一迅社アイリス編集部

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一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは!

9月18日は一迅社文庫アイリス9月刊の発売日!
ということで、本日も新刊の試し読みをお届けいたします照れ

試し読み第2弾は……
『出稼ぎ令嬢の婚約騒動8 次期公爵様は愛妻に頼られたくて必死です。』
著:黒湖クロコ 絵:安野メイジ

★STORY★
夢でも妄想でもなく、憧れていた次期公爵ミハエルと結婚した貧乏伯爵令嬢イリーナは、幸せを満喫していた。なんといっても愛するミハエルと我が子と過ごせているのだから! 遠征中のミハエルから毎日届く手紙の返信に困ったって、王太子妃エミリアの勉強会に呼ばれたって大丈夫! と思っていたけれど、国王が妙に親し気に接してくるのは予想外過ぎて――。
国王に絡まれまくる新妻と、愛妻の危機に奔走する旦那様のすれ違いラブコメディ完結の第8弾!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「やあ、お茶会中失礼するよ」

 お、王太子殿下と国王陛下⁈
 突如現れた金髪の男性二人は、そっくりさんでない限り、この国で一番偉い人物と、二番目に偉い人物である。
 普通は女性だけでお茶をしているのだから咎めるような空気が流れそうだが、この二人に関しては別だ。全員なんでいるの? と混乱している。

「陛下、ご機嫌麗しゅう。ただいま、私がこの国に馴染むための勉強を皆様に協力していただきお茶会を開いておりますの。どういったご用件でしょうか?」

 エミリアが席を立ちカーテシーを行った。それを見て私も慌てて席から立ち上がる。しまった陛下達が立っているのに座っているのはまずい。あまりに突発的な状況だったため、全員がすぐには動けずに椅子を引く音が部屋中にする。

「ああ、我々が勝手に茶会に入ってきたのだから、そのまま椅子に座ってくれたまえ。エミリアもいいかな?」
「……お気遣い感謝します」

 なぜ来たのかという質問には答えず、陛下は全員に着席を促された。どうするべきか悩んだが、エミリアが椅子に座ったため、私達も着席する。ひとまず一番偉い人に合わせるのがいいだろう。

「我が国へ来てくれたエミリアが王都に住む女性貴族を集めてお茶会をすると聞いたからね。不慣れなこともあるのではないかと様子を見に来たんだ」

 陛下の言葉は一見エミリアを大切にしているようにも思えるが、普通ならば女性の茶会なのだから、王妃が顔を出す場面だ。王太子殿下とは異母関係だからかとも思うが、釈然としないところもあり、出席者は全員固唾を飲んで見守る。

「私は王の付き添いかな? エミリア、困ったことはない? 美しい花があれば手をのばしその茎を折ろうとする者もいるだろうけれど、その花の所有者が誰か分かっていればそのような愚かなことはしないと思ってね。その愚かさが分からない虫は駆除をしないといけないしね」

 おおう、溺愛宣言だ。
 王太子は少し軽めな様子でウインクしたが、言っている内容は、エミリアがいじめられていたらいじめ返してあげるよという恐ろしい宣言である。王太子による圧力。これは頬を赤めればいいのか青ざめればいいのか分からない内容だ。
 エミリアはどのように対応するだろうと見れば、綺麗な笑みを浮かべていた。頬を赤らめるでも、恐怖で青ざめるでもない、新たな表情である。……もしかして、怒ってない?

「庭師の手入れなど必要ございませんわ。ここにいらっしゃるのは美しい花ばかり。折角のお披露目の場に庭師が居ては無粋でしょう? それとも花畑の主人として力不足であるとおっしゃりたいのかしら?」

 陛下と王太子を庭師と言い切った。
 エミリア……もしかしなくても怒っていらっしゃる。
 エミリアの性格的に、そうだよね。プライドが高いから、自分の仕事に口出しされると嫌だよね。確かに二人の発言はエミリアの能力を信用していないとも捉えられる。

「まさか、そんなことはないよ。ただ陛下もこの茶会にご興味を持たれてね……」

 王太子の顔は笑顔だけれど若干引きつっていた。しっかりとエミリアの言い分は伝わっているようだ。
 改めて考えると、嫁のお茶会の様子を見に来る義父って、かなり過干渉のように思う。これが普通なのかそうでないのかが、茶会経験の少ない私では判断がつかない。

「イーラ」

 うーん、王家の普通が分からないと思っていると、軽くディアーナに袖を引かれ私は意識を引き戻した。するとすぐ近くに陛下が立っていて、びくっとする。

「イリーナ、図書室で会ったぶりだね」
「は、はい。陛下。ご機嫌麗しゅうございます」

 何で声をかけてきた? えっ? 何で?
 大混乱のまま、慌てて挨拶をして取り繕うが若干声が裏返ってしまった。
 えっと、この茶会で一番偉いのはエミリアだけど、エミリアは王太子と話しているから、バーリン公爵家の嫁としての私に声をかけてきたのかな?
 心の準備が何もできていないので、できればそっとしておいて欲しかった。

「イリーナも元気そうで嬉しいよ。そういえば生まれたばかりの子供も今日は王城に連れてきているらしいね」

 何で知っているの⁈ いや、王城は、陛下のものだから知っていてもおかしくはないかもですけど!

「過分なるご配慮ありがとうございます。おかげで安心して今日のお茶会に参加することができました」

 内心はもうぐっちゃぐちゃだ。
 私はそれを必死に隠し、ミハエルの顔に泥を塗らないために、外面だけ取り繕う。私は女優と自分自身に言い聞かせながら微笑む。

「確か生まれた子供は男の子で、名前はファリドでよかったかな?」
「はい、そうです」
「なら、ファーリャか……。ファーリャはイリーナ似なのかい? それともミハエル似なのかい?」

 ぐいぐい来るなぁ。
 突然自分の子が国王陛下に略称で呼ばれるなんて、想定外すぎる。もう何が失礼で、何が失礼に当たらないのかが分からなくなってきて胃が痛い。
 国王陛下との距離感って、普通もっとあるはずよね?

「髪色はミハエルの色で、瞳の色は私の色をしております。全体的にはミハエル似のような気はしますが、赤子の顔は毎日変わって見えますし、成長するとまた変わりますので……」

 私はミハエル似だと思って育てているが、成長すると違ってくるというのはよく聞く話だ。生れた時は金髪だったのに大きくなると茶色になったということさえある。
 子供がパーティーに出席をしはじめるのは十歳頃からだ。その時に陛下と会って、聞いていた話と違うと言われても困る。

「そうか。全体的にミハエル似で、瞳がイリーナ似か……。いまいちピンと来ないな。そうだ。折角だから私もファーリャに会いたいな」

 なんですと⁈
 赤子が国王陛下に会う?
 とんでもないことになってきたぞと、私は冷や汗をかく。

「陛下、ですが、その、ファーリャはまだ陛下にお会いできるような教育はしておらず……」
「当り前じゃないか。むしろ生まれたての赤子に礼儀作法を求めるような者がいたら、その者の方が痴れ者だ。赤子はよく泣き、よく食べ、よく眠る方が健康的でいい。ああでも、赤子だとお昼寝をしていて目を見られないこともあるか……」

 そうですね。
 ファリドはまだ本能のままに生きているので、寝ているか起きているかも運しだいなところがある。陛下にお会いしたとしても、機嫌が悪く泣いていることもあれば、眠っていることもあるだろう。

「なら、このまま今日は泊まっていきなさい。ファーリャの機嫌がいい時に見に行こう」

 泊まる? えっ?
 今日の天気を言うように、なんてことないように言うが、大問題だ。泊まっていきなさいということは、つまり王城に一泊しなさいという話だ。

「で、ですが、ファーリャの荷物などの問題も……」
「バーリン公爵家から届けてもらいなさい。そして城にあるものならば何を使ってもらっても構わないよ。この間息子の妻もお世話になったようだし」

 構います! もの凄く構います!
 どう答えれば不敬に当たらないのかが分からない。強く拒否しても、それはそれで不敬な気がして、内心頭を抱える。

「いやぁ、ファーリャに会えるのが楽しみだ。さてと、レオニード。これ以上素敵な花畑を荒らしては女主人に失礼だ。そろそろ退室しよう」

 誘いを断る方法はないかと必死に考えていると、話を終えられてしまった。
 まさかの滞在決定である。初めての王城でのお泊まり……。羨まれそうだけれど、私は全々嬉しくない。むしろ怖い。おうちに帰りたい。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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こんにちは!

本日から発売間近の一迅社文庫アイリス9月刊の試し読みをお届けいたします(*''▽'')

試し読み第1弾は……
『雇われ聖女の魔王様救済事情 落ちこぼれ聖女ですが、魔王様の破滅を阻止します!』
著:まなほし央(よう) 絵:鳥飼 やすゆき

★STORY★
爆破という厄介な魔力を持つ少女イリアに訪れた人生の転機。それは「予言の聖女」として王子から直々に魔王討伐隊に勧誘されたこと! 旅の途中、突如現れた羊の魔獣にさらわれたイリアは気づくと魔王城で囚われていた。怜悧な美貌の魔王にはじめはおびえていたイリアだったが、魔獣たちにお菓子を作ったりそれを魔王に差し入れたりと意外に平和な日々が過ぎていく。けれど彼らは滅ぼすべき相手で……。
落ちこぼれ聖女の魔王様救済ラブファンタジー!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 魔獣は森を抜け、勢いよく空へと舞い上がる。足元には森が広がっていた。森の中に何か大きな影がある。吹き付ける風に目を眇め、イリアは暗闇に目を凝らした。
 塔だ。
 まるで大地に突き立てられた墓標のように、塔は森の中心にひっそりと立っている。
 急に視界が傾く。驚く間もなく、イリアの身体は宙に投げ出された。

「――っ、ごほ!」

 容赦なく胸から地面に叩きつけられ、一瞬息ができなくなった。全身の骨が軋むように痛い。痛みを堪えて、イリアは冷たい石床から這うようにして身体を起こした。
 どうやらここは、あの塔の内部のようだ。
 天井近くに四角形にくり抜かれた穴がある。通気口か、それとも明かり取りの窓を兼ねているのかもしれない。そこから漏れた月明かりが、イリアの周囲をぼんやりと照らしている。湿った冷たい独特の匂いには覚えがあった。教会の牢屋だ。

(ここはやっぱり、魔王城なのでしょうか。それにしては……)

 ライオネルが言っていた。魔王城――いまはそう呼ばれているけれど、魔王との戦い以前は王家の居城だったのだと。それから城は魔王とともに封じられ、さらに五百年の時が流れた。
 そうか、違和感の正体はこれだ。
 魔王城と聞いて荒れた廃城を想像していたのに、けれどここは「廃城」と呼ぶにはあまりにきれいだった。少なくとも壁や天井は残っているし、五百年という歳月を感じさせるような荒れ果てた様子はない。

「……きゅ」

 ガラスを擦ったような音がした。なんだろう、顔を上げると――、

「……え?」

 何かがいる。いっぱいいる。十匹どころではない。数十のギラギラと輝く目玉がイリアを見つめている。
 魔獣――。
 そう理解した瞬間、魔獣たちは一斉にイリアに飛びかかってきた。
 黄色いふわふわとした毛並みの獣たちは、子ネコくらいの大きさで、よくみると背中にコウモリのような小さな羽がついている。

「「「きゅきゅ!」」」
「な、なんなんですか……えっ、ちょっと!」

 魔獣の手にはロープが握られていた。協力してイリアの手足を縛り上げると、魔獣たちはイリアの身体を担ぎ上げる。まるで餌を運ぶアリのようだ。

「「「きゅっきゅっきゅ!」」」

 部屋の奥へと運ばれてゆき、イリアは無造作に放られた。

「……待ってください!」

 魔獣たちは鉄格子に鍵をかけると、二本足でぽてぽてと部屋を出ていってしまった。
 床に転がったまま唖然としていると、

「……くく、みっじめェ〜」

 鉄格子の向こうで、さっきの羊がにやにや笑っていた。イリアの聖杖を両手両足で大事そうに抱え込み、古い机のような台の上にちょこんと座っている。

「あなたは! こ、こんなところに閉じ込めてなにをするつもりですか……」
「なにって、殺されンじゃねェの?」

 イリアが息を呑むと、魔獣はケタケタと声を上げて笑った。

「やはり、魔王の差金なのですね。……どうして目覚めて」
「なに言ってンだ? レグラス様ならいつも起きてっけど」

 イリアは唇を噛む。魔獣の軽口に付き合っている場合ではない。

(おかしいです。神官様は、城の封印は解けていないとおっしゃっていたのに)

 昨日、国教会から届いた調査書にも同じように書かれていた。まさかたった一日で事態が急変したのだろうか。けれどライオネルは、封印の綻びはわずかなもので、だからこそ聖剣で壊す必要があるのだと言っていた。そうしなければ、この城に入ることさえ叶わないとも。

(なぜ? 何もかもが聞いていた話と違います。……わからないけれど、ともかく一刻も早くライオネル様に報せねば)

 イリアは顔を上げる。
 この牢を見張っているのは、いまのところ羊だけだ。
 牢を爆破したら脱出できるかもしれない。けれど、城の外は〝禁忌の森〟だ。森の中に道らしい道はなく、そこかしこを魔獣がうろついていると聞く。野営地は森の手前にあった。仲間たちがこの城に辿り着くまでに、ひと月はかかるだろう。
 少なくとも、ひと月だ。
 握りしめた両手が小刻みに震え始める。震えはやがて全身に広がり、イリアの意志では抑えきれなくなった。膝を抱え、身体を丸める。

「おっ!? 泣きそ〜になってるぜ! ケケケ!」

 牢屋に響く不気味な笑い声に、ますます不安が掻き立てられる。
 これからどうなってしまうのだろう。死ぬ……のかもしれない。まさか、こんなふうに自分が死ぬことになるなんて。予言があるから大丈夫だと安心していた。聖剣に選ばれた勇者・ライオネルがいるのだから、予言のとおりに必ず魔王を討つことができる。だから生きてウェイルズ村に帰ってこられるだろうと――、

(甘くみていた、のかもしれません……)
「まア、元気だせよ!」

 牢屋の隅で膝を抱えるイリアに、羊の魔獣は弾んだ声で言い放つ。

「ンな心配しなくても、聖杖はオレ様の魔道具コレクションに加えて大事にしてやるって! こんなデッケ〜魔石はなかなかお目にかかれな……――ぴっ!?」

 瞬間、羊が凍ったように動きを止めた。

「レグラス様!」

 羊の声のあとに、一拍遅れてイリアも気づく。
 ――甘い、気配がする。
 気配が甘いはずなどないのに、けれど、そうとしか言えないのだ。
 息が浅くなる。腰が抜けたようになって、全身に力が入らない。
 見たくない。逃げ出したい。それなのに、ドアの向こうから注意を逸らせない。蜜に惹かれる蝶のように、自分の意志では抗えず、その姿をひと目見たくてたまらない。
 どきん、どきん、どきん。
 音のない世界で、イリアの心臓だけが激しく鳴っている。動悸はみるみる高まり、このままでは心臓が破裂してしまいそうだった。
 雲が流れ、月が現れる。銀色の光が床を、壁を伝い、室内の闇を押し除ける。
 瞬間、頭が真っ白になった。
 ――人間……?
 全身を覆う黒衣と揃いの、腰まで流れる闇色の髪。その奥で、黒曜石のような瞳が冷たい光を宿している。魔王は人の姿をしていた。物語に描かれるような〝異形の怪物〟なんかではなく。

(それなのに……人間じゃない、みたい)

 切れ長の瞳も、すっと通った鼻筋も、薄い唇も、寸分の狂いも許されぬ完璧さで整えられた美貌には、命の生々しさが欠片も感じられない。まるで精巧に作られた美しい人形のようだ。
 イリアは魅入られたように動けずにいた。

『イリア』

 頭の中で声がする。

『イリア』

 ――あれ?
 どうして。なぜか魔王の姿に、大切な仲間の面影が重なっていく。
 ――ライオネル、様?

「……ご苦労だったな、ゴート」

 その声で、我に返った。
 低い、冷ややかな声は、イリアの知っている誰のものでもない。ライオネルのものであるはずがない。髪の色も瞳の色も佇まいだって違うのに、イリアはどうかしてしまったのだろうか。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~


こんにちは!

いよいよ、アイリスNEOの新刊の発売日も間近!
ということで、9月発売アイリスNEOの試し読みをお届けいたしますラブラブ

試し読みは……
『元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!』
著:es(エス) 絵:榊 空也

★STORY★
八歳の誕生日、名門貴族の令嬢アデルハイデはかつて自分が王国を破滅させ処刑された王妃(=悪女)であった事を思い出す。しかしなぜか時間は巻き戻り、人生やり直しの真っ最中!? 今生では心を入れかえ、家族と幸せに生きよう!────そう決意したアデルハイデは、試行錯誤と努力の末、地味眼鏡令嬢の姿で王立学院に入学する。そこで出会った美貌の男子生徒から、彼の美貌に動じなかったことを理由に友人になってほしいと頼まれて……?
元"悪女" の眼鏡令嬢の死に戻りラブファンタジー。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ――高熱と記憶の奔流に、八歳の私は圧倒されていた。
 それは「思い出す」なんて生易しいものではなく、次々と「溢れ出す」。そんな感覚だった。
 すべてを思い出して、私は「うわぁ……」と頭を抱えた。
 かつての私は、最低の〝悪女〟だったからだ。

 王太子の寵愛を盾に、贅沢しまくった。
 国が傾いてる事実から目を背け、何を言われても浪費をやめなかった。
 魚は頭から腐ると言うけれど、〝悪女〟のせいで王国が腐っていくのは、あっという間だった。
 横領や不正が横行し、罪をなすりつけられた者が断罪されていく。王宮は悪いヤツしか生き残れない場所になった。
 そのうち、圧政に苦しむ民衆が、各地で反乱を起こすようになった。
 王国は武力で鎮圧しようとしたけれど、人々の不満は募るばかりだった。
 国が弱体化すると、その隙を狙って隣国までもが攻めてきた。隣国の軍は容赦なく略奪を繰り返し、農地を焼き払いながら、王都へと進軍した。
 ところが、である。王国軍はその破竹の勢いに恐れをなした。民を守らないどころか、アナグマのように砦に引きこもったのだ。民は絶望の淵に立たされ、王国軍の評判は地に落ちた。
 そんな時、奇跡のように救世主が現れた。
 当時、すでに立ち上がっていた反乱軍である。
 若き将軍に率いられた反乱軍は、激闘の末に隣国の軍を追い払い、人々から圧倒的な支持を得た。
 敵軍を国境の向こうへ押し返すと、反乱軍はすぐさま王都へ取って返した。そして、王都の民にこう呼びかけたのである。
「王命に従わず開門せよ。物資を無料で配布する。悪いようにはしない」、と。
 ――この呼びかけは、たちまち功を奏した。城門に詰めかけた民衆は、止めようとする兵士を排除して門を開放。彼らを迎え入れた。
 こうして反乱軍は、労せず王都を手中におさめてしまう。
 勇猛果敢な反乱軍に対し、国庫が空でろくに態勢を整えられなかった王国軍は、呆気なく瓦解。速やかに降伏した。
 もちろん、国庫が空だったのは私のせいである。

 そして迎えた私の末路は、〝希代の悪女〟にふさわしく、何とも惨めで情けないものだった。
 王太子からすでに国王になっていた夫は、王族として最後の務めを果たすべく、城に残って反乱軍の将軍に討ち取られた。
 一方、私は夫を見捨て、自分だけ王都から逃げ出そうと画策したわけですよ……!
 ね、最低でしょ?
 けれど、誰からも憎まれた〝悪女〟が、簡単に逃げられるはずもなく。
 密告によって捕らえられた私は、広場に引きずり出されて、あえなくギロチン行き。
 集まった民衆の憎悪と罵声を浴び、石を投げられ、自分がいかに憎まれていたかを悟った。
 ……もう涙も出なかった。

 断頭台に痩せた体を固定され、筋の浮いた首筋に、鋭く大きな刃が落ちてくる。
 一瞬だけ、熱い、と思った。それが最期の記憶。
 誰も同情なんてしない、〝悪女アデルハイデ〟の人生はこうして終わった。……全方位に本気で申し訳ない。

 高熱にうなされながら、私はアホすぎる一度目の人生を深く反省した。
 そして心の底から悔い改めた。
 私は多くの人々を不幸に陥れた。その筆頭が両親だ。
 愚かな娘のせいで、両親は市中を引き回され、無惨に殺されてしまったのだ。
 ギロチン直前、牢番に嘲るようにその事実を知らされ、私は泣き崩れた。
 どんなに後悔しても、後の祭りだった。
 私の両親は確かに一人娘に甘かったわ。でも、市中引き回しにされるほど悪い事はしてない。
 二人は子煩悩ではあったけど、普通の感覚を持つ常識人でもあった。好き放題する私を、何度となく諌めてもいた。
 その言葉に、耳を貸さなかった私が悪いのだ。徹頭徹尾、愚かな〝悪女〟の自業自得である。

 ……でも、なぜかはわからないけど、時間は巻き戻った。
 今の私は八歳で、デビュタントは何年も先。王太子とは出会ってもいない。両親も元気に生きている。私も痛すぎる〝悪女〟になる前だ。
 今なら、選択次第で未来を変える事ができるはず……!
 せっかくやり直しのチャンスが巡ってきたんだもの、真っ当に生きなきゃダメでしょう。
 ギロチンで終わる人生なんて、二度と御免だ……!

 熱で朦朧としながら、私は必死に考えていた。
 今の人生の目標は、大きく二つ。
 一つは、〝悪女〟にならない事。次に、両親を巻きこまない事。
 王族との結婚もこりごりだ。
 私はアホで調子に乗りやすい。王太子と結婚した日には、きっとまた国を滅ぼしてしまう。ギロチン最短コースだ。危険すぎる。
 王太子以外との結婚も、できれば遠慮したい。
 私の外見や、家柄に惹かれた男にちやほやされたら、〝悪女〟の本性を隠しきれなくなって、結局元に戻ってしまうだろう。そうならない自信は、正直…………全然ない。
 はぁ……それにしても、断罪されたら価値観まで変わってしまうのね。大勢にかしづかれる高貴な身分も、華やかな贅沢三昧も、全く魅力的だと思えなくなっちゃったわ。
 王太子妃として社交界に君臨していた頃は、「この世の春」って感じだったけど、それで身を滅ぼすと知ってしまったら、そういう場所には金輪際近づきたくない。
 今回の人生は地味でいい。
 目立たないのが一番。
 できれば深海魚のように、ひっそりと生きていたい。

 だけど……身分や実家に頼らず、結婚もしない。そんな生き方をする貴族令嬢がどれだけいるんだろう。いても、とってもレアな気がする。
 ……まあ、何か方法はあるはずだ。なければ自分で道を切り開くしかない……!

 決意したところで、コンコンとノックの音が部屋に響いた。
 入ってきたのは侍女のマリアだった。「アデルお嬢様、お薬です」とサイドテーブルに置かれたカップには、緑色の不気味な液体が注がれている。これ、昨日も飲まされたやつ……。

「お薬、飲まなきゃダメ……?」
「ええ、お医者様が必ず飲んでください、とおっしゃっておられました」

 マリアは無情に肯定した。私は泣きそうになりながら、マリアに手伝ってもらって体を起こす。
 手渡されたカップに口をつけたら、夏草を濃縮したにおいがした。そして、やっぱり耐えられないほど苦い。

「…………まずいわ」

 必死に飲んでいると、常に冷静なマリアが、目を丸くして静かに驚いていた。

「お嬢様は、『飲みたくない』と駄々をこねるものだと思っておりました」

 ぽろっと零れ落ちたマリアの本音。
 ……まあ、そうよね。今までの私なら間違いなくそうしていたわ。
 だけどこのままじゃダメなの。良い方向に変わらないと、私はまた〝悪女〟として裁きを受けるかもしれない。同じ轍を踏んだらギロチンにご招待されてしまう。
 私は半泣きになりながら、苦い薬を飲み切った。マリアは「アデルお嬢様、頑張りましたね」と優しく褒めて、空になったカップを下げるために出ていった。
 誰もいなくなって、私はポスンと枕に顔を埋めた。
 熱は少しずつ下がっている。激マズの薬を飲んだ甲斐があった。
 さて、続きを考えなくてはね……。私はまた、二度目の人生計画を練り始めた。

 ――――ベッドに横になって、花柄の天井を見上げる。
 目を閉じると、記憶が甦る。
 アデルハイデ・ローエングリムが、かつて〝悪女〟であった頃の人生。
 それは子供の空想として片づけるにはあまりにも鮮明で、生々しい現実感を伴い、頭の記憶領域に居座っていた。

 ――王都から逃げようとして密告で捕まった時の、奈落に落ちていくような絶望感。
 牢獄の鉄格子の冷たさ。
 処刑台まで歩かされた時に、投げつけられた石の痛み。
 絶望も、冷たさも、痛みも、間違いなく、すべてが本物だ。
 あれと同じ人生を歩むなんて、絶対に嫌だ。でも―――そうならないためには、一体どうしたらいいの……?


 記憶が甦ってから二日目。

「アデルお嬢様、お食事をお持ちしました」

 侍女のマリアが、湯気の立つおかゆを運んできてくれた。いいにおいが部屋を満たす。
 あの激マズな薬が効いたらしく、食欲も出て、私は少しだけ元気になっていた。
 ミルク入りのおかゆを少しずつ口に運びながら、これからの事を考える。
 方向性は大体決まった。でも、具体的な計画が何にも思いつかない。
 途方に暮れていたその時。ふと、こちらをじっと見つめるマリアの存在に気がついた。
 ……そうだわ、わからなければ誰かに聞けばいいのよ!

「ねえ、マリア」
「何でしょうか、お嬢様」
「私みたいな貴族令嬢が、結婚せず、一人で生きていくにはどうすればいいかしら?」

 思い切って尋ねると、いつも無表情なマリアがまたしても目を丸くした。思いもよらない質問だったらしい。
 そんなに驚かれたら、私までつられて驚いてしまうわ。

「……お嬢様、なぜそのような事をお考えになったのですか?」
「誰かの妻になる以外に、自分が何になれるか知りたかっただけよ。もちろん、あなたから聞いたなんて、誰にも言わないわ。約束する」

 ぎゅっと両手を組んで、うるうるした上目遣いで見つめる。この「必殺・美少女上目遣い」は、沈着冷静な侍女にも効果があったようだ。
 マリアはため息をこぼして、一つの選択肢を教えてくれた。

「そういった方々は、修道院に行かれる事が多いかと思います」
「修道院……」
「はい。創世神たる女神に人生を捧げ、厳しい戒律を守り、ひたすら天に祈るのです」

 なるほど……それはありかも。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~