9月18日は一迅社文庫アイリス9月刊の発売日!
ということで、本日も新刊の試し読みをお届けいたします
試し読み第2弾は……
『出稼ぎ令嬢の婚約騒動8 次期公爵様は愛妻に頼られたくて必死です。』

著:黒湖クロコ 絵:安野メイジ
★STORY★
夢でも妄想でもなく、憧れていた次期公爵ミハエルと結婚した貧乏伯爵令嬢イリーナは、幸せを満喫していた。なんといっても愛するミハエルと我が子と過ごせているのだから! 遠征中のミハエルから毎日届く手紙の返信に困ったって、王太子妃エミリアの勉強会に呼ばれたって大丈夫! と思っていたけれど、国王が妙に親し気に接してくるのは予想外過ぎて――。
国王に絡まれまくる新妻と、愛妻の危機に奔走する旦那様のすれ違いラブコメディ完結の第8弾!
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「やあ、お茶会中失礼するよ」
お、王太子殿下と国王陛下⁈
突如現れた金髪の男性二人は、そっくりさんでない限り、この国で一番偉い人物と、二番目に偉い人物である。
普通は女性だけでお茶をしているのだから咎めるような空気が流れそうだが、この二人に関しては別だ。全員なんでいるの? と混乱している。
「陛下、ご機嫌麗しゅう。ただいま、私がこの国に馴染むための勉強を皆様に協力していただきお茶会を開いておりますの。どういったご用件でしょうか?」
エミリアが席を立ちカーテシーを行った。それを見て私も慌てて席から立ち上がる。しまった陛下達が立っているのに座っているのはまずい。あまりに突発的な状況だったため、全員がすぐには動けずに椅子を引く音が部屋中にする。
「ああ、我々が勝手に茶会に入ってきたのだから、そのまま椅子に座ってくれたまえ。エミリアもいいかな?」
「……お気遣い感謝します」
なぜ来たのかという質問には答えず、陛下は全員に着席を促された。どうするべきか悩んだが、エミリアが椅子に座ったため、私達も着席する。ひとまず一番偉い人に合わせるのがいいだろう。
「我が国へ来てくれたエミリアが王都に住む女性貴族を集めてお茶会をすると聞いたからね。不慣れなこともあるのではないかと様子を見に来たんだ」
陛下の言葉は一見エミリアを大切にしているようにも思えるが、普通ならば女性の茶会なのだから、王妃が顔を出す場面だ。王太子殿下とは異母関係だからかとも思うが、釈然としないところもあり、出席者は全員固唾を飲んで見守る。
「私は王の付き添いかな? エミリア、困ったことはない? 美しい花があれば手をのばしその茎を折ろうとする者もいるだろうけれど、その花の所有者が誰か分かっていればそのような愚かなことはしないと思ってね。その愚かさが分からない虫は駆除をしないといけないしね」
おおう、溺愛宣言だ。
王太子は少し軽めな様子でウインクしたが、言っている内容は、エミリアがいじめられていたらいじめ返してあげるよという恐ろしい宣言である。王太子による圧力。これは頬を赤めればいいのか青ざめればいいのか分からない内容だ。
エミリアはどのように対応するだろうと見れば、綺麗な笑みを浮かべていた。頬を赤らめるでも、恐怖で青ざめるでもない、新たな表情である。……もしかして、怒ってない?
「庭師の手入れなど必要ございませんわ。ここにいらっしゃるのは美しい花ばかり。折角のお披露目の場に庭師が居ては無粋でしょう? それとも花畑の主人として力不足であるとおっしゃりたいのかしら?」
陛下と王太子を庭師と言い切った。
エミリア……もしかしなくても怒っていらっしゃる。
エミリアの性格的に、そうだよね。プライドが高いから、自分の仕事に口出しされると嫌だよね。確かに二人の発言はエミリアの能力を信用していないとも捉えられる。
「まさか、そんなことはないよ。ただ陛下もこの茶会にご興味を持たれてね……」
王太子の顔は笑顔だけれど若干引きつっていた。しっかりとエミリアの言い分は伝わっているようだ。
改めて考えると、嫁のお茶会の様子を見に来る義父って、かなり過干渉のように思う。これが普通なのかそうでないのかが、茶会経験の少ない私では判断がつかない。
「イーラ」
うーん、王家の普通が分からないと思っていると、軽くディアーナに袖を引かれ私は意識を引き戻した。するとすぐ近くに陛下が立っていて、びくっとする。
「イリーナ、図書室で会ったぶりだね」
「は、はい。陛下。ご機嫌麗しゅうございます」
何で声をかけてきた? えっ? 何で?
大混乱のまま、慌てて挨拶をして取り繕うが若干声が裏返ってしまった。
えっと、この茶会で一番偉いのはエミリアだけど、エミリアは王太子と話しているから、バーリン公爵家の嫁としての私に声をかけてきたのかな?
心の準備が何もできていないので、できればそっとしておいて欲しかった。
「イリーナも元気そうで嬉しいよ。そういえば生まれたばかりの子供も今日は王城に連れてきているらしいね」
何で知っているの⁈ いや、王城は、陛下のものだから知っていてもおかしくはないかもですけど!
「過分なるご配慮ありがとうございます。おかげで安心して今日のお茶会に参加することができました」
内心はもうぐっちゃぐちゃだ。
私はそれを必死に隠し、ミハエルの顔に泥を塗らないために、外面だけ取り繕う。私は女優と自分自身に言い聞かせながら微笑む。
「確か生まれた子供は男の子で、名前はファリドでよかったかな?」
「はい、そうです」
「なら、ファーリャか……。ファーリャはイリーナ似なのかい? それともミハエル似なのかい?」
ぐいぐい来るなぁ。
突然自分の子が国王陛下に略称で呼ばれるなんて、想定外すぎる。もう何が失礼で、何が失礼に当たらないのかが分からなくなってきて胃が痛い。
国王陛下との距離感って、普通もっとあるはずよね?
「髪色はミハエルの色で、瞳の色は私の色をしております。全体的にはミハエル似のような気はしますが、赤子の顔は毎日変わって見えますし、成長するとまた変わりますので……」
私はミハエル似だと思って育てているが、成長すると違ってくるというのはよく聞く話だ。生れた時は金髪だったのに大きくなると茶色になったということさえある。
子供がパーティーに出席をしはじめるのは十歳頃からだ。その時に陛下と会って、聞いていた話と違うと言われても困る。
「そうか。全体的にミハエル似で、瞳がイリーナ似か……。いまいちピンと来ないな。そうだ。折角だから私もファーリャに会いたいな」
なんですと⁈
赤子が国王陛下に会う?
とんでもないことになってきたぞと、私は冷や汗をかく。
「陛下、ですが、その、ファーリャはまだ陛下にお会いできるような教育はしておらず……」
「当り前じゃないか。むしろ生まれたての赤子に礼儀作法を求めるような者がいたら、その者の方が痴れ者だ。赤子はよく泣き、よく食べ、よく眠る方が健康的でいい。ああでも、赤子だとお昼寝をしていて目を見られないこともあるか……」
そうですね。
ファリドはまだ本能のままに生きているので、寝ているか起きているかも運しだいなところがある。陛下にお会いしたとしても、機嫌が悪く泣いていることもあれば、眠っていることもあるだろう。
「なら、このまま今日は泊まっていきなさい。ファーリャの機嫌がいい時に見に行こう」
泊まる? えっ?
今日の天気を言うように、なんてことないように言うが、大問題だ。泊まっていきなさいということは、つまり王城に一泊しなさいという話だ。
「で、ですが、ファーリャの荷物などの問題も……」
「バーリン公爵家から届けてもらいなさい。そして城にあるものならば何を使ってもらっても構わないよ。この間息子の妻もお世話になったようだし」
構います! もの凄く構います!
どう答えれば不敬に当たらないのかが分からない。強く拒否しても、それはそれで不敬な気がして、内心頭を抱える。
「いやぁ、ファーリャに会えるのが楽しみだ。さてと、レオニード。これ以上素敵な花畑を荒らしては女主人に失礼だ。そろそろ退室しよう」
誘いを断る方法はないかと必死に考えていると、話を終えられてしまった。
まさかの滞在決定である。初めての王城でのお泊まり……。羨まれそうだけれど、私は全々嬉しくない。むしろ怖い。おうちに帰りたい。
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
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