『まがいもの令嬢から愛され薬師になりました』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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という編集部ブログ。

こんにちは!

来週早々には一迅社文庫アイリス6月刊の発売日!
ということで、今月も試し読みを実施いたします(≧▽≦)

試し読み第1弾は……
『まがいもの令嬢から愛され薬師になりました』

著:佐槻奏多(さつき かなた) 絵:笹原亜美

★STORY★
公子から婚約を打診された伯爵令嬢マリアは、決めた――死んだふりをして、修道院へ逃げようと。なぜなら彼女は伯爵と血縁のない、まがいもの令嬢だったのだ。そこで善は急げと馬車に乗ったのだが、幻獣が棲むガラスの森を通りかかったマリアは、巨大ハムスター(幻獣)に連れ去られてしまい――!? 
なぜか幻獣に絡まれまくる少女の薬師ライフラブコメディ!

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 ――――ミツケタ!

 そんな声が聞こえた気がして、はっと周囲を見回す。霧でなにも見えない。
 だがドドドドドドドドドとおかしな地響きが聞こえる。

「鹿の大群……?」

 怯えつつ、マリアは必死にブルーノを起こそうとした。

「ブルーノさん、早く起きてください! とにかく馬車の中に隠れて……ひっ!」

 周囲の霧が晴れ始めた。
 するとマリアの手を伸ばせば触れそうな距離に、不可解な生き物がいるのが見えたのだ。
 それはマリアの背丈を越える、大きなハムスターだ。

「ハム……スター?」

 姿は確かにハムスターだ。ずんぐりむっくしりた体型につぶらな瞳。小さな手足が愛らしい。温和な幻獣で、よく森の外に出没するのでマリアも一度だけ見たことがある。でも普通は、手の平に乗るぐらいの小ささなのに。

「大きすぎでは……?」

 目の錯覚かと思い、マリアは気つけ薬を持っていない方の手で、自分の目をこする。
 瞬きをする。
 でもやっぱり巨大なハムスターがそこにいた。そして微笑んだ気がした。
 怯えたマリアだったが、次の瞬間、薄茶色や黄金色、白の毛皮に突撃された。

「わぷ!」

 毛が口に入った。でも痛くはない。
 しかも、なぜかすりすりふわふわされて……。

「な、なに? 懐かれてる!?」

 どういうことかわからない。呆然としていたら、頬をマリアの頭にこすりつけていた一体の勢いが強くて、思わず転んだ。
 背中はもふっとしたものに当たったので、これまた怪我はしなかった。
 が、そのままもふっとした地面が移動を始める。
 周囲が見えなくてもわかった。
 ハムスターに担ぎ上げられて、横にずささささと移動させられているのが。
 晴れ始めた霧の中、ブルーノと馬車の姿が小さくなっていき。そしてすぐに木立にさえぎられ、見えなくなった。

「え、え、え!?」

 マリアは戸惑うばかりだ。
 とにかく馬車から、ハムスターによってどこかへ運ばれているのだけは理解していた。

「どこへ行くの!?」

 大きなハムスターの群れはものすごい速さで森の中へ突撃している。
 脱出したいが、無理をすると転げ落ちる。そうなれば、木の枝や木の根の突起で体をぶつけて、骨折するだろう。
 怪我は極力避けるべし。
 怪我をしたら今後に響く。身動きが取れない上に、森から出る方向もわからなくなったら、かなり危険だ。森には幻獣だけではなく、狼や熊もいるのだから。

「いつかはハムスター達も力尽きて止まるわよね? それまで待ちましょう」

 心を落ち着けようと考えを口に出したものの、すぐに他の不安が心の中に湧き上がる。

「はっ、でもどこかへ投げ出されたらどうしよう」

 相手は謎の生物だ。
 いつ『もう飽きたー』とばかりにマリアを放り出すかわからない。
 不安になったその時――ふっと周囲の空気が変わった。
 見れば辺りの光景が一変している。茶色のガサガサとした幹の木はどこにもない。
 地面も、草も木も、滑らかな薄青のガラスに変わってしまっていた。
 薄青く光りが透けるガラス木は天へ伸び、触れれば固い音がしそうな硬質な枝葉を茂らせている。氷で作られたような葉の隙間から見えるのは、薄曇りの空だ。
 ガラスの葉そのものが光っているのか、空よりも森の中の方が明るい。
 まるでおとぎ話の挿絵のようだ。
 しかもここには、より高度な薬を作るために必要な物が沢山あるのだ――。
 ぼんやりと数秒観察してしまったマリアは、それから危険さを思い出してぞっとする。
 森の奥へうっかり踏み込んだら、ガラスにされてしまう。

「お願い降ろして! できれば森の外へ帰して!」

 叫んだが、ハムスター達は反応すらしない。
 マリアは叫びながら身をよじった。

「降ろしてぇぇぇー!」

 しかし何度叫んでも、ハムスター達の歩みは止まらない。
 それどころか真っ直ぐに、塔のように太いガラスの大樹に激突しようとしている。

(お養父様、マリアは予定より早くそちらへ参ります……)

 観念してそう祈っていたら。


「――止まれ」


 誰かの声が聞こえた。
 そのとたん、ハムスター達の行進が急停止した。

「ひいぃ!」

 運ばれていたマリアは、今までの勢いのまま宙に放り出される。
 落下感に悲鳴を上げつつ、とにかく頭を守らなければ! と思ったところで、誰かに抱き留められた。
 衝撃はあっても、しっかりと力強い腕に支えられたおかげで、痛くはない。
 そしてマリアを受け止めた人物は、なぜかマリアの頭の上に頬をくっつけているような……?

「ありがとうございます……」

 反射的に礼を言うと、はっとしたように彼の顔が頭から離れたのを感じた。
 見上げると、間近に少しうつむいた青年の顔が見える。
 少し伸ばしすぎた感じの、灰がかった亜麻色の髪は、薄青の世界に差し込んだ、淡い朝の光のようだ。次に、自分をじっと見つめる紫の瞳に視線が向く。その目が、マリアを見定めているように感じられた。
 それからようやく、彼が白皙の美青年だということに気づく。
 彼のように整った顔立ちの人を知らない。たとえるなら、美化して描かれた姿絵の人物が、そのまま飛び出してきたみたいだ。
 それでいて、決して軽くはないはずのマリアを抱えられる肩幅や体の厚みがあった。日々筋力を鍛えている人なのだろう。
 ただ顔色は思うほど良くない。……ガラスの青い光のせいだろうか。

~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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