基本に忠実な計画が、
結局は近道になりますね。
その「基本に忠実」というのが、実際には結構難しいのですが。
【対象】
あいさん(仮名)女性
小学1年生で相談開始
【概要】
小学校入学してからの1年間で緘黙症状が大幅に改善しました。
緘黙症状以外の問題が少なかったため、入学当初から「話せる場面」を増やすための取り組みを行いました。学期に1回の面談で、その時々の効果的な対応を検討しました。「担任の先生との話す練習」「クラスで声を出す機会を上手に作る」「話せる友だちを増やす」といった基本に忠実な計画を進めていって、緘黙症状をかなり改善させることができました。
【相談の経過】
<本人の様子>
・家ではとてもおしゃべり。外出時も周りに知っている人がいなければ家族とは話せる
・緘黙症状以外の問題を指摘されたことはなく、ことばの発達は良好で知的能力も高い
・真面目な性格で、順番や片付けの手順などをきっちり決めているタイプ
・小さい頃から人見知りが強く、慣れない場所はとても緊張。公園でも親から離れなかった
・保育園で緘黙症状が現れた。年長で少しずつ改善、担任の先生には声が出せるようになった
・相談開始時、小学校入学では声を出すことはまだできていなかった
・同じ園から小学校に行った子が少なく、友だちがいない
・あいさん自身も先生や友だちと話せるようになりたいと思っている
<初回の相談(4月)>
初回はまず、あいさんのことや生育歴、学校の環境などを詳細に聴き取りました。
緘黙症状以外の問題は少なく、園でも声が出せたことから、小学校でも緘黙症状の改善に積極的に取り組んでいくことにしました。
1学期の取り組みとして、以下の計画を立てました。
・「担任の先生と話せるようになること」を最優先課題として取り組む
・「音読」などクラスで話すことが必要な場面への対応
・友だちをつくる
・早めに学校と懇談の機会を作り、これらの方針と計画を共有する
「担任と話せる」を最優先課題としたのは、園でも担任には話せるようになっていたためです。
早い段階で集中して取り組めば担任と話せるようになる可能性が高いと考えました。
担任と話せるようになれば、そこからの計画もとても進めやすくなります。
「放課後に個別に話す練習をする」「担任と交換日記をする」などを行うことにしました。
同じ園から小学校に上がった子が少ないため、友だちがいない状態でのスタートになりました。
そこで、近所の子や仲良くなれそうな子と、学校以外で遊ぶ機会を作ることをお勧めしました。
<2回目の面談(2学期のはじめ)>
1学期の間に、こんなことができるようになったそうです。
・担任の先生とは放課後の「話す練習」で少しずつ声が出せるようになってきた
・特定の子と1学期中に何度か遊ぶ機会を作り、家では話せるようになった
・音読テストで2人ずつ廊下で読むようにしたところ、1人の子に小さい声が出せた
・友だちとお祭りに行ったときに、タピオカドリンクを注文できた
さらにステップアップを目指して、次のように計画を立てました。
・2学期の目標をあいさん自身に考えてもらい、それができるように計画する
・担任との「話す練習」は、人を増やす・場面を変えるなどのステップアップをする
・クラスで音読など声が出せる場面を作っていく
あいさんの考えた目標は「クラスでお友だちと話せるようになりたい」でした。
そこで「音読などのときにクラスで声を出す」に挑戦してみることにしました。
こういうときは「支援のしすぎ」にならないように、話せる場面を広げていくのが大事です。
<3回の面談(3学期のはじめ)>
2学期の間に、さらにこんなことができるようになりました。
・話す練習では担任だけでなく、クラスの半分くらいの子としりとりができた
・学校の帰りに友だち何人かとしりとりができた
・特定の友だちとは普通に会話ができるようになった
・クラスの音読発表会で録音した声で発表できた
ここまでくればもう治ったようなものです。
あとはクラスで声を出す場面を作っていくことで、「話せる子」にしていくことができます。
3学期は学習発表会などもあるので、そういった場面での発表の方法などを相談しました。
また、緘黙症状の最終的な解決には「友だちと話せるようになること」が大事です。
そこで仲の良い友だちを増やすの目指すことにしました。
仲良くなりたい子を考えて、遊ぶ機会やお出かけする機会を作っていくことを確認しました。
<その後>
1年生の終わりには、担任の先生やクラスの何人かの子とは話せるようになりました。
また状況によっては、音読や発表なども声を出してできるようになりました。
学習発表会では、保護者も参観している前で大きな声で発表することができたそうです。
(緊張度100%とのことでしたが)
まだ緘黙症状が出る場面はありますが、今度の取り組みで改善させることができそうです。
【解説】
背景に発達の問題(自閉スペクトラム症など)がない、典型的なタイプの場面緘黙の子でした。
放課後に担任の先生と話す練習をしたり、クラスで発表できる場面を作ったりと、学校生活の中でできる取り組みを丁寧に行うことで、改善につながりました。
このような学校でできるスタンダードな方法で症状が改善できるケースはかなり多いです。
おさえるべきポイントは3つ。
・「話せるようになりたい」という本人の意思(W)
・その時々に応じた綿密な計画(P)
・担任の先生などの学校との連携(C)
これができれば場面緘黙の症状は改善します。
低学年のうちに緘黙症状を改善させることができれば、ここから先は「話せる子」です。
早い段階で適切な計画を立てて、なるべく早く緘黙症状を改善させてあげたいですね。
【注意点】
事例の紹介にあたっては、家族の同意を得ています。
ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください。
また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。
この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。
同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。
練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。