H29技術士の試験問題と解答(Ⅲ-1:水循環) | 技術士を目指す人の会

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2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

【問題】

-1 都市部への人口の集中,産業構造の変化,地球温暖化に伴う気候変動など様々な要因が水循環に変化を生じさせる中,水循環基本法が平成267月に施行され,平成277月に水循環基本計画が策定された。これらを踏まえて,健全な水循環を維持又は回復のための取組を総合的かつ一体的に推進していかなければならない。このような状況を踏まえ,上水道に携わる技術者としての視点から,以下の問いに答えよ。

 

(1) 健全な水循環の維持又は回復が求められている背景と水循環の課題について多面的に述べよ。

(2) (1)で挙げた課題の内,重要と考える課題を2つ挙げ,それぞれについて解決するための技術的提案を示せ。

(3) あなたの技術的提案を実行する場合の留意点について述べよ

 

【解答のコンセプト】

1 水循環の維持・回復が求められている背景と課題

水は、蒸発、降下、流下又は浸透により、海域等に至る過程で、地表水又は地下水として河川の流域を中心に循環している。水循環は、人の営みを含む生態系に多大な恩恵を与えるとともに、産業発展に重要な役割を果たしてきた。

しかし、近年、地球温暖化に伴う気候変動、都市化の進展等の影響により、水循環の健全性が損なわれており、以下のような課題が顕在化している。

①渇水の発生(近年、取水制限を伴う渇水が全国各地で発生している。地球温暖化に伴う気候変動の影響等により、危機的渇水が起きてからでは、取り得る対応策が限られ経済・生活に重大な支障が生じるおそれがある。

②公共用水域の水質悪化(公共用水域の水質は、下水道の普及等により改善しているが、未だ、湖沼等の閉鎖的水域は改善されていない。富栄養化により藻類が大量発生し、異臭味問題が生じている。また、事業場からの排水等による水質汚染事故が発生している。これにより、水道水の安全性が損なわれている。

③水源涵養機能の低下(過疎化、高齢化が進行している地域を中心に、森林、農地等の手入れがなされず、健全な水循環の維持・回復に資する水源涵養機能が低下するおそれがある)

④雨水の地下浸透量の減少(道路整備等に伴い舗装部の面積が増加したことにより、雨水の地下浸透量が減少した。これにより河川における平常時の流量減少、洪水時の流量増加が発生し、問題になっている。

⑤地下水利用に伴う地盤沈下(地下水の過剰揚水により地盤沈下が発生している。しかし、地下水の使用実態が明確ではない。このため、地下水の適正な利用に支障がでている。)

⑥国民意識の低下(流域各地域において水循環との深い関わりの中で育まれてきた多様な地域文化の継承が困難になってきている。国民レベルでの水循環健全化に関する教育・普及啓発の推進が課題になっている。)

 

2 課題解決のための技術的提案

前述した課題のうち、水道と関連性が高いのは、①渇水の発生と②公共用水域の水質悪化であることから、これらを解決するための技術的提案を以下に詳述する。

(1)渇水の発生

渇水対策として効果が高いのはダム建設だが、建設適地の確保が極めて困難である。このため、既存の水資源を有効活用する必要があり、以下のことに取り組む必要がある。

①ダム貯水池の浚渫による実貯水量の回復

②複数水源の確保と相互連絡管の整備(渇水が生じていない水源からのバックアップ)

③水道施設における水の有効利用(排水池、排泥池等の上澄水の返送・再利用、追加塩素設備を整備による配水管末における排水抑制等)

④漏水防止の推進(管路の漏水調査・漏水修理、老朽管の計画的な更新、配水管網のブロック化等)

(2)公共用水域の水質悪化

河川、湖沼等の水質悪化を防止することにより、水道水源の安全確保を推進するとともに、浄水処理を強化する。以下のことに取り組むことが重要である。

①流域全体での水質汚染対策(有害物質に係る排水規制強化、取排水系統の再編、水質汚濁防止に関する啓発活動、河川・湖沼の浄化・浚渫等)

②汚水処理の普及促進(地域特性にあわせた下水道、農業集落排水、合併浄化槽等の普及促進の要請)

③浄水場の高度処理化(粉末活性炭処理、粒状活性炭処理、オゾン処理の導入等)

 

3 技術的提案を実行する場合の留意点

 ダム貯水池の浚渫流域全体での水質汚染対策、汚水処理の普及促進は、ダム管理者、下水道局、流域内の工場や住民等の協力が必要になる。このため、ダム、河川、湖沼等での対策が、渇水対策の強化や水道水質の保全に繋がることを広報し、十分な理解を得ることが重要である。

施設の老朽化による事故は、漏水の増加に繋がる。上流域で発生した水道施設の事故は、下流域の水質汚染リスクになる。このため、水道施設の更新を実施する必要がある。さらに、複数水源の確保と相互連絡管の整備、水道施設における水の有効利用、浄水場の高度処理化は、大規模な施設整備が必要になる。このため、更新にあわせた改良が現実的である。これらのことから、アセットマネジメントを実施し、更新事業を適切に実施する必要がある。

また、異なる水源からのバックアップ、流域全体での水源対策を単独の事業体で実施するのは困難である。このため、広域化を推進することが重要である。

 

【ちょっとした感想】

水循環に関する問題です。H27年度に水循環基本計画が公表されたことが出題背景になっていますね。この問題、上下水共通の必須問題のテーマです。このテーマを水道に出すのは、正直以外でした。水循環基本計画を読むだけでは、水道限定で1800字を書くのはキツイですね。難易度は★★★★です。

 

 

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