いよいよ、来週早々にはアイリスNEOの発売日!
ということで、本日も8月発売アイリスNEO試し読みをお届けいたします
試し読み第3弾は……
『天才悪女は嘘を見破る2』

著:里海 慧(あきら) 絵:條(えだ)
★STORY★
「ご褒美に……僕たちの関係を進めたい」
伯父一家に侯爵家を乗っ取られ、悪女の振りをさせられてきた令嬢アマリリス。王太子ルシアンの腹黒教育係兼、契約婚約者になるが、実はルシアンは幼い頃からアマリリスだけに執着する“冷淡な独善者(サイコパス)”だった。そんなある日、両親の事故死は仕組まれたものだと密告する手紙が届き、アマリリスは再会した兄たちと事件の謎を追うことになって――!?
執着王太子と悪女な令嬢の契約からはじまる溺愛ファンタジー第2弾!
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王太子の執務室へ戻るとアマリリスはすぐに人払いして、ソファーに腰かける間もなくルシアンへ向き直った。
いつもと違う様子のアマリリスに、ルシアンは心配そうに眉尻を下げ、頬を包み込むように手を伸ばす。
「リリス、どうしたの?」
至近距離のルシアンを見上げ、アマリリスはズバッと切り込んだ。
「ルシアン様……私の両親の死についてなにかご存じですか?」
ルシアンはわずかに瞠目するが、平静な態度を崩さない。それにアマリリスの能力を知っているのだから、ここで嘘をついても仕方がないと十分すぎるほどわかっているはずだ。
(視線は泳いでない……息を呑んで固く口を閉じたけど、この反応は私の質問に驚いただけね)
観念した様子のルシアンはふっと息を吐いて話しはじめた。
「まさかこんなにストレートに聞かれるとは思ってなかったな。情報があるにはあるけど……最重要機密事項なんだよね」
「両親の死に関わることなのです。お話しできる部分だけでも教えていただけませんか」
機密事項だろうがなんだろうが、少しでも手掛かりがあればそれで構わない。アマリリスにはクレバリー侯爵家当主のテオドールと、裏社会に通じるユアンがいる。
時間がかかったとしても、わずかな情報から真実に辿り着く可能性は十分にあるのだ。
「リリスが僕にご褒美をくれたら、知っていることを話すよ」
ルシアンは聖職者のような微笑みを浮かべ、アマリリスに取引を持ちかける。
両親の死に関する情報を取引の材料にしても、ルシアンには罪悪感のかけらもない。
(やっぱり素直に話してくれないわね)
ルシアンは以前も国外にいた兄たちの入国許可を出す代わりに、アマリリスに婚約者になるよう迫った。ここはルシアンの要望に付き合うしかないようだ。
「ご褒美とは……なにが欲しいのですか?」
「僕たちの関係を進めたい」
現状、ふたりは婚約者の関係にあり、アマリリスは王城で暮らしている。
これ以上ふたりの関係を進めるということは、入籍して夫婦になるか、もしくは結婚前に契りを結ぶかのどちらかだ。
しかし、王族の結婚には厳格なまでに貞淑さが求められる。だからこそ、ルシアンが暴走しないようにアマリリスに触れることを許していない。
ルシアンがなにを求めているのかうっすらと理解しているがゆえ、これまでアマリリスはあえて目を逸らしてきた。
だが、しらばっくれるのもここまでのようだ。
「……具体的におっしゃってください」
「リリスからキスして」
「わ……私からキス!?」
ここまで冷静な態度を崩さなかったアマリリスだが、思わず淑女らしからぬ声を上げてしまった。その反応に満足したのか、ルシアンはとても楽しそうに紫水晶の瞳を細める。
(てっきりルシアン様が私に触れる許可を求めると思っていたわ……)
貴族の令嬢にとんでもない要求を突きつけたルシアンは、いつも通りというか、やはりというか。
いつもの冷静さを取り戻し、アマリリスはルシアンの提案を拒否する。
「結婚式を挙げるまで接触はしない約束です」
「うん、約束通り僕からは接触しない。だからリリスから僕にキスして」
まったく引く気配のないルシアンにアマリリスはため息まじりに説明した。
「ルシアン様、私はただでさえ悪女だと噂されていましたし、家門から犯罪者も出ております。これ以上隙を見せたら円滑に嫁げなくなりますわ」
「反対意見なんて僕が全部潰すし、これが最高のご褒美なんだ」
ルシアンは間髪を容れずに言い返す。
どういう思考回路を持っていたらこんな返答が出てくるのか、なにを言っても無駄なルシアンにアマリリスは閉口した。
(これだから冷淡な独善者は……!)
別にルシアンに触れられるのが嫌なわけではない。アマリリスだって愛しい人と触れ合うのは嬉しいし、それを望む気持ちもある。
ただルシアンは王族で、アマリリスはその婚約者で、どこで足を引っ張られるかわからないから下手な行動ができない。
貞操を守ることはつまり、自分たちを守ることに繋がるのだ。許されるのはせいぜい口付けくらいまでだろう。
(お父様の手紙を見つけてくれた時は嬉しすぎて勢いでキスしたけど、なにもないのに自分からなんて恥ずかしいわよ……)
だが、このままでは欲しい情報は得られない。
アマリリスは覚悟を決め、そっとルシアンの胸に手を添えて、柔らかな唇に触れるだけのキスをする。
「これでよろしいですか?」
そう言って離れようとしたところでアマリリスの腰にルシアンの左腕が回された。右手はアマリリスの顎をクイッと持ち上げ、熱を孕んだルシアンの紫水晶の瞳に一瞬で身も心も囚われる。
「……足りない」
噛み付くような荒々しいルシアンの口付けをアマリリスは受け止めた。先ほどのキスなんて子供騙しだったと思い知らされる。
アマリリスを懐柔するように口内で暴れるルシアンの熱が感染して、正常な思考を奪っていくようだ。
(こんな風に求められて嬉しいなんて……ルシアン様には絶対に言えない)
口付けひとつで、ルシアンがどれほどアマリリスを求めているのかわかる。もしアマリリスもルシアンを求めていると知られたら、あの手この手で籠絡してくるに違いない。
(結婚式まであと七カ月……なんとか躱し切るのよ……!)
ふと、ルシアンの唇が離れて、ジッとアマリリスを見つめてきた。心なしか瞳が仄暗いと感じるのは気のせいだろうか。
「僕が口付けしているのに、考え事?」
「も、もうよろしいですか? 約束を守ってください」
(他のことを考えてるって、なんでわかったの……!?)
鋭い指摘に内心で狼狽えつつ、アマリリスは平静を装ってルシアンの胸元を押す。すると先ほどまでとは打って変わって、あっさりとルシアンの腕から解放された。
「ねえ、どうしたら僕はリリスのすべてを手に入れられる?」
「なにもせずとも結婚式を迎えれば、ご希望通りになりますわ」
「それまで待てそうにないな」
そう言いながら、ルシアンはアマリリスの髪を掬い上げてキスを落とす。紫水晶の瞳にはありありと劣情が宿り、油断したらアマリリスまで引き込まれてしまいそうだ。
「王族は貞淑さを求められますから……これ以上は駄目です」
紙一重のところで理性を働かせ、アマリリスはルシアンと距離を取る。
「ふうん。じゃあ、その規律が変われば問題ない?」
「まあ、そういえばそうですけど……」
「わかった。本当はまだ物足りないけど……まあ、今回はこれでいいよ。今日は急ぎの政務もないし、場所を移そうか」
(あれで物足りない!? 今回はこれでいいって……絶対にルシアン様に隙を見せられないわ)
ここで反論しても自分の精神が削られるだけだと思ったアマリリスは、引きつった笑みを浮かべてルシアンの後についていった。
王都の大通りから大きく外れた街の片隅に、二階建てのこぢんまりした一軒家がある。
くすんだオレンジ色の屋根が哀愁を漂わせ、蔦が覆い尽くすように外壁をびっちりと埋めていた。
扉の右上でゆらゆらと揺れる看板には【水晶占いの館ラシャ・ム】と書かれている。
「ここだね」
ルシアンは看板を確認して焦茶色の扉を開いた。室内に入るとどこか懐かしい異国の香の匂いがアマリリスの鼻先を掠める。木目の壁に囲まれダークブラウンの家具で揃えられた空間は落ち着きがあり、グリーンのカーテンや観葉植物が彩りを添えていた。
室内の中央に大きな丸いテーブルがあり、淡いグリーンのテーブルクロスがかけられている。四脚ある椅子のうち一脚だけ赤い生地の物があり、そこに占い師が座るようだ。
店内には薄い紫のベールで顔を覆い、ドレープの効いたロングドレスを見にまとう占い師が開店準備を進める手を止めて振り返った。
「ごめんなさいね、まだ開店して――」
「今日は僕が貸し切る」
ルシアンは占い師の言葉を遮り、端的に要件を伝える。
外面がいいルシアンにしては珍しく冷淡な対応だとアマリリスは思ったが、その理由はすぐに判明した。
「リリスじゃない! よくきたわねえ」
「え……ユアン兄様?」
アマリリスがそう呼ぶと、ベールの奥の青緑の瞳が細められる。パッとベールを取り払ったユアンはアマリリスを抱擁した。
「そうよ〜! ちょっとした副業でたま〜に占い師もやってるの。これでも人気なのよ」
ユアンはどんな変装でもこなして役になりきるため、よほどのことがない限り立ち居振る舞いを変えない。それに闇ギルドの元マスターが占い師をやっているなら、さぞ的中率が高いことだろう。
アマリリスは姉が増えたような感覚で、兄ではできない会話を楽しもうと、ユアンの衣装に目を向けた。
「この衣装もすごく似合ってるわ」
「でしょう〜!」
「ねえ、さっさと話を進めたいんだけど」
話が盛り上がりそうな矢先にツンとした態度のルシアンが口を挟み、近くにあった客用の椅子に腰を下ろす。アマリリスはユアンの知らない一面を知ることができて嬉しいと思いながら、ルシアンの情報収集能力に感心した。
「それにしてもユアン兄様が占い師だなんて、ルシアン様はどこで情報を仕入れたのですか?」
ユアンがお茶の用意を始めたので、アマリリスは手伝いながらルシアンに訊ねた。
「母上の馬車が事故に巻き込まれたのが、占いの館ラシャ・ムの帰り道だったんだ。徹底的に調査したし、サンドラに調べさせたらすぐにわかったよ」
サンドラは伯父一家が仕切るクレバリー侯爵家で助けてくれた使用人だった。だがそれは表の顔で、本当はルシアンがアマリリスのために派遣した王族の影だと聞いている。
(サンドラのことを聞いた時は驚いたけれど、振り返ってみたら納得だったわ)
いつもアマリリスが困るたびにタイミングよく現れ、手を貸してくれていたのだ。考えてみれば、普通の使用人があそこまでマリリスの行動を把握するのは難しい。
サンドラはアマリリスがクレバリー侯爵家から出たことで、ルシアンの元に呼び戻され日々任務をこなしているそうだ。
「ちょっと、顧客情報をさらっと暴露しないでよ。まあでも、最近よくサンドラが来てたのが捜査だったというのはわかった」
ユアンは眉間に皺を寄せてルシアンに苦言を呈するが、サンドラのことを話す時は穏やかな笑みを浮かべる。
(ユアン兄様はサンドラが絡む時だけ態度が違うのよね。私に見せる顔とはまた違って、なんていうか素に戻る感じで……もしかしたらもしかするかも?)
アマリリスは幸せな未来の想像を膨らませて、こっそりと口角を上げる。ユアンが淹れたお茶をテーブルに並べて、アマリリスも椅子に腰掛けた。
ユアンは壁の時計に視線を向けてポツリと呟く。
「そろそろテオも来るかな」
「テオ兄様も!」
「リリス……あまり余所見ばかりしないでくれる?」
テオドールも合流すると聞いてアマリリスが満面の笑みを浮かべると、ルシアンはムッとした表情で独占欲を剥き出しにした。
「ルシアン様、相手は兄様たちですわ」
「リリスが意識を向ける異性は僕だけにしてほしいよ」
~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
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