二つの世界、ふわふわした私
前回からのつづき。日常へ引き戻された私を待っていたのは相変わらずの「戦場」。昨日までと同じ殺伐とした空気。上司の指示と目の前の膨大なタスク。けれどあの東京の講座を受けたあとから私の中には奇妙な感覚があった。忙殺されている自分をどこか高いところから冷めた目で見つめているもう一人の自分がいるような。今ここで必死に動いているこの人は本当に私なのだろうか。殺伐とした職場で誰かと渡り合っている自分が現実なのか。それともあの東京の静寂の中で香りを嗅いでいた自分が現実なのか。どっちが本当の世界なのか境界線がぼやけていくような。今思えばこれこそがスピリチュアルに触れ始めた人が真っ先にハマる「ふわふわ期」だった。地に足がついていないというか魂が体から少し浮き上がっているような感じ。職場に戻れば周りには相変わらず正しさや効率を武器にガチガチの鎧を着て戦う人たちがいる。以前の私ならその輪の中で肩を怒らせて参戦していた。でも今の私はどこか違っていた。ああ この人たちはまだあちら側の世界を知らないんだな。なんて今振り返るとあんた何様かと思うけど。それでも自分がちょっとした特別な存在かのような錯覚をはじめていた。もちろんそんなことは口が裂けても言えない。だから私はひっそりと二重生活を楽しむことにした。家ではワークショップで習ったアロマコスメを使ったり自分なりに精油を混ぜて新しいものを作ってみたり。殺伐とした一日を終えて部屋に広がる香りに包まれるときだけが私が私に戻れる時間。それがあるおかげでかろうじて明日もあの場所へ向かえるそんな気さえしていた。そんな折あの先生の新しいワークショップの告知を目にする。今度は月に1度3回セットくらいの講座。しかも、テーマはもうアロマではない。真正面からスピリチュアルについて学ぶという。そこにあったのは抑えきれないワクワクと得体の知れない不安と大きな戸惑いが入り混じった強烈な好奇心。「もっと知りたい」その一心で私は迷うことなく申し込みボタンを押した。有給を取る気まずさも東京へ通うコストもその時の私にはもうブレーキにはならなかった。現実と非現実の間で地に足がつかないまま。私の「自分探し」という名の迷走はいよいよ本格的なスピリチュアルの世界へと足を踏み入れようとしていた。つづく。