一迅社アイリス編集部

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一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。


こんにちは!

本日は発売間近のアイリスNEO5月刊の試し読みをお届けしちゃいます!о(ж>▽<)y ☆

試し読み第2弾は……
『悲劇の元凶となる最強外道ラスボス女王は民の為に尽くします。13』

著:天壱(てんいち) 絵:鈴ノ助

★STORY★
皆の幸福の為、ラスボス女王としての運命を受け入れた王女プライド。乱心したかのようなプライドの変貌にラジヤ帝国の関与が判明し、プライドを愛する人々は王女奪還に向け動き始める。国外に逃されたティアラもまた、決意を胸にフリージア王国に帰還して……。
全ては皆の《最高の幸福な結末》の為、本来の運命の流れのままに。悪役女王は終幕に向け道化を従え踊るーー。
悪役ラスボス女王の物語最新第13弾! 書き下ろし番外編を加え登場!

アニメ2期が2026年4月より放送中の大人気作の新刊キラキラ


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序章 開場

「ッどうなっている?!」

 ステイル・ロイヤル・アイビー。フリージア王国第一王子である彼は声を荒げる。漆黒の髪と同色の瞳を持つ十七歳の青年は部屋を飛び出した。着替えた服を整える時間も惜しみ、剣を腰に差しながら指示を出す。他の衛兵達と同じように駆ければ、ジャラッジャランジャランと鬱陶しい手枷の鎖が鳴った。歯を食い縛り睡眠不足の頭を活性させ、黒縁眼鏡の奥を怒りに光らせる。
 今城内は騒然と、そして異常を極めていた。
 第一王女プライドが豹変したことから全ては始まった。最上層部である女王、王配、摂政が意識不明に落ち、ラジヤ帝国数名とプライドにより王宮が占拠。元凶がラジヤ帝国の皇太子アダムという真実まで行き着き、来るラジヤ帝国軍の侵攻を前にとうとう朝を迎えた。
 やることは、決まっていた。ラジヤ帝国が攻め込んでくる正午までに、民の避難とアダム達の捕縛。プライドが操られているとわかった以上、迷いなど誰の胸にもなかった。彼女達を捕縛し、アダムに洗脳を解かせる。その為にステイルも騎士団と共に完璧な策と包囲網を用意した。来るラジヤ帝国軍に備えて民の避難を完了次第、アダムとプライドを捕らえそこで全てが収束する、その筈だった。
 早朝にもかかわらず衛兵達が慌ただしく駆け回り、声を掛け指示を出し合う。

「ップライド!!」

 プライド並びに王宮を占拠していた全員の、消失に。



第一章 傲慢王女と開幕宣言


 この世界が前世でやったゲームと同じだと気づいたのは八歳の頃。〝君と一筋の光を〟という乙女ゲーム。シリーズ化もされファンには「キミヒカ」と呼ばれ、愛された。ウェーブがかった深紅の髪とつり上がった紫色の瞳を持つ私は、その第一作目のラスボス。
 プライド・ロイヤル・アイビー。主人公達に断罪されるべき、最低最悪外道の女王。

「本当、ステイルもジルベール宰相も優秀なんだから」

 フフッと思い出すだけで笑いが込み上げる。小さな覗き穴から外を眺めれば、城下は大して変わらない。けれど、視線を下げれば点程度の大きさで衛兵が右往左往しているのが見えた。
 石畳に直接腰を下ろし、動きやすいように選んだ金具の少ない深紅のドレスに皺を作る。戦闘服も魅力的だったけれど、やっぱりゲームと同じドレスじゃないと味も出ない。寛ぎながら衛兵達の姿を楽しんでいると、ギギィ……と古びた扉が開かれる音が耳を引っ掻いた。目を向ければ思った通りの人物達がリズミカルに足音を立てて歩み寄ってくる。

「……指示通り、書状を用意致しました。そろそろお聞かせ願えますか? プライド王女」

 アダムは引き上がった口端をそのままに、右へ流した深紫の髪を撫でた。不満と快楽の混じった声で抑揚をつけてくる。王室から突然こんなところに押し込められたのだから不満も当然だろう。

「何故、突然このような場所に我々が身を隠さねばならないのでしょう? 今更慌てずとも我が軍が正午には到着します」
「あら? 問題ないでしょう。ちゃんと将軍とローブちゃんにも必要物資もコレも運ばせたし。唯一の入り口以外からは絶対中に入れない。それに武器や弾薬も充分に備えてあるもの」

 コレ、と言いながら私は棚の上に置かれた鳥籠に目を向ける。二羽の鳥が詰められたまま大人しくしていた。ローブちゃん……秘密道具は呼んでみたところでやはり姿は現さない。離れの塔からアダム達と逃げ出す時は一緒に透明になって姿を見れたけれど、全身をローブで隠して顔も見れなかった。背は低かったから体格的に見て勝手に女性だと認定している。アダムが私に紹介したがらないわけだ。私に好意を持っているとか嘯きながら、他の女性を常に同行させていたら信用の欠片もない。
 髪を弄りながら敢えて返事にならない返事をしてみれば、アダムの口端がわかりやすくヒクついた。「それはそうですが」と言葉を漏らし、不満を露わに笑みが歪んでいく。その表情にやっと満足できて、お腹を抱えてアッハ! と軽く笑い飛ばした。アダムの無様な姿に、ゆっくりと身体ごと向けてあげる。「だあってぇ」と大袈裟に声を上げ、真実を突きつけた。

「あのままいたらステイルと騎士団に捕まっちゃってたんだもの」

 当然のように言って見せれば、狐のように細い目が僅かに驚愕で開かれた。口を閉じたまま血のように赤い瞳が丸く姿を見せる姿は凄く間抜けだ。アッハハハ! と嘲笑い、彼らに続ける。

『無駄です。城の者達は全員ジルベール宰相が説得済みです。もう誰も貴方方の味方ではありません。母上達も、既に騎士団に保護されている筈です』

 頭の中に、今朝予知した未来が蘇る。真っ直ぐに私を見据える、ステイルの姿だ。

「今朝予知したの。ラジヤ帝国軍侵攻より先にステイルと騎士団に嵌められて捕まっていたわ」

 気づいた時には包囲されていた。アダムや将軍、秘密道具も次々と騎士に捕まっていく中、私は剣を抜き、ステイルへ飛びかかったところで予知は途切れた。

『バッドエンド、ねぇッ?!』

 ゲームでも、ティアラと攻略対象者が城で女王台頭の為に乗り込んでくることを私は予知していた。そして自分の敵になる前に上層部全員を始末した。……やっぱり大筋は面白いほどにゲーム通りだ。
 姿が見えない秘密道具はわからないけれど、将軍は驚いたように目を丸くしたまま口もにわかに開いていた。私は自慢するように胸を自分の指先で示しながら、彼らへ言い放つ。

「感謝なさい? 私がいなければ貴方達はあの場で捕縛。フリージア王国を手にするなんて夢のまた夢だったのだから」

 ラジヤ帝国軍が攻め込んできたとして、いくら暴れようとも最後にアダムを引き換えにされたら白旗を上げざるを得なくなる。それは私も困る。私の目的はフリージア王国に甚大な被害を及ぼし、美しくこの身を断罪させて幸福な結末へと導くことなのだから。
 彼らに冷笑を向ければ、顔を紅潮させたアダムが「素晴らしい!!」とか「流石は私の最高傑作……!!」とか意味不明なことをぺちゃくちゃ語らってきたけれど無視をする。彼の言葉はどれもお世辞で嘘っぽいしわざとらしいから聞くだけ無駄だ。途中、また私の手に口づけをしようとしてきたから指先だけでピシンと弾く。それでも嬉しそうに紅潮のまま私に目を光らせてきた。ここまできても私におべっか使うなんてどれだけ機嫌を取りたいのか。それだけラスボスである私への恐怖心が強いのか。またはゲームの強制力で小ボスだった彼は私に服従するようにできているのか。

「そんな言葉は聞き飽きたわ。それよりもさっさと書状をラジヤ帝国軍に送ってちょうだい。城内の建物と城下の指定建築物は破壊するな。そして正午を待たず、侵略を始めろとね」

 軽く溜息を吐き、命じる。城内の建物と言えば取り敢えずここも巻き添えにされる心配はない。指定建築物は壊されたらフリージアの復興や発展が遠退きやすい大施設や新機関だ。これさえ残れば民が何千何億死のうと国が破滅しようとまぁどうにでもなるだろう。
 人差し指を伸ばし、アダムへ鳥籠を指し示せば「直ちに……!」と高揚した声が返ってきた。その次に将軍を指し、今度は見やる。

「下階の方は? 全て使用不可なんて言わないでちょうだいね?」

 全て問題ないと、その返答に満足して笑ってみせれば途端に将軍の肩は一度上下した。反応が楽しくて、口端をもっと引き上げてみせれば彼は更に身を反らす。

「良くって? もし万が一私が捕まりそうになったら手筈通りにね。貴方達は隣の塔に逃げるなり死ぬなり好きになさい。私はその程度じゃ死なないのだから」

 嘯きながら、念を押すようにアダム達一人ひとりを指し示す。殺されるなら良い。でも、捕らえられるのは駄目。意味がないし許サレナイ。最悪、攻略対象者の手で殺されないとしてもゲームと同じようになるように私からも演出は抜かりない。幸福な結末の為に万全を期しておく。人質となる母上達を手放したのは勿体なかったけれど仕方ない。どうせアーサーが死んだ今、母上達を治せるのはアダムしかいないし、人質としてはまだ機能もしてる。
 侵略が進むまで、捕まるわけにはいかない。母上達と私しか知らないここなら絶対安全だ。本当にステイルの特殊能力を封じておいて良かった。暫くはこのまま高みの見物をしていよう。エンディングと同じ、満月が出るまではゆっくりと。

「貴方様と協力でき幸いでした! 流石は我が愛しきプライド王女。他の塵共とは天地の差っ!!」

 またアダムが声高にお世辞を吐いてくる。心配ないとは思うけれど外に聞かれたら面倒だ。


「その口。……煩いわね」

 アダムの口を無理矢理片手で塞ぐ。「ングッ?!」と間抜けな声が彼から漏れた。口封じをされたことに、見開いた目を大きく向ける彼へ私から顔を近づける。

「舌でも抜いてあげましょうか? ……その方がきっと素敵になるわ」

 喋れなくなって無様に口をパクつかせる姿が頭に浮かび、久々にぞくぞくと快感が肌を走った。恐怖か侮辱された怒りか呼吸を止めたアダムの顔がまた愛しくなってきて、口の端が引き上がる。

「アッハハ! 良いかもね? ねぇ、いまやりましょうか? ……ちゃあんと痛がってね」

 興奮のあまり今度は私の声が上擦った。潜ませるように必死に抑え、唱える。彼の口を押さえたままもう片手で剣を掴んでみせれば、控えていた将軍が慌てて動き出した。私を牽制しようと腰の剣に手を添えた彼を、軽く睨んであげれば笑っちゃうくらいに動揺を露わにする。ハハッと軽く笑い、アダムから手を離す。……遊べないのは残念。だけど今アダム達を敵に回すわけにはいかない。殺そうとすれば殺せるし、今は目的の為に利用することだけに集中しよう。

「冗談よ? ……今はね」

 アダムよりも将軍に向かって言えば、静かに剣は納められた。手を離した後も、逆らわれたのが衝撃だったのかアダムはポカンと呆けたままだった。情けない顔を嘲りながら眺めていると、次第に私に向けられたままの顔はじわじわと染みを作るように悦楽へと広がり歪んでいった。

「あと。……これだけは忘れないでちょうだい?」

 剣を片手に立ち上がり、悦に浸るアダムを通り過ぎる。大して広くもない部屋の隅に佇んだままの将軍へ歩み寄れば、警戒し身構えてきた。彼が剣を抜く前に、私はその首へ刃を瞬時に突きつける。とっさに反応できなかった将軍は、痙攣を起こすように指先を震わせ動きを止めた。
 アハッと笑い混じりに息を首に吐きかければ、ビクリと一度だけ肩を震わせた。一ミリずつ動かすように剣を彼の首の皮へと押し付ければ赤い線がうっすら入り、少し滴った。命の危険を感じたように筋がビクビクと震えている。こんなのがラジヤ帝国の将軍だなんて呆れてしまう。身体の作りこそ悪くはないけれど、我が国の新兵の方が手応えもあるんじゃないかと思う。
 反対の手で将軍の懐をツンッと突く。「失くさないでね?」と言葉を掛ければ、これ以上刃にめり込ませないように首を微弱に震わせるようにして彼は頷いた。
 懐の大事な大事な物。どうせなら私達と別行動する彼が持っていた方が都合も良い。モブ以下の彼は保身が大事みたいだし、ゲーム終了までは誰にも見つからず隅で小さくなって震えていれば良い。ゲームの為にも彼らの為にも、彼の存在意義は私が断罪されて騎士達に発見されてからだ。
 年甲斐もなく怯える将軍が楽しくて、耳元にも顔を近づける。フーッと息を細く吹きかけると同時に刃を更に押し付けてあげれば、彼が息を引く音がはっきりと聞こえた。

「私が他と違うのは当然なの。だって……」

 怯える彼とそしてアダム、ついでにどこかにいるだろう秘密道具に宣言する。彼らと私の決定的な立場とその差を知らしめる。この場で将軍の首に刃を埋めたい衝動とアダムの舌を切り落としたい衝動も耐え、ただ笑う。ラスボスとして世界一相応しい、言葉とともに。

「私は、神に選ばれし予知能力者なのだから」


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~


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こんにちは!

本日は、週末5月2日に発売のアイリスNEO新刊の試し読みをお届けいたしますニコニコ

試し読み第1弾は……
『悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!2』
著:美依 絵:氷堂 れん

★STORY★
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたことに気づいた公爵令嬢アレクシア。前世の記憶が甦った時に王太子への恋心は霧散し、断罪回避のためにも婚約者候補を辞退した。あとは優雅なおひとり様まっしぐら! のはずだったのに、ゲームのヒロインが登場したり攻略対象者が距離を詰めてきたり、あげくには聖女認定され……。予定していた平穏な日々が訪れないんですけど!?
いつの間にか愛されまくりの悪役令嬢の溺愛ラブコメディ、待望の第2弾!

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 あ、と声にならない吐息が、アレクシアの唇からこぼれる。唐突に思い出した。
 ゲームのヒロインは、ヴェルネ男爵家に引き取られたことで学園に編入する。細かい設定までは知らない。
 慣れない環境での新しい生活、言葉の裏を読むのが必須の人間関係、うつむきたくなるのをぐっと堪え、ある日の昼休憩時間に渡り廊下を歩いていると、突如吹いた強い風にハンカチを攫われた。
 ふわりと飛んでいくのに慌て、追いかけようと足を踏み出すと、それを誰かが捕まえた。
 風に乱された透明感ある水色の長い髪、ジェフリーの姿を映す水色の瞳、時間が止まったかのような――実際スチルだったので静止画なのだが、二人の出逢いを演出するシーンが美しく描かれていた。

 ――これは、君の?
 ――はい、風に飛ばされてしまって。
 ――遠くに飛ばされなくて良かった。
 ――ありがとうございます。

 はにかんだ笑顔のヒロインがハンカチを受け取ると、ジェフリーはすぐに背を向けその場を離れる。
 恋はすぐには動かない。けれど後日二度目の偶然で顔を合わせ、あの時の、と運命の恋の歯車はゆっくりと回り始めた。

「アレクシア様、すごい風でしたね」

 渡り廊下に出た途端吹き抜けた風に乱された髪を、ジェイニーが手で軽く整える。強い風にも負けないアレクシアの縦ロールは、手直しが必要なほど乱れていない。

「……ええ」
 上の空でアレクシアは頷く。
 正直それどころではない。思い出してしまった。

(忘れたままでいたかった)

 ぐ、と無意識に手を握りしめる。
 ヒロインのハンカチが重要アイテムだ。
 風に飛ばされ、ジェフリーの手に渡ってこそ二人は出逢い、ゲームのシナリオが始まる。ファーストインプレッションは重要だ。

「アレクシア様、それは?」

 ジェイニーの問いに答えたくない。現実を直視したくない。
 けれど無視もできず、再確認するように手元を見る。

「ハンカチ、ですわね」

 丁寧に刺繍が施されたハンカチは今、アレクシアの手にあった。
 いやなんで? と叫びたい。頭を抱えたい。
 強く吹いた風に足を止めて目を眇めていると、顔に向かって飛んでくるものがあり反射的にアレクシアは掴んでいた。
 柔らかな手触りに視線を落とし確かめると、ハンカチだった。
 持ち主を探すようにアレクシアは視線を流し、一人の女生徒を視界に捉えた途端、脳裏にぱっと映像が浮かんだ。

「アレクシア様、どうかされました?」

 ジェイニーに声をかけられ、アレクシアは現実に引き戻される。よくよく周囲を見れば、女生徒に囲まれたジェフリーの姿も近くにあった。
 うわぁ、と天を仰ぎたくなる。今が、二人の出逢いの場だったと理解が及んだ。

(邪魔をしてしまった!?)

 まさかだ。
 本当にそんなつもりはアレクシアにはなかった。
 ハンカチが自ら飛んできただけで、手で掴まなければ顔に貼りついていたかもしれない。避けるのが正解だったのかもしれないが、後悔しても遅かった。

(てか、飛ばすの下手すぎない!? ねぇ!)

 駄目出しをしたい。もう少しがんばりましょう評価だ。
 運命の相手かもしれない人との出逢いがかかっているのだから、本来失敗は許されない。位置関係を確かめ風の流れをしっかり読んでハンカチから手を放してほしい――と軽く憤って、わざとでなければ想定外の方向へ飛んでいくこともあるとアレクシアは自己完結した。

(読んだ物語に影響されてる……)

 この世界の恋愛小説も侮れない。
 前世では現実に疲れているのにドロドロした話を読む気になれず敬遠していたが、今世は快適な生活を送っているので手を出してみた。
 大抵一人はあざとい女が登場するので時折苛つくが、案外読み進められるものだ。
 ただ物語のように、誰もが狡猾な出逢いを演出などしない。
 だからこそ困ったことに、ヒロインとジェフリーが出逢うための重要アイテムは今、アレクシアの手にある。意図せずフラグを折った格好になり、非常に心苦しい。今更ジェフリーの方へハンカチを投げ飛ばすこともできなかった。

(うん、余計なことはしないに限る)

 それが一番だ。
 不自然な態度をアレクシアが取れば警戒心を抱かせる。今は傍らにジェイニーもいる。ヒロインとジェフリーが結ばれる運命ならば、後からでも挽回できるはずだ。

「すみません、ハンカチを飛ばしてしまって」

 アレクシアの手にハンカチがあるのに気付き、ヒロインらしき女生徒がおずおずと近づいてくる。関わり合いになりたくない気持ちは強いが不可抗力というものはあるわけで、内心で嘆きながらも身についた淑女の笑みでハンカチを差し出した。

「これかしら?」
「はい、ありがとうございます」

 くりっとした瞳に小柄なせいか印象が小動物じみていて、守ってあげたくなる可愛らしさだ。
 髪型と化粧で勝ち気な印象を作っている、今のアレクシアとは正反対だった。

(ヒロインの名前はなんだっけ?)
「実は編入してきたばかりで、迷子になりそうな広い学園内に戸惑っていて、遠くに飛ばされなくて良かったです」
「編入生だったのですね」

 自然にジェイニーが会話を引き取る。拝みたくなるほどありがたい。
 任せた! と、アレクシアは心の中で距離を取った。
 状況、本人から得た情報、ほぼヒロインで確定だ。
 現時点で人となりはわからないが、悪役令嬢役が不用意にヒロインへと近づきすぎていいことはない。警戒は必要だ。

「はい。ナタリー・ヴェルネと申します」
(そうだ、デフォルトの名前はナタリーだった)

 本来出逢いのアイテムを手にし、ヒロインと対面を果たすはずのジェフリーはどこ行った? と、アレクシアがさりげなく視線を流すと、すでに姿はなかった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

シリーズ1巻も好評発売中音譜
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『悪役令嬢なので、溺愛なんていりません!』を試し読み♪
こんにちは!

来週早々には一迅社文庫アイリス新刊の発売日です!
ということで、本日は新刊の試し読みをお届けいたしますウインク

新刊は……
『引きこもり令嬢は話のわかる聖獣番12』

著:山田桐子 絵:まち

★STORY★
聖獣のお世話をする「聖獣番」として働いている伯爵令嬢ミュリエルは、ついに色気ダダ漏れなサイラス団長と結婚することに! そして、神聖なる結婚式のあとに行われた披露宴では、騎士や聖獣達にも祝われたのだけれど……。なぜか雲行きが怪しきなり!?
引きこもり令嬢と聖獣騎士団長の聖獣ラブコメディ第12弾!

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「さて、腹もくちくなったじゃろ。ぼちぼちはじめるとしようかの」

 どっこいしょと口では言いながら、ラテルが身軽に立ち上がる。すると、ミュリエル以外の全員がとくに戸惑うことなく、離席した。着飾った格好でするにはおかしすぎる、柔軟体操がはじめられる。アトラの前に伸びてから後ろに伸びる動きを、ただ眺めるのが好きなミュリエルだが、今ここでそれがはじまったことに戸惑いが隠せない。

「はてさて、終わりはいつになるか……。見物じゃな」

 隣で同じように立ち上がったサイラスが、ミュリエルにも立つように促してくる。されるがままに取りあえず席を離れると、紫の瞳がふと空を見上げた。どうやら、太陽の角度で時間を計っているらしい。

「では、日暮れ前までに。せっかく皆が用意してくれた趣向だ。あまりあっさり終えてしまっては、味気ないだろう? だが……、このあと控える妻との時間を短くするつもりは、ない」

 誰に向けてか、サイラスは余裕そうに宣言した。挑発じみた台詞だとミュリエルが感じたのだから、皆もそう受け取っただろう。こういう時に噛みつく面子は決まっているが、今日は少しばかり様相が違った。真っ先に声をあげたのはレジーである。

「団長には申し訳ないけど、俺、今日は本気でやらしてもらうから!」

 ビシッと指をさしたレジーの横で、ノアが苦笑いを浮かべながら襟足をなでている。

「実は……、これの結果に、団長が新婚休暇中の鍛錬内容がかかっているんです」

 たったそれだけの説明でだいたいのことがわかってしまう辺り、ミュリエルも皆との関係が深くなったことがうかがえる。要するに、レジーは鍛錬がきつくなるのが絶対に嫌なため、祭りごと半分な今日に全力を出すつもりなのだろう。とはいえ、この二人とは違い、自らを追い込むことが大好きな者達だっている。

「俺は明日以降の鍛錬がきつくなるのも、大歓迎だ! けど、今日も本気でやりたい!」
「よしきた、俺もだ! というか偽りのないこの全力に、祝いの気持ちを込めようぜ?」

 準備体操の終わったスタンとシーギスは、それぞれ上腕二頭筋を見せつけるポーズを取った。脱いでいるわけではないので筋肉は見えないが、見栄えを重視して誂えた服のせいで、腕周りがはち切れそうで心配だ。

「明らかな手加減は、せっかくの場が冷えてしまうでしょうけれど……」
「えぇ。おめでたい席ですから、最低限の空気は読んでほしいものですね」

 燃えている者達の前言を受けても我関せず、丁寧な物腰でプフナーが口を挟めば、重々しくシグバートが頷く。しかし、それを横で聞いていたレインティーナが首を傾げた。

「なぁ、それって結局、全力ではやらない方がいいってことか?」

 空気を読むのは苦手だと自覚のあるレインティーナは、臆面もなくしっかり者の年下組に聞いている。

「その服でいつも通りの全力が出せるなら、それはそれですごいですね」
「……うん。でも、おめかしを崩してまで暴れるの、僕、どうかと思う」

 一応答えてくれたリュカエルとニコだが、性格を反映する癖のある返答だ。そんなやり取りの一連をぽかんとした顔のまま見回したものの、結局まだ、ミュリエルはこれから何がはじまるのかわかっていない。

「あれ? もしかしてミュリエルさん、状況が理解できていませんか?」

 助け船を出してくれたのは、リーンである。コクコクと頷けば、いつもの糸目がにんまりとさらに細められた。とても含みのある笑みだ。しかし、気づけば誰もが同じような顔をしているではないか。

「んじゃ、はじめるかの。夫婦となる者恒例の通過儀礼」
「えっ? 通過儀礼、ですか……?」

 ラテルがわざと間を持たせるものだから、この時までは聞き返す暇があった。だが、これが最後の機会であったと気づいた時には、もう遅い。

「ふぉっふぉっふぉっ。ほんじゃ、聖獣騎士団総出の、嫁取り合戦の開幕じゃーっ!」

 えっ!? とあげたミュリエルの声は、おおぉっ!! っと騎士達が上げた雄叫びと、多種多様な聖獣達の鳴き声によりかき消された。確かに声をあげたのに、自分の声が耳に届かない。それどころか、あまりの大音声に地面が揺れる。ミュリエルはその場でビクリと体を跳ねさせた。とはいえ見越していたサイラスが背に手を添えてくれていたため、体勢を崩すことはない。
 それでも驚きに翠の瞳を見開いていれば、その目もとをサイラスの親指がなでていく。自然な流れで頬を包まれて近い距離で見つめられ、ミュリエルも思わず無言で見つめ返す。形のよい唇に笑みが乗せられた。何やら自信のこもる微笑み方だ。
 いつのまにか傍にアトラが来ており、得意げに目を細められる。紫と赤の視線が一度まじわり、それからそろってミュリエルに注がれた。

「ミュリエル、最短で迎えにいくと約束しよう」
『ミュー、すぐにつかまえてやるから安心しろ』
「えっ」

 約束どころか誓う勢いで、サイラスからは指先に口づけをもらい、アトラからは額に鼻先で触れられた。どこか恭しさを感じる触れ方だった。自分が何か、とても特別で貴重なものにでもなったような気分になる。サイラスが大切にしてくれていることも、アトラが可愛がってくれていることも、ミュリエルは知っているというのに。
 物語の素敵な主人公だったら、こんな時は気の利いた返事の一つもするだろう。しかし、ミュリエルはぽかんとするばかりだ。それほどまでに、サイラスとアトラが素敵だ。さながら、白兎に乗った王子様のように。

『あぁら、あんまり大口叩くと恥ずかしい結果になるんじゃなぁい?』

 しかし、そこにブッフンとレグが鼻息で茶々を入れる。

『うむ。我々にもご褒美が出るのだから、本気も本気でやらせてもらうぞ?』
『実はアトラさんに隠れて、色々作戦考えてあるんスよね!』
『そやな。ボクの秘密兵器たる所以も、披露する機会やし?』

 そして、当然そこへクロキリがピィッと、スジオがワンッと、ロロがキュキュッと追従した。しかも今日は、この場にいつもの特務部隊の面々だけではなく、本隊の者達も勢揃いしている。

『やっぱり熱い二人には、大きな苦難が必要だと思うの!』
『そうそ、乗り越えてこそより燃える愛があると思うの!』

 チュエッカとキュレーネがチュチュチュと鳴き声を合わせれば。

『楽しいな楽しいな楽しいな楽しいな! 頑張るぞー!』
『はぁ、落ち着きなよ。回りすぎると本番前にバテるぞ』

 自分の尻尾を追いかけてルゥがグルグル周りだし、それをしなやかな尻尾でパシリとライカが諫める。

『こうしてまとまりがなくとも、まとまるのがアタクシ達のよいところでしょうね。ふふっ』
『そこは同じ釜の飯を食う、阿吽の呼吸でしょうか。何より楽しみたい気持ちは同じですし』

 三者三様以上の様子に、メルチョルが微笑ましそうに舌をチロチロと出せば、ケシェットが上手い感じに褒めてくる。

『あー……、応援はぁ、オラに任せてぇ。みぃんな、が、ん、ば、れぇー……』

 地面に横たわってほとんど目をつぶっているカプカは、どうやら応援係のようだ。だが、そののんびりとしたクマの鳴き声が銅鑼の役目を果たしたように思う。何せそれを合図に、ミュリエルはサイラスの前よりさらわれたのだから。

「っ!? えっ、えぇっ!? ち、ちょっと、待っ、……あっ! っ!? っ!! っ!?」

 気づいた時には、レインティーナの手によりレグの背に乗せられていた。見開いた目で近距離で見る男装の麗人は、場違いなほどに麗しい。

「安心してくれ、ミュリエル。かすり傷さえ作らない、丁寧な扱いをすると代表して誓おう。その純白のドレスにだって、一つの汚れもつけないつもりだ……、おっと!」
「っ!?」

 万人に好感を持たれる爽やかな笑顔で約束され、安心しかけたミュリエルは不意打ちをくらった。お姫様抱っこをしながらレグの背に立ち乗りしていたレインティーナが、舌の根も乾かぬうちにミュリエルをぶん投げたのだ。『ミューちゃん、頑張って!』などと鼻息が吹いてきたが、返事などもちろんしていられない。周りで見ていた者はアトラがサイラスを乗せて間近まで跳ねたからだとわかっただろうが、まったく目に入っていないミュリエルとしては突然だ。たまったものではない。
 空中に花が咲くように、純白のドレスの裾が広がる。それが美しいと形容されるうちに、ミュリエルの身は次の者達の手に渡った。たいへん愉快そうな顔を見せるのは、プフナーとヘビのメルチョルである。

~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~

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