鼻の奥がツンとする | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

小説を読んでいると時々、「自分でも気づかないうちに涙を流している」という描写に出会う。
なかなか印象的だし、衝撃的な状況だと思うのだが、同時にひとつの疑問もわいてくる。

いったいに人は、自分が泣いているという状態をまったく自覚せずにいられるものなのだろうか。
泣き始め、今まさに涙が出ようとする瞬間を自覚しない、できないということがあるのだろうか。
「泣く」という行為を引き起こすに至った外部の状況のあまりの衝撃に、己の肉体の変化までは気が回らないということはあるかもしれない。
もし、そういうことであるなら、私はまだそこまで衝撃的な状況に遭遇したことがないのだろう。
私は涙が出そうになると必ず、鼻の奥が痛くなる。
ツンと針でつつかれたような痛みだ。
泣くのを我慢しようとすると、くしゃみが出る。
我慢しないときは、その痛みが喉まで広がる。
だから、自分が泣いていることはすぐにわかるのだ。
そのせいか、私は小説に描かれるような状況にちょっとあこがれがある。
いつのまにか滂沱の涙を流しているのに、他人から指摘されるまで気がつかない、という状況。
まあ、遭遇しないほうがしあわせなんだろうなとは思うが(笑)