黒いマント ① | 林秀子のフラクタル心理カウンセリング

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夫に先立たれて、独り住まいのスガさんは、

この頃、眠くてたまらない、と言っていました。




近所の安江さんは、心配でならない。

良く眠ってばかりいた祖母を思い出すのだ。

そして、頻繁に顔を見に来ては


「スガさん、寝てばかりいたらボケちゃうよ」

「スガさん、何かしないと、ボケちゃうよ」

それが、挨拶がわりで、何度も繰り返します。




娘のAさんと、その子供達が久しぶりに来た時のこと。


安江さんが帰って行く後ろ姿を見て、スガさんは言った。


「黒いマントを着て、後ろに仮面をつけているようだ」と。



不思議に思ったAさんは、安江さんの後を追った。



「この頃、母に何か変わったことがありますか?」


 「ええ、良く眠ってしまうみたいなので、ボケちゃうよ、

  どこか出掛けたりすればと言ってあげてますよ」


「アッ ! やだ、そんな恐ろしいこと」

 

 「えっ、なに? 心配して言ってあげてるのに、、、」


「申し訳ありませんが、その言い方だと、母に暗示をかけてるとしか思えません」

 

 「まあ、なんて酷いこと言うの? わかりました。

  いいですよ。もう金輪際お宅には来ませんから」


「あ、あの、来て欲しくないと言ってるわけではありません。

すみません。私のほうこそ、酷い言い方をしてしまいました。

いつも、気にかけて頂いてありがとうございます。

ただ、お願いがあります。

”ボケちゃうよ”と言うのだけ、やめて頂きたいんです。

それがちょっと・・・」

 

 「あら、だって、私の祖母が寝てばかりでボケたんですよ。

  だから、ボケないように注意してあげてるんじゃない」


「あの、動いた方がいい、ぐらいにとどめて頂けませんか」


 「いやだ、あなた、わかってないわ。

  恐れがなければ 人間、なにも気をつけようとしないもんなのよ」



怒ったような顔で、踵を返す安江さんの後ろ姿。




Aさんのつぶやき 「黒いマントに仮面かー」




家に戻ったAさんは、スガさんに言いました。


「お母さん、うちに来て、一緒に暮らそう」

 

 「いいよ、独りが気楽で好きなんだから」


「だったら、何か趣味とか軽い運動とかして、仲間を作れるようなサークルに入った方がいいわ」

 

 「そうねー、わかっちゃいるけど、面倒なのよ」


「お母さん、本気の人生は、これからよ。眠ってる時間なんて勿体ないわ」


 「わかった、わかった、もういいから帰りなさい」



スガさんは、何もかも、面倒になっていたのです。

                      

                      つづく