一迅社アイリス編集部

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一迅社文庫アイリス・アイリスNEOの最新情報&編集部近況…などをお知らせしたいな、
という編集部ブログ。

こんにちは!

本日はアイリスNEO 11月刊の試し読みをお届けいたしますビックリマーク

『ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです』

著:園内かな 絵:彩川ぬるぴょ

★STORY★
熱烈に恋した天才魔術伯アランを追いかけまわし、押しかけた彼の家で階段落ちを決めたことで前世の記憶を取り戻してしまったエリこと、王弟セントリム公爵家の我儘令嬢エリザベス。
「元々ごく普通で大人しい日本人だったのに、振られている相手にアタックし続けるとか無理。
男に依存するようになるのはとにかく、暇なのがいけない」
そう考えたエリは、公爵家の恵まれた富と権力を使い楽しく暮らそうと、今世の魔法技術からなんとスマホ(のようなもの)の開発を目指すことに。
周囲の協力の下、お披露目までこぎつけたエリだが、そこにすっかり忘れていたはずのかつての想い人アランが現れ――

好き、好き、好き!

純度100%のエリザベスの恋心が一瞬で燃え上がる!?
恋に落ちたら一直線の転生令嬢が贈るラブファンタジー!

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 その日、私は前世を思い出した。
 階段から落ちることによって、前世はごく平凡な日本人であることを思い出してしまったのだ。
 今世の私はエリザベス・セントリム公爵令嬢だ。セントリム公爵は現国王の弟、つまり王弟であり豊かな領地をいくつも運営している大貴族。とてもお金持ちで権力もあって、かつ娘には甘いので親ガチャは大成功と言えよう。
 セントリム公爵家には三人の子がいて、構成は兄が二人に末娘である私となっている。父母と、年の離れた長兄は、ただ一人の娘である私を舐めるように可愛がった。それはもう、どんな我儘をも許すほどに。
 私が望むものは何でも与え、私の意に添わぬものは徹底的に排除してくれた。
 そんなことをしたらどうなるか。
 それはもう、他の追随を許さぬほどの傲慢で独善的な我儘令嬢の爆誕である。
 次兄は私と年子であるので、それを冷めた目で見ていた。まあ、年の近い妹だけが可愛がられ自分は厳しく育てられるのだ。今の私なら、彼の気持ちは分かる。
 しかし今までは家族の誰も、次兄の立場を慮ることなく、ただただ末っ子の私を可愛がり続けた。
 そんな私がある日、熱烈な恋に落ちた。それも、一方的なやつだ。
 お相手はアラン・バーテルス魔術伯。魔術伯とは王国内に五人しか居ない、天才魔術師だけが叙爵される貴族位だ。宮中伯のように領地を持たない伯爵扱いだが、その身分は権力構造の外部に置かれている。
 実力がありすぎて王家も一目置く存在なので、公爵家が何を言ってきても無視出来るってことだ。
 アランさまは再三に渡る公爵家からの縁談をその都度きっぱり断った。
 それでも全く諦めないのがエリザベスという存在だ。むしろ、

(私が結婚してあげると言っているのに断るなんて、遠慮しているのかしら)

 くらいに考えていた。私はアランさまを恥ずかしげもなく追いかけまわし、つきまとい、まあストーキングをしていた。
 相手の迷惑を考えずに、いつも王宮にある彼の研究室に押しかけ、馴れ馴れしく話しかけ続けた。アランさまは普通にめちゃくちゃ迷惑そうにしていたが、それでも私は一切へこたれることはなかった。

『アランさまったらつれないお方なんだから、もう』

 そんな風に使用人たちに嬉しそうに言っていたのだ。
 いやどういう思考回路してんの?
 私が好意を抱くことによって彼の迷惑になっているなど、夢にも思っていないのだ。私に好かれて光栄でしょう、と素直に信じ込んでいたし、自分を疎む人なんて世界には居ないと考えていた。
 どんだけ自己肯定感が高いんだ。前世の私からは考えられない。
 前世の私はごく一般的な日本人だったので、周囲の空気を読んで立ち回っていた。自我を剥きだしにして意見を押し通すなんて行為は苦手だし、やろうとも思わない。
 恋愛だって、生きるか死ぬかくらいの熱い思いは持ったこともなく、なんとなく良い感じの人と付き合って合わなくなったら疎遠になって別れる、というごく普通の経験しかなかった、と思う。
 気のない人にしつこくアタックしたり、別れ際に刃物を持ち出したりはしたことがない筈だ。私はそこまで恋愛に生きるタイプではなかった。
 気の合う友人とお喋りし飲みに行くこともあるが、趣味のソシャゲや観劇を静かに一人で楽しむことも出来る、ごくごく普通の社会人として過ごしていた。
 それが、一体なんでこんなことに。
 はあ、と溜息を吐いて物凄く広くて豪華な部屋を見回す。ベッドに寝かされていたが、天蓋付きの広々キングサイズだ。
 私が身を起こすと同時に、部屋に侍女のステイシーが入って来た。

「あっ、エリさま! 目を覚まされたんですね」
「えぇ」
「アランさまの使いが、お見舞いの先触れに来られてますよ! やりましたね!」
「え……?」
「お見舞いを口実に、アランさまをお部屋にお呼びして今までより仲良くなっちゃいましょう!」

 なんというか、周囲もこういうノリなのだ。
 誰か止めよう?
 父母も長兄も『早くアラン伯と婚約出来たらいいねぇ、エリザベスがお嫁に行くのは寂しいけど』という感じだし、使用人たちも押せ押せの応援態勢なのである。
 ステイシーは私より二つ上の腹心的侍女であり、ねえやでもある。
 今までの私なら、

『そうよねっ! やっぱりお部屋にお呼びしなくっちゃ! ステイシー、アランさまのもてなし方法を考えてっ!』

 という風なことを言っていた筈だ。
 今はそんなこと考えただけでも胃が痛くなる。

「……お見舞いは結構ですと、お断りして」

 自分の口から出た声が、めちゃくちゃアニメ声というか、甲高くキンキンする声にびっくりして最後の方は小声になってしまった。
 そのせいか、ステイシーも驚いて聞き返している。

「エリさま? ちょっと、私の耳がおかしかったのかもしれないのですが? 今なんと?」
「使者の方にはお断りして帰っていただいて。後日、こちらから文を送りますと伝えて頂くといいかしら」

 するとステイシーは瞬いた後面白そうにニヤッと笑った。

「ははーん、エリさまもなかなか賢くなられましたね。後から呼び出して言うことを聞かせるわけですね?」
「そんなわけないでしょう。此方から送るのはお詫び状よ」

 今度こそ、ステイシーは絶叫した。

「えーっ! エリさま、一体どうしちゃったんですか?!」

 今までの方がどうかしていたんだが。
 そうは言わずに退室を促す。

「頭痛がするからしばらく安静に休むわ。伝言、よろしくね」

 そう言って再び枕に頭をつけて目を閉じる。
 ステイシーは納得いかないようだったが、私が黙って寝ているので仕方なく出て行った。
 そう、私が階段落ちを決めたのは、押しかけたアランさまのお屋敷内での出来事だった。


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~
こんにちは!

本日も一迅社文庫アイリス新刊の試し読みをお届けいたしますハロウィン

試し読み第2弾は…
『婚約破棄からの溺愛生活2 竜帝国の新生活は試練がいっぱい』

著:彩戸ゆめ 絵:小田すずか

★STORY★
前世日本人の記憶を思い出し、竜人皇太子シリウスの番となったクリスティアナ。
神族の国アキテーヌの末裔である彼女は、愛する人とともに竜帝国へと渡る――のだが、シリウスが不在の隙に周囲から執拗な嫌がらせを受けてしまう!
さらに怪しげな研究者からアキテーヌの神力を調べたいと迫られて!?
私は、もっと強くなりたい。シリウスの隣に立てるような、強い女性に――。
美貌のスパダリ竜人皇太子×自由に生きたい転生令嬢の溺愛ラブファンタジー第2巻!

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 イグドラシル――。
 それが、私が初めて目にしたドラゴラム帝国の首都の名前だった。

 馬車の窓を開けると、ひんやりとした澄んだ空気が頬を撫でた。思わず息を吸い込むと、肺の奥にまで清涼な香りが満ちる。
 針葉樹の香りと、岩肌に咲く高山植物のかすかな香り。
 どこか懐かしく、けれど異国の風の匂いがする。
 ほんの少し前まで、私は王国の王宮で息を殺して生きていた。
 婚約者である第二王子デイモンドに放置され、異母妹ニーナを虐げた悪女だと決めつけられて、それでも耐えるしかなかった。
 あの夜会で婚約破棄を突きつけられた瞬間、前世の記憶まで蘇ったのは、今思い返しても不思議なくらいだ。
 けれど、あの屈辱があったからこそ、私はもう家族も過去も捨てられたのだと思う。窓の外には、三方にそびえ立つ山々がまるで帝都を守るように連なり、その深緑の稜線が青空の下にくっきりと描かれているのが見える。
 切り立った山肌は白銀に輝き、その頂には万年雪が冠のように輝いている。
 イグドラシルが、巨大な力を持つ天族の築いた、自然を生かした都だと聞いても驚かないわ。

「凄い……」

 思わず、そんな声がこぼれる。
 王国の首都とは、まるで別物だった。
 あちらの空は、いつも誰かの噂や視線で濁っていた気がするのに――ここでは、ただ澄んでいる。私の胸の奥まで。
 ふと視線を上げた私の目に、空に浮かぶ影が映った。

「あれは……?」

 雲が晴れた後に現れた巨大な島――いや、小さな大地と呼ぶべきかもしれない。山の斜面よりも高い、空のずっと上に、ぽっかりと浮かぶ島があった。
 まるで空の守人のように、帝都の真上に静かに佇んでいる。

「あの浮島には古代の宮殿がある。かつて、竜族が今より多く竜に変化できる者が多かった頃、彼らは地上ではなく、あえて天空に宮殿を築いた」

 隣でシリウスが、私の視線を追うようにそっと口を開いた。その声は穏やかだったけれど、どこか遠い記憶を語るような響きを持っていた。
 ――シリウス。
 あの夜会で、床に転がった私の指輪を拾い上げ、まるで当然のように私の薬指へ戻してくれた人。
 そして、『番』という言葉の重みを、甘いほどまっすぐに教えてくれた人。
 竜人の番は、一目で心を奪われ、生涯変わらぬ愛を注ぐ相手だ。ただし、すでに婚約者や配偶者、相愛の相手がいる人には反応しない。
 彼らにとって、番とはただの恋愛対象ではなく、もっと深い魂の結びつきで、一度愛したら生涯その人だけを愛するということなのだろう。
 竜族であるシリウスも、私が戸惑うほど、好意を隠さず向けてくれる。
 それが面映くありつつも、嬉しい。

「あんなところに宮殿が?」
「昔、竜化できる者が多かった時代には、あの浮島に宮殿を築き、そこで暮らしていたそうだ。空を自由に飛び回れる竜族にとって、地上よりも空のほうが住みやすかったのだろうな」

 竜化――人の姿から、巨大な竜の姿へと変化する力。
 竜人の中でも、特に血が濃く、力の強い者だけが持つ能力だと聞いている。
 そもそも竜人の世界には、人間の国のような爵位はないという。竜の血の濃さこそが、そのまま位の高さに繋がるらしい。

「今は、もう誰も住んでいないの?」
「ああ。竜化できる者が減ってしまってからは、あの宮殿は放棄された。今では廃墟だ」

 シリウスの声には、どこか寂しげな響きがあった。
 あんなにも堂々と空に浮かぶ場所が、廃墟だなんて。華やかな夜会で、私の人生が壊れたのと同じように、栄えていたものがあっけなく置き去りにされることもあるのだろうか、と胸が少しだけ痛む。

「だが、あそこには初代竜王の墓標がある。かつては、竜王になる者が墓標の前で祈りを捧げ、竜族の守護を誓うのが慣例だった。今ではそんな慣例があったことすら知らないものも多いだろう」

 そこで言葉が途切れる。
 私はそっと、彼の横顔を見つめた。長い銀髪が窓の光を受けてほのかに輝き、その紫の瞳には浮島を映していた。
 やがてシリウスは、わずかに目を伏せる。

「竜化できるのは、今では私だけだから」

 その言葉に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
 歴代随一の力を持つと称賛される一方で、きっと孤独だったのだろう。同じ力を持つ者がいない。
 誰も、自分と同じ空を飛ぶことができない。
 私は、王国でずっと「耐えるしかない」場所に閉じ込められていた。
 孤独の種類は違うけれど、誰にも分かってもらえない痛みがあることは知っている。だから、シリウスの何気ない言葉が、余計に胸に刺さった。

「でも、クリスティアナ」

 シリウスが顔を上げ、私を見つめた。その紫の瞳には、柔らかい光が宿っている。

「君が隣にいてくれるなら、もう孤独ではない。たとえ竜化できる者が私一人だとしても、君という、かけがえのない存在が側にいてくれる」

 ああ、もう。
 王国では、私の言葉も願いも、都合よくねじ曲げられてきたのに。
 この人は、私が言われたかった言葉を、迷いなく差し出してくる。
 こんな風にまっすぐに愛を告げられたら、心がどんどん傾いていくのが分かってしまう。
 顔が熱くなるのを感じて、私は慌てて窓の外に視線を戻した。
 浮島は遠く、翼を持たない私が行くことはできない。
 でも、いつか――。
 私がシリウスの『番』になったなら、あの浮島を、訪れてみたい。
『番』、というものが、正式にどのような形で成立するのか、まだよく分かっていない。心が決まったその日から『番』になるのか、それとも儀式や契約のようなものが必要なのか。
 多分もうシリウスの中では、私を正式な『番』だと決めているのだろう。でも、私としては、婚約披露の場を経て堂々とシリウスの婚約者だと名乗れるようになってからだと思っている。
 人族である私には、竜人のように『番』の絆を感じられない。だからこそ、婚約者という正式な身分が欲しい。
 その上であの浮島へシリウスと一緒に行けたなら……。
 それはただの憧れではなく、私が「ここで生きる」と決めた証しのような気がした。
 私はそっと隣に座るシリウスに身を寄せた。

「いつか、私もあの場所へ連れて行ってくれる?」
「もちろんだとも。ただ――」
「ただ?」

 言いよどむシリウスの続きの言葉を促すと、その紫の瞳がわずかに翳った。

「帝国には、古くからの血統を重んじる者たちもいる。すぐに君を受け入れない者もいるだろう。もちろん君に危険がないようにするが、万が一――」

 シリウスが言いかけたところで、馬車が小さく揺れた。

「大丈夫よ」

 私は先回りして、そう言った。
 シリウスが、やや意外そうに私を見る。

「王国で、ずっと耐えてきたわ。それに比べれば、怖いものなどないもの」

 そう言いながら、胸の奥では少しだけ緊張する。
 けれど、顔には出さないようにした。
 私は、胸元で輝く白銀の鱗にそっと手を触れた。
 シリウスがくれた、守護の鱗。王国で最後に仕掛けられた罠の夜も、この温もりが私の心を支えてくれた気がする。
 そしてお母様が遺してくれたアキテーヌの指輪――奪われて、踏みにじられて、それでも私のもとへ戻ってきた星。
 この二つが、……そしてシリウスが、私を守ってくれる。
 けれど、それに頼り切るのではなく、私自身も強くならなければ。
 誇り高きアキテーヌの血を引く者として、もう、誰かに虐げられる日々には戻らない。
 そして、いずれは――シリウスの『番』として。
 この地で、新しい人生を歩み始めるのだ。
 馬車が白銀の門をくぐる。
 私の、新しい物語が、今、始まろうとしていた。

~~~~~~~(気になる続きは本編へ)~~~~~~~

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こんにちは!

来週20日は一迅社文庫アイリス10月刊の発売日ラブラブ
ということで、今月も新刊の試し読みをお届けいたします爆  笑

試し読み第1弾は……
ベルアイリス異世界ファンタジー大賞 アイリス特別賞受賞作ベル
『逆行令嬢リリアンヌの二度目はもっと楽しい学園生活1』

著:鈴埜(すずの) 絵:天領寺セナ

★STORY★
星降る宴で子爵令嬢リリアンヌは激怒していた。なぜなら聖女に夢中な王子に敬愛する主・公爵令嬢スカーレットが、冤罪で婚約破棄されたからだ! あまりの理不尽さにリリアンヌは王子に盾突き、殴られ、気絶して、目が覚めると――。
主至上主義の逆行令嬢が未来改変に爆走する学園ラブファンタジー!

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 目を開けるといつもの見慣れた天井。
 おお、やってしまった。でもさすがに吹っ飛ばすのはあちらもやっちまっている。これで多少の不敬も相殺されるだろう。体を張りすぎた。スカーレット様に怒られそうだがまあ致し方ない。
 腹の虫が収まらなかったからね!
 自分の行動にしっかりと言い訳を披露すると、ぐぅっと胃が主張を始める。今度は別の腹の虫。お腹が空いた。食べないと頭が回らない。起きて身支度を整えたらスカーレット様と連絡を取らないと。できれば公爵様にもお詫びして、ということはお父様にも一緒に行ってもらわないといけない。
 うん、怒られる。
 家を潰されることはないと思うがさてどうなるやら。
 だいたい、両陛下もお気に入りのスカーレット様を勝手に婚約破棄して無傷で済むと思うなよ、である。
 呼び鈴を鳴らすとベッドを飛び降りた。
 飛び?
 部屋の隅にある鏡を振り返る。母親譲りのオレンジに近い赤髪。父親そっくりの明るい緑色の瞳。我ながら愛らしい姿。スカーレット様のような美しさではないが、私は十分かわいらしい。それらは確かに私、リリアンヌのものだ。
 が、

「は?」

 何このちんちくりんな姿は。身長がまったく足りない。もともと身長は低い。だがそれにしても低すぎるのだ。結構育ったお胸はどこにいった!?

「はぁぁぁぁぁ!?」
「どうされましたお嬢様」

 私の叫び声を聞きつけて、部屋に飛び込んできた古参の侍女を振り返る。

「ニーナ! わたし今、何歳!」
「……十二歳になられたところです」

 ふぅー、一度落ち着こうか。……無理かな。そう、私は縮んでいた。殴られたあの時から四年ほど前の姿に戻っているのだ。

「さあ、リリアンヌ様。お目覚めになられたら支度をして食堂へ参りましょう」

 あまりの衝撃に、心ここにあらずとのろのろ動いていたら、ニーナが我慢できなくなりせかされた。顔を洗い、渡された白の手袋をする。屋敷内でつける、手首までのシンプルなものだ。
 朝食を摂っている間、ずっと考え込んでいたけれど結論は出ない。
 一番現実的なのが、殴られた衝撃でこれが夢の中だという現実ではないものだった。
 しかしその後、何度寝て起きてを繰り返しても夢から醒めない。

「殴られてそのまま寝続けている、とか?」

 五日経ったところで諦めた。
 夢で昔に戻っているとしたらしたで、せめて夢の中では同じ轍を踏まないようにしよう!

「わたしは、スカーレット様に幸せになってほしい!」

 そうだ、あのクソ殿下と婚約なんてさせなければ……。

「ぁぁぁぁぁぁ!! もうしてる!」

 確か十二歳の春生まれの殿下とスカーレット様は、すでに婚約を発表したのだ。

「これは、円満婚約解消に持ち込むしかない」

 なかなか難しいがやるしかない。一つずつこなしていけば、やれないことなどない。それは私に与えられたスカーレット様のお言葉だ。
 明日はスカーレット様のお屋敷に招待されている。母親のお茶会だが、子どもたちは子どもたち同士で遊ぶのだ。ほとんどが伯爵子爵の娘や息子だが、男爵令嬢もいた。
 十二歳、つまり、殴られたあの日から四年も昔。細かいことなんて覚えてない。この頃のスカーレット様の様子もはっきりと覚えていなかった。
 王立学園入学は十四になる年の秋。あと二年で対策を練ってから乗り込みたい。
 そのために現状の把握と過去の出来事を書き出さねば。

「ニーナ! わたし、秘密日記を書きたいの! お父様に秘密日記をおねだりしたい」
「あらまあ、お嬢様。もうそんなものを欲しがるのですか? おませさんですね」

 秘密日記とは、自分だけしか開けない血印魔石を嵌め込んだ日記帳だ。だいたい王立学園へ入学する時に親から子へとプレゼントされるのだ。
 その秘密日記には、貴族として表には出せない感情を綴る者が多いという。男性も然り。秘密の交友関係や人物の所見など、そして恋愛について書き記す。
 色恋沙汰の始まる学園への入学祝いの一つとして贈られることが多い。
 だが、私には今それが必要だった。書き出したものを、未来を見られては困るのだ。

「お嬢様のお望みはきちんと旦那様にお伝えしますよ」
「大至急よ! お願いね!」

 ニーナはハイハイと繰り返す。

「ハイは一回よ!」

 茶色の瞳をキョトンとさせたあと、ニーナは笑顔でハイと言った。
 そのセリフは今まで嫌というほどニーナから私に向けられたものだからだ。



 翌日、母親に連れられ馬車に乗り、久しぶり、もとい、初めてのスカーレット様にご対面だ。これまでは私は領地にいた。子爵である父が代々受け継いでいる、王都から少し離れた土地だ。長男夫婦がようやく領地経営をこなせるようになったところ。反対に私は入学前に色々とつなぎを作っておくため、王都のタウンハウスに住むこととなった。つまり、この日が正真正銘のスカーレット様との初対面だった。当時は初めての公爵家へということで緊張していたが、今はまったく違った理由でとても緊張している。
 タウンハウスでのお茶会とはいえ、さすが五公で一番力があるといわれているラングウェル公爵家。庭も広いし手入れも行き届いている。
 途中、スカーレット様が幼少期より大切にしていた濃い赤のバラの花壇を見つけた。けれど、未来で見せられたときよりも、まだ小さな区画にしか植えられていない。これから毎年少しずつ区画を広げていくのだ。

「あら、リリアンヌはこのバラが気に入ったの?」
「ええ、お母様。燃えるような赤が情熱的で素敵です」
「ふふ。さすが秘密日記をこの年で要求してきただけあるわね。情熱的ですって? どこでそんな言葉を知ったのかしら。……株分けしていただけないか、あとで公爵夫人に聞いてみましょうか」
「いいえ、お母様。ここで見られたから良いのです」

 これはやがてスカーレットローズと呼ばれるようになる。私の屋敷にあっていいような花ではない。あの気高きスカーレット様のためのバラなのだ。

「このバラはここで咲いているべきものなのです」

 ああ、スカーレット様。必ずやこのリリアンヌ・クロフォードが、スカーレット様の輝かしい未来をお守りしてみせます。赤いバラ園を後にし、私は決意を新たに進む。
 ふと、何やら騒がしい、この場にそぐわない大きな声が聞こえる。

「あら、何かしら」

 母は険のある美人だ。支配されたい属性を多大に持つ甘顔の父が毎日褒めているその鋭い眼差しを、騒ぎの中心へ向けた。
 私も気になりそちらへ視線を向ける。
 耳に届くはまだ幼さの残る、麗しの美声。

「こら、リリアンヌ」

 フラフラと吸い寄せられる私の肩を、母の扇でトンっと叩かれる。
 案内係が少々お待ちくださいませとそちらへ向かった。

「会場はあちらよ。先に行っていましょう?」
「いえ、お母様。わたくしは確かめねばなりません」

 制止を振り切り歩を進める。
 やがて現れた風景は、私の記憶を鮮烈に蘇らせた。
 そうだ、この頃のスカーレット様は、それはもう、まごうことなき、我が儘公爵令嬢だった。

「わたくしはそれを寄越しなさいと言ったのよ」

 地団駄を踏む勢いでまくしたてるスカーレット様。それはそれは可愛らしい姿形だった。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~