されて病院を出たあと、車の中でもう一度敦賀さんに同じ事を聞かれたんですけど、思い出せない…と私が答えて…それっきりです 」
そうだった。
質問されたのはその日だけだったし、何度も現場にお邪魔をしたけれど誰もそれを聞いては来なかったから、私自身、深く考えようとはしなかったのだ。
だけど覚えている事はある。
私は確かに立て掛けてあった木材にぶつかった。
その時の衝撃と、木材が自分へと倒れ込んで来るあの光景を記憶している。
刹那、危ないと叫んだ敦賀さんが私に覆いかぶさってくれた、あの人の大きさも温もりも私はちゃんと覚えていた。
来てはダメだと強く自分が思ったことも、これで大丈夫だと確信を持ったことも…。
大丈夫?
なぜ私はそんなことを……。
「 つまり君は自分の事故のことをちっとも疑問に思わんかったと? 」
「 ……考えもしませんでした。これっぽっちも 」
社長さんの言う通りだ。
そもそも立て掛けてある木材にぶつかればどうなるかなんて小学生でも分かる。
そして、悪ふざけをしていてぶつかったとか、人から押されてぶつかったとか、少なくともそういう何かの弾みで起こった事故だったなら、どうしてぶつかったのかと問われることも無かったはずなのだ。
どうして……?
どうして私、それにぶつかったのだろう ――――――― …
「 ……っっ?! 」
思い出してみようと過去を振り返った瞬間、猛烈な嫌悪感が込み上げた。
反射的に両手で口元を抑えながら、同時に私はあることを思い出していた。
「 最上君、どうした?! 」
「 あ、いえ、すみません。何か今ちょっと…… 」
「 平気か? 」
「 はい。大丈夫、だと思います 」
「 ……なるほど。事故の件を二人が俺に伏せた理由はそれ以外にもありそうだ 」
「 え? 」
そのあと社長さんは口をつぐんでしまったから、その言葉の意味するところは私には判らなかったけれど
「 まぁ、いい。そのうち答えは出るだろう。最上君 」
「 はい 」
「 病室の名札は出さないようにお願いしてある。一週間のリハビリぐらい自分一人で頑張れるな? 」
少なからず自分には、その言葉の意味するところは理解できた。
「 はい、頑張ります 」
私がそう答えた所で病室のドアがノックされ、続いて看護士さんが顔を出した。
「 最上さん、リハビリ棟の説明をしたいのですけど、いま平気ですか? 」
「 はい、平気です 」
「 じゃあ俺たちは帰るか。退院日には迎えに来るから。最上君、頑張れよ! 」
「 はい、ありがとうございました 」
このあとは、病棟の説明をひと通り聞いてから、リハビリ室まで案内され、担当して下さるリハビリの先生と面会し、やはりひと通りの説明を受けたりと慌ただしく時は過ぎ、気付けば夕食時間になっていた。
社長さんが用意してくれた個室のベッドに腰かけ、当たり前に栄養バランスが整っているのだろう配膳された夕食に箸をつけた私は、敦賀さんの言葉を思い出してクスリと笑った。
――――――― 食べ物は君の身体を作る大切なものだろう。そういう専門知識のある人に作ってもらった方が絶対いい!!
「 ……でも、敦賀さんが作ってくれたものの方が美味しかった 」
物凄く気がかりではあったけれど、一人で頑張れと言われてしまった手前、自分から二人に連絡をする訳にはいかないし、しようとも思わなかった。
加えて病棟説明で携帯使用は禁止だと聞かされたこともあって、電源は落としたままだった。
敦賀さんと社さんは今どうしているだろう…。
もしかしたらすごく心配しているかも。
そう考えて私は首を横に振った。
社長さんが後で二人には連絡をしてくれるってことだったし、社さんのことだからその前に何があったのかを把握したのではないか、と私は考えた。
なぜなら、今日の社長さんの恰好はいつも通りに普通の人のそれではなかったのだ。
西洋かぶれのきらびやかな衣装。
現代では誰が好んで身に付けようかという翻るマントを羽織り、大きな鳥の羽らしきものがついた帽子をかぶっていた。
こんな人の後ろを付いて行った私を誰もが記憶しているに違いない。
確かに人は少なかったけれど、それでも間違いなく恥ずかしいほど目立っていただけにその確信があったのだ。
けれど私の予想に反し、社長さんは敦賀さんにも社さんにも連絡を入れることは無く、二人は私の行方を掴むことが出来なかったらしい。
実はリハビリに移ることがほぼ決定事項だったから、検査終わりの翌日、社さんは敦賀さんのスケジュールをオフにしてくれていた。
そのオフを使って二人でお祝いをしようと言ってくれた敦賀さんと、私は一緒に過ごす約束をしていたのだ。
けれど私が居なくなってしまったことで空になったその一日を使い、お二人は病院を訪れ、そして私の姿を目撃していないかと受付やら看護士さんやらを訪ね回ってくれたらしい。
にも拘らず目撃者がゼロだったのは、社長さんが物凄く目立っていたからに他ならない。
そもそもこの病院では、定期的に小さな劇団を呼んでは芝居を催していたらしい。
余りにも堂々としていた社長さんの恰好は、きっと劇団員そのものの姿に見えたのだろうと思う。
つまるところ社長さんの存在をおかしいと認識した病院関係者はゼロ人で、私という存在は社長さんの派手さにかき消されてしまった…というのが事の真相だったようだ。
事実は小説より奇なりとはまさしくこの事だと、後日、私は敦賀さんからこの話を聞いてそう思った。
消灯時間が来て、ベッドに横になりながら個室の天井を見上げ、敦賀さんの家とは全く違う様子であることに寂しさを感じて、私はまた、敦賀さんはいま何をしているのだろうと想いを馳せた。
…せっかく約束をしてくれたのに。敦賀さん、ごめんなさい。
なかなか眠ることが出来なくて
瞼を閉じては寝返りを打ち
月明かりを浴びては寝返りを打つ。
それを繰り返しながら私は社長さんとの会話を思い出し、嫌悪感が込み上げたと同時に脳裏に浮かんだそれを思い出していた。
そうだ。
骨折だと診断され、待合室で敦賀さんを待っている間に話しかけてくれたあの人が持っていたあの雑誌。
敦賀さんが表紙を飾ったあの雑誌を見た時、私の脳裏で確かに何かが掠め飛んだ。
もしかしたらあの本を見たら何かを思い出すかも知れない。明日、売店に行ってみよう。
自分を優しく照らす月明かりを浴びながら、私は病院のベッドの上で静かに眠りに落ちて行った。
⇒ 天使の落とし物◇8へ続く
キョーコちゃんに対する蓮君の愛情深さと、蓮君を慕うキョーコちゃんの想いを感じて頂けた所でこのあとまた少し間が開きます。
頭の中に残っている欠片を集めて組み立て直して執筆していることもあり、予告通りにいかない事ばかりでほんと、申し訳ない (。-人-。) デス
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