今週末には一迅社文庫アイリス4月刊に発売されます!
ということで、本日から試し読みを実施します(≧▽≦)
第1弾は……
『皇帝つき女官は花嫁として望まれ中』

著:佐槻奏多(さつき かなた) 絵:一花夜(いちげ よる)
★STORY★
前世、帝国の女性騎士だった記憶を持つオルウェン王国の男爵令嬢リーゼ。彼女は、死の間際に帝国の重大な秘密を知ってしまった。だからこそ、今世は絶対に帝国とはかかわらないようにしようと誓っていたし、王国へと視察に来た皇帝につく女官選びも関係ないと思っていたけれど……。
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シディスと呼ばれた騎士は、恐ろしいほど秀麗な青年だった。
中性的な雰囲気はあっても、顔の輪郭も鋭角的だ。黒と銀の上着やマントは、彼を引き立てる繊細な飾りのよう。緑の瞳も湖の色に似て綺麗だった。
皇帝と違って、彼とは初めて会うのに、なぜかリーゼは見覚えがある気がした。
リーゼは右手を左肩に添えてオルウェン王国流の礼をしながら、思い出そうとする。
彼の外見からすると、まだ百歳になっていない。前世で自分が生きていた頃、彼は生まれていたかどうか怪しい。だから気のせいだ。
心の中でそう結論づけたリーゼに、ふと彼は言った。
「剣だこ……」
シディスの視線が、袖からのぞいていた自分の手に向いている。
しかも考え事をしていたせいか、手が帝国式の握る形になっていた。マズイと思ったが、今さら直してもおかしいと思われてしまう。
なにより問題の剣だこ。部屋が広いのをいいことに、嫌なことがある度に、こっそりと素振りをしているせいで、できたものだ。
不審に思われるかと思いきや、シディスの厳しい表情が緩んだように見えた。
……剣だこが好きなのだろうか?
シディスはそれ以上何か言うわけでもなく、「失礼した」と謝ってからリーゼに質問してくる。
「皇帝陛下について、どのような印象を抱いたかを答えてもらいたい」
「大変お守りしがいのある方……だと思います」
前世のことを思い返していたせいか、「方でした」と言いそうになったリーゼは、慌てて濁す。守ったことがあるみたいな言い方になるところだった。
けれどシディスが息をのみ、急に手首を掴んでくる。
その時、彼の手が磁石のようにぴったりと引き合った変な感覚がした。
顔を上げると彼もリーゼをじっと見つめていた。信じられないものを見る目で。
そうして口を動かした。リーゼには『まさか』と言った気がしたのだが……。
彼はそのまま、リーゼを引っ張り上げて立たせ、玉座にいる皇帝に向かって言った。
「皇帝陛下、この者を陛下つきの女官に推挙いたします」
「え!?」
絶対選ばれるわけがない。リーゼ自身もそう思っていたし、背後からも「なんであのイノシシ娘なの!?」というざわめきが起こった。
リーゼは驚きすぎて、シディスの動きについていけずに足がもつれた。それをシディスは勘違いしたのだろう。
「足が悪いのか? 気づかなくてすまなかった。急ぐので少し我慢してもらいたい」
そう言うなり、彼はリーゼを横抱きにした。
「ひぇぇぇぇぇ!」
初めて男性の腕に抱えられたことに驚愕する。驚きすぎたのか、蚊の鳴くような声しか出ない。
しかも、なぜか抜け出すことができなかった。まさか魔法でも使ったのかとリーゼは疑ったが、そんなそぶりはない。
当のシディスは、皇帝の前へ来ると混乱するリーゼを降ろして言った。
「陛下、この者を滞在中のお付きの女官にご指名ください」
そしてリーゼにささやく。
「名前を申し上げるんだ」
「ひっ……」
言ったら本当に女官に選ばれてしまう。ためらったリーゼだったが、視線をさまよわせた先にいた老年の宰相や貴族たちににらまれて、諦める。この段階で、何も言わずに去るだなんて非礼はできない。
「リーゼ・ウィンスレットにございます」
一礼して名乗ると、皇帝の方は何も言わずにうなずく。
すぐさまアルセード公爵が、大きな声で居並ぶ王国の人々に公表した。
「滞在中の間、この者リーゼ・ウィンスレットを皇帝つき女官に命ずる」
リーゼがぼうぜんとしている間に、アルセードは退出を宣言する。
皇帝が玉座から立ち上がり、他の騎士や帝国貴族達もそれに従った。
「リーゼ殿。ご同行いただきたい」
アルセードに言われたものの、リーゼはすぐに行動できない。ありえない出来事が続いたせいだ。
~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~