今週末は一迅社文庫アイリス2月刊の発売日!
ということで、今月も一迅社文庫アイリスの新刊の試し読みをお届けいたしますо(ж>▽<)y ☆
第1弾は……
『まがいもの令嬢から愛され薬師になりました2
古竜の花がもたらす恋の病』

著:佐槻奏多(さつき かなた) 絵:笹原亜美
★STORY★
まがいものの伯爵令嬢だとバレないように、死んだふりをして婚約話から逃げ出した少女マリア。彼女は隣国の王子レイヴァルトのおかげで、夢だった薬師となり、充実した日々を送っていた。そんなある日、ガラスの森に棲む幻獣のハムスター達に異変が起こっていると知らされたマリアは、森へ往診に向かって――。
幻獣に愛されまくる少女の薬師ライフラブコメディ第2弾!
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「来てくれたんだね」
「殿下」
背後から声が聞こえて振り返ると、そこには灰がかった亜麻色の髪に青い瞳の青年がいた。
レイヴァルト・シーグ・セーデルフェルト王子。
セーデルフェルト王国の第一王子の彼は、黒のマントに宝石を連ねた頸飾勲章と藍色の衣服をまとっている。
近づいてくるその姿は、神の肖像画のごとき美々しさだ。
そのせいか、マリアは彼を見る度に夢でも見ているような感覚になる。
線が細いように見えるものの、体力はけっこうある。毎日のように剣の腕を鍛えているからだ。胃も丈夫なので、普通の薬なら胃薬を合わせて処方しなくても大丈夫だ。
ぼんやりしてはいけないと、自分の頬をつねっていると、レイヴァルトが表情を曇らせた。
「ダメだよマリア。そんな風にしては、君の柔らかな頬が傷ついてしまう」
そっと手を握られて、マリアはどきっとする。
「あの、私ごときの頬がちょっと傷ついたところで問題などありませんし」
たぶんマリアの力でつねったところで、最大でも一日で頬の赤みは引く。
「私が悲しいんだ。君に傷一つつけてほしくない。いつも元気でいてほしいからね」
レイヴァルトは気遣う言葉を口にしつつ、掴んだマリアの手に自分の頬を寄せる。
どぎまぎしてしまうマリアだが、一方で冷静な自分がハッと察した。
――匂いを嗅ぎたいんだわ。
レイヴァルトは幻獣のようにマリアの匂いが大好きなのだ。
というか、彼の体を流れる幻獣の血が、マリアの匂いに引かれてしまうらしい。
彼は珍しいことに、幻獣を祖先に持つ人なのだ。どうやらセーデルフェルト王家が、幻獣の子孫らしい。
マリアがささっと手を引っ込めると、レイヴァルトは悲しそうな表情になった。
「私のことが嫌いになったのかい?」
「嫌いとかそういうことでは! ただ恥ずかしいんです!」
異性に手を握られ、頬ずりされたあげくに匂いを嗅がれて、恥ずかしくない人がいたとしたらお目にかかりたい。
そしてマリアは、どうしても彼を意識してしまう。
レイヴァルトの方からは告白されているので、意識したっていいのかもしれないが……。
(この方の気持ちは、本当に人としての恋愛感情なのかしら)
好きだと言ってくれた。
マリアも彼のことはとても気になる存在で、その言葉を素直に受け取りたくなるけれど、ここが不安なのだ。
彼の恋愛感情の発端が、もし幻獣の血の影響だったら? もしマリアが幻獣に愛される人間じゃなかったら、レイヴァルトは自分を好きにならなかったのでは。そう疑ってしまう。
思い悩んでいたら、ハムスターがそろそろと近づいてきていた。
苦しそうな表情で、這うように近づいたハムスターは、一枚の大きなガラスの板を持っていた。ガラスの木の破片が、上手く板状になったものだろう。
草の汁で文字が書かれたそのガラス板を差し出し、指先で押し出すようにマリアの足元へ届かせたハムスターは、一目散に遠ざかる。
ハムスターは文字が読める。一体何を書いたのかと思えば。
『結婚いつ?』
「はぁっ!?」
マリアはいつ結婚するのかと質問してきたらしい。
しかもレイヴァルトがいる時にわざわざ渡したのだから、相手としてハムスターが考えているのは、間違いなく彼だろう。
「私はいつでもいいんだよ。君さえ良ければ」
横からそれを見たレイヴァルトは、頬を赤く染めて恥ずかしそうにした。
マリアは反論してしまう。
「そもそも王子様が平民と結婚なんて無理でしょう!」
「いや?」
レイヴァルトが微笑んで首を横に振った。
「身分を気にするのなら、理解のある家の養女になってもらって、それから嫁いできてもらってもいいんだよ。だから心配しなくても大丈夫だ、マリア」
養女にしてまで結婚を!?
本気なのか……とマリアはおののいた。
同時に怖気づくのは、一度結婚から逃げたからだ。
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
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