H30年度の技術士二次試験で実際に出題された試験問題の解答例です。
問題とその読み込み方について見たい方は、 こちら をどうぞ。
【解答例】
1 社会的背景と克服すべき課題
高度成長期に建設した水道施設が経年化し、更新時期が到来している。水道を取り巻く環境は変化しており、浄水場の更新に当たり以下のような課題を克服する必要がある。
①人口減少社会の到来=水需要の減少、料金収入の減少が問題となっている。料金の適正化等により財源を確保するとともに、コスト縮減の観点から施設の運転効率を高める必要がある。
②水源水質の悪化=ダム湖などにおける藻類の大量発生しており、畜産農家、工場等の排水による河川水の水質悪が問題となっている。クリプトスポリジウム等対策を確実に実施するとともに、かび臭物質や消毒副生成物が水質基準を超過する場合は、高度浄水処理を導入する必要がある。
③自然災害の頻発=大規模地震、集中豪雨が招く河川氾濫、土砂災害によりライフラインが甚大な被害を受け問題になっている。水道事業体は水道施設の耐震化率を高める必要がある。また、集中豪雨による河川の濁度上昇、浄水場等の構造物の浸水、土砂崩れによる管路の流失等への対策が必要である。
④地球温暖化=海水温上昇により、海水面の上昇、台風や集中豪雨の発生等が問題となっている。省エネルギー、自然エネルギーの活用を行うとともに、自然災害対策の充実を図る必要がある。
⑤都市化の進展=土地の取得、工事の実施、断水が困難になっており、問題となっている。必要に応じて、省スペース化、非開削、不断水を選択することが重要になっている。
2 技術的課題と技術的提案
(1)水源水質の悪化によるかび臭物質の発生
地球温暖化により藻類が上昇する可能性がある中で、恒常的に発生しているかび臭物質への対応が技術的課題になる。さらに、高度処理に導入する際、粉末活性炭(ウェット・ドライ)、粒状活性炭、生物活性炭のうち、何を選択するかが問題となる。
この対策として、かび臭物質について、水安全計画上の管理基準の決定、将来値のシミュレーションを実施する。その上で、高度処理の各方法について、施設整備費、維持管理費、運転管理費を合計したLCC、維持管理性について比較検討し、最適な方法を選択する。A市では、現行と同じく急速ろ過を採用した上で、活性炭の長寿命化のため生物活性炭を導入することを提案する。
(2)人口減少社会の到来に伴う非効率な施設の存在
人口減少社会が到来し、水需要が減少するなかで、施設が非効率にならないよう、最適な施設能力を決定することが技術的課題になる。さらに、施設能力を構成する計画一日最大給水量と予備力をどのように決定するかが問題となる。
この対策として、コーホート分析により人口予測を行った後、用途別の水需要予測を行い、一日最大給水量を推定し、計画水量を決定する。
清掃、補修による休止期間があることを踏まえと予備力を確保する必要がある。予備力としては1系列分が必要であり、系列数について比較検討した上で、合理的な施設能力を選択する。A市では、浄水場が法定耐用年数を経過し、かび臭物質対策が急務であることから、速やかに更新事業に着手する。計画水量は、水需要の減少傾向を確認した上で、当年度一日最大給水量15万m3/日とする。浄水場の構成は5系列、予備力として1系列分を確保する。浄水場の能力は、18万8千m3/日に縮減することを提案する。
3 技術的提案のリスク・デメリットと留意点
生物活性炭は、冬場において能力が低下する。このため、実験を行い、水源に最も適したシステムを選択する必要がある。
また、処理継続により吸着効果が低下する。このため、吸着効果を長時間維持できるよう、オゾン処理の併用について検討する。オゾン処理を導入する場合は、後段に粒状活性炭処理を設ける。また、オゾンは接触時間が長くなると臭素酸が発生するため、水需要が低下した場合でも適正量を注入できるよう配慮が必要である。
浄水場の予備力の確保、系列の細分化は、コスト増大、維持管理性の悪化等のデメリットがある。このため、コスト縮減策として、長寿命、メンテナンスフリーを実現できる材質、機器を採用する必要がある。さらに、PFI等の官民連携、維持管理の効率化策として、迂流式の採用、ICTの活用等を実施し、適切な維持管理を実現する必要がある。
また、浄水場が1か所では、導水管の漏水、浄水場の施設事故が発生した場合、市全域が断水になる。このため、近隣都市との間に相互連絡管を整備し、バックアップ体制を確保した上で、両市で予備力を共有するべきである。
※この問題に関する「❶技術的提案のターゲット」は こちら をご覧ください。
※この問題に関する「❷ 課題→対策→問題点→提案」は こちら をご覧ください。
※この問題に関する「❸浄水場の予備力」は こちら をご覧ください。
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