前回の記事の続きです。
緘黙症状のある子は、困ったことがあってもなかなか人に言えません。
・怪我をしても誰にも言えず、血を流して帰ってきた
・熱があるのに先生に伝えられず、帰ってから熱を測ったら38度あった
・お箸を忘れたのに言えなくて、お弁当が食べられなかった
「こういうとき、どうしたらよいでしょうか」という質問に答えていきます。
「コミュニケーションのカード」は、使えないことが多い
「声が出せない代わりに、意思表示のためのカードを使ったら?」と考える人もいます。
学校の先生が創意工夫して、こういうカードを作ってくれることもあります。
↑例えばこういう感じのカード
でも意外とこのコミュニケーションカードは、緘黙症状のある子は使えないことが多いのです。
例えば、学校でトイレに行けない場面緘黙の子に、
「トイレに行きたいです」
というカードを担任の先生が作ってあげたケースがありました。
ところがそのカードは、一度も使われることなく、机の奥に入っているというのです。
↑例えばこういう感じのカード
なぜその子はこのカードを使えないのでしょう?
その子の身になって考えてみると分かると思います。
そんなカード、恥ずかしくて友だちの前では使えないじゃないですか。
目立つし、不自然だし、かっこ悪いです。
視線とか表情とか、もっと目立たない方法でも、困っていることを伝えることは十分できます。
わざわざこういうカードを使わないといけない理由はありません。
※こういうカードが有効なのは、例えば視覚支援が必要な自閉スペクトラム症(ASD)の子です。
場面緘黙とASDは表面的には似てる部分もありますが、異なるものです。
もちろん場面緘黙にASDが併存しているケースもありますので、その場合は障害特性に応じた対応が必要です。
ホワイトボードを用意してあげたのに、筆談ができない
「筆談ならできるかも?」と思って、ホワイトボードを用意してあげたケースもあります。
これもうまくいかないことが多いです。
「筆談ならできるかも?」という発想までは正解です。
でも「ホワイトボード」はいけません。
目立ちすぎます。
クラスみんなは普通に話しているのに、自分だけホワイトボード。
これでは誰が見ても「話せない子」になってしまいます。
筆談をするなら、ノートの端とか付箋とか、目立たないものがお勧めです。
同じ理由で、タブレットや電子メモパッドのような機器も、教室で使う必要はないと思います。
チャットGPT等の文章生成AIも、緘黙症状のある子の教室での意思表示には向いていません。
目立つ道具を使う必要はないのです。
コミュニケーション支援で大事なのは、道具ではない
緘黙症状のある子に対して、コミュニケーションの支援は大事です。
でもコミュニケーション支援の本質は「道具」ではありません。
聴き手の態度です。
担任の先生や周りの大人が、少し丁寧にその子に関わってあげること。
気にかけてあげること。
ゆっくり話を聴くこと。
それができれば、「困っていることを伝えられない」問題はかなり解決します。