れりごーの話 | 10月の蝉

10月の蝉

取り残されても、どこにも届かなくても、最後まで蝉らしく鳴き続けよう

私が「アナと雪の女王」を見たのはけっこう前になると思うんですが(公開してまもなく観に行った記憶がある)、未だに話題になってるっていうのがちょっとした驚き。

めざましテレビでも、「アナ雪を歌う」なんていう企画が放送されていたり、なんですか、口パクで歌う? そんな遊びも流行ってるのかしら。
映画のランキングでも、歌のランキングでも、長い間トップにいたりして、実はすごい反響なんですねえ。私が知らなかっただけか(笑)

私はふだん、あまりディズニーの映画を見ませんので、あの映画の展開は新鮮でした。
「おお、ディズニーの女の子が男に依存しない結末なのか」と。
今まで私が見たことのあるディズニー・アニメですと、登場してくる女の子はとにかく男に依存するしか生きるすべがなかった。
昔話に出てくる女の扱い方が、まずはそうなってますからね。
顔がきれいだとか、家事能力が高い、という、ただそれだけのことで、男から結婚を申し込まれる。基本的に女側に拒否権はありません。せいぜい達成困難と思われる条件をつけるのが関の山。そして、たいていの場合は、父親(という支配者)によって、いとも簡単に結婚相手を変更させられる。そこに女性の意思や感情はまったく考慮されない、というのが昔話のパターンであり、ディズニー・アニメに出てくる女性の描かれ方でした。

まあ、近年はそのあたりは多少緩和されてきていたのかもしれませんが。

以前、ディズニー版の「ピーターパン」のDVDを子どもが見ていたときに一緒に見たことがあるんですが、ウエンディはともかく、島にいるマーメイドたちを見ていたら、ものすごく気持ち悪くなりました。なんというステレオタイプ。なんという薄っぺらい描かれ方。そのくせ、「女というものはこういうものだ」という強い押し付けも感じられて、ほんと、胸くそ悪くなりました。

そういう感覚を持っているもんですから、「アナと雪の女王」も最初は見るのをためらいました。
でも、予告編で、エルサが歌いながら氷の城を作っていくシーンを何度も見て、少なくともこのシーンだけは、本編の中で見てみたいと思うようになって、映画を観に行くことにしたのでした。

エルサとアナの両親に不信感を抱いたり、エルサの妙な頑なさが疑問だったり、アナの能天気な一目惚れ騒動に呆れたりしながらも、やはりあの氷の城のシーンは圧巻でした。
映像の展開も、曲調も、歌い方も声も(私は字幕版で見ました)、実によくできていました。
どれだけ前半に腑に落ちないものを感じていたとしても、あのシーンの持っていき方は、人が感動するツボをきっちり押さえていますね。
英語版で歌っている方の声の豊穣さと、エルサの動きや表情がぴったり重なって、総毛立つほどの高揚感をもたらしてくれます。
歌詞の内容もまた、文句のつけようがない感じ(笑)
そりゃあね、今まで「ありのままのお前では存在していてはいけない」と抑圧され続けたエルサが、「もういい。もう誰に何を言われても気にしない。嫌われたって構うものか。私は私らしく、ありのままで生きていくのだ!」と高らかに宣言してるんですからね。
誰だって、持って生まれたどうすることもできない本質を、他人から否定されて平気なわけがありません。
このあたりに、けっこう汎用性があると思うんですよね。
いろんな個性、障害、特性、それらが、他人に快く受け入れられるようなものであれば苦労はしませんが、なかなか他人に受け入れてもらえなかったり、対立することが多かったり、コントロールが難しかったりすると、どうしたって抑圧されますし、矯正されてしまいますし、攻撃されてしまうことが多くなるものです。
そういう、重苦しい抑圧を、要するにブチ切れて放り出しているから、あのシーンは清々しい気持ちになるんだと思います。

そういう経験のない人には、もしかしたら理解し難い場面なのかもしれませんがね。


ま、歌はね。ミュージカルですから。素晴らしいのはある意味当然かもしれません。
後半の展開では、私はてっきりアナが男に走ると思ってました。
最初の、向こう見ずな、考えなしの浅はかな恋は案の定破綻しました。そして苦楽を共にした相手に、いつの間にか抱いていた信頼と愛情。それに気づいてアナはそっちを選ぶんだろうなあと思っていたんですよ。「やれやれ、やっぱり男が必要なのかい」と、うんざりしかけていました。
そしたら、違った。思わず「え? そっち?」って言っちゃいましたよ。
ディズニー・アニメなのに、そっちへ行くんだ、と。
その一点において、あの映画は私の中では新しい価値観を描いた映画になりました。

その後、いろんな方のレビューを見ると、もっと深いお話のようなんですけどね。
アナも、異性愛のかわりに、姉妹愛を選んだ、というだけのことにも思えてきますし、男たちの価値観はどうやらなんの影響も受けていないようですし。
でも、「お姫様は王子様と結婚して幸せに暮らしました。めでたしめでたし」という終わりじゃないだけでも、十分よかったかな、と。
私が昔話をあまり好きになれない原因は、もっぱらそういう価値観のせいだから。
いろいろ突っ込みどころはあるものの、まあ、よかったと思える映画ではありました。

エルサのあの歌は、あの役であの場面を演じるという形で歌ってみたいなあと思いました。
それは、あたかも、ジャッキー・チェンの映画を見て、劇中のアクションシーンを自分が演じてみたくなるかのような感覚。
あまりにもかっこいい場面なので、憧れる、という感じです。
ああ、だからみんな、口パクでいろんなシーンを真似したくなるのかな?
そういうごっこ遊びには最適の映画でした。

っていうか、なんでいつまでも話題になってんですかね(笑)
そこまで引っ張るような映画だったんでしょうか。ふしぎだ……。