加藤ローサが自殺?『天国はまだ遠く』ネタバレ。 | アイス ラヴさん。の甘く危険な映画日記。
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『デトロイト・メタル・シティ』の公開も待ち遠しい、加藤ローサの主演最新作を観てきました。切なくも瑞々しい等身大のラヴ・ストーリーでしたね。

仕事でストレスを感じ恋人とも別れてどん底の千鶴(ローサ)は、自殺するために特急列車に乗って、京都府宮津市へ向かいます。タクシー運転手(宮川大助)から勧められた山奥のオンボロの民宿「たむら」に泊まって、睡眠薬を大量に飲んで……という悲しいお話…ではないのです。

30時間以上眠り続けた彼女はリフレッシュ!。民宿の主・田村という青年の優しさと、天橋立の絶景を見つめながら、徐々に生きる希望を見いだしていくのです。野菜やニワトリを育てて食べて、蕎麦粉を打ち、ピアノを弾いたり…と、スローライフを楽しみまくります。満点の星空を見上げながら、一つ屋根の下で暮らす2人の間に、恋愛感情が芽生え始めて…。しかし田村は、彼女に話せない暗い過去に苦しんでいたのです…。

丹後在住の瀬尾まいこの原作小説を映像化。宮津天橋立映画プロジェクト実行委員会が制作支援してるだけあって、見事な街おこし映画でしたね。廃線跡・カトリック宮津教会・長江漁港・上世屋の藤織りといった地元の名所が次々と登場。ちょうど秋から冬への季節の変わり目なのも、切ない話にゃ効果的。この手の映画って、話の展開にこじつけて無理矢理嫌らしく名所を出したがる傾向があるのですが、この映画は自然に出て来たのが良かったですね。観終わったあと天橋立に行きたくなります。CG合成みたいな美しさですが、本物の絶景でしょう。たとえ股から覗かなくても…。

千鶴を見守り続ける田村役が、チュートリアルの徳井義実。心に傷を持つ人付き合いが苦手な青年を、不器用に好演。関西弁の感情を押し殺したセリフ回しも、観てるとクセになる。特に千鶴の目の前で締めたニワトリを焼いて食べさせるシーンでの誇らしげな清々しい表情が最高。役者の顔でしたね。好きなアーティストが吉幾三という設定で、引き出しから吉幾三ベストが何枚も出て来て、千鶴に「吉幾三って、何枚ベスト盤出すつもりなんだろう…」とぼやかれてるシーンには笑えました。

加藤ローサって、あまりお芝居が上手な訳じゃないんだけど、その不器用さがそのまま活かされた気がします。なんたって時折見せる笑顔が愛くるしいんですよ。漁港で田村と船に乗る時に、赤いコートを着た彼女が「交渉成立!」と嬉しそうに話す笑顔に、私は蕩けそうになりました(笑)。酔っぱらって吉幾三の「雪国」を歌うんだけど、酔ってるフリしてるのバレバレ!。でも、可愛いので許せてしまうのが素晴らしい。ファンならたまらないアイドル映画の要素もあります。

監督は長澤雅彦。若手女優の魅力を引き出し、ヒロインの切ない乙女心を描くのが本当に上手い監督ですね。中盤はコメディー路線に転換します。ただ…珍品も多いですよね。内山理名が実の父親をストーカーする『卒業』、多部未華子が2時間歩くだけの『夜のピクニック』、極めつけは相武紗季が可愛いだけの『Short Cakes』。どれもが駄作と呼ばれてますが、私はどれもが愛おしくて好きなんですよ。ただ、男心が描けてない気が…。長瀬智也が韓国でアクションした『ソウル』なんかショボクて、封印した方がいいと思うし(笑)。でも反町隆史がボロ泣きする『13階段』は重苦しくて頭抱えてしまったけど、あの頑張りがあったからこそ、反町さんは演技の殻を破って深みが増したんだよなぁ~と思うと納得か。そんな一貫性の無いフィルモグラフィーも素晴らしいのです(笑)。

遠近感や陰影にこだわってます。自殺の名所といわれている廃線跡を再利用した煉瓦造りの橋梁なんか、クレーンを使用してダイナミックに撮影。橋の上のローサから谷底まで観てると、あまりの高低差にスクリーン越しなのに足がすくんでしまいました。男性ファンなら思わず田村になりきって、千鶴を「飛び降りるな~!」と抱きしめたくなること必死でしょう(笑)。

ラストは切なかったですね。なぜ、田村は千鶴を引き止めなかったんだろうか?。彼女は引き止めてほしかったのに…という展開が見事な悲恋モノ。ここで流れる主題歌が最高!。熊木杏里の「こと」。『のだめカンタービレ』でおなじみの清塚信也のピアノをフューチャーした、心に沁み入る歌声に胸が締め付けられましたね~。熊木さんの素人臭い佇まいも素敵だけど、『バッテリー』主題歌に続き、また名曲誕生しました。そして渡辺俊幸の音楽も耳に残ります。

この映画、ヒロインの視点ばかりで描かれているので、相手男性の気持ちが解らないままで、あやふやなのが、ちょっと残念な気がしました。特に何も起こらない淡々とした映画なので、微妙な感情の揺れを見逃さないように。でないとウトウト眠くなるかもしれないので注意しましょう(笑)。

ゲストには田村の世話人役に板東英二、田村の婚約者役に藤澤恵麻、近所のオジさん役にチャンバラトリオの南方英二、千鶴の彼氏役に郭智博、そしてチュートリアルの福田充徳もこっそり出演してます。

加藤さんのスター性と、お笑い芸人の意外性のある演技に頼った感もありますが、自分らしく生きていく事について考えさせてくれるヒントが詰まっていると思います。

2008年秋、シネセゾン渋谷を皮切りに、こころにしみる全国順次ロードショーです。
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