ドラマ「狸猫書生」
第12集
<第12集>
逃げようとする范小隠の前に、陶少中と猫妖神君は立ちふさがった。猫妖神君が范小隠の右手をつかむ。彼の右手には匕首が握られていた。
「書童だからってバカにしないでください!」
「話を逸らすんじゃない!」
陶少中は、段生殺害の夜の彼の行動を推測し、聞かせた。
あの夜、周生にスープを運んでいた范小隠は、酔った段生と后院で出くわした。段生に馬鹿にされ、スープをひっくり返された范小隠は、思い余って段生を蹴った。そして倒れた段生の後頭部を何度も花壇の中の石にぶつけ、殺害した。我に返った彼は猫妖の噂を利用、段生の舌を切り取って荊芥を口内に詰めた。
「そうなんだろう?」
「ち、違うんだ…!」
猫妖神君の手を振り払った范小隠は、自身の首に匕首の刃を当てた。
「段生の死は当然だ!」
「無論、段生は罪深い。だが、殺していい理由にはならない!」
「…いつだって彼を避けてきたのに、あの夜に限って避けきれなかったんだ」
あの夜、怯える段生は、偶然出会った范小隠を猫妖と見間違えて彼の首を絞めた。もがいた范小隠は彼を蹴る。段生は花壇に倒れ込んだ。
動かない。段生の息を確かめるため、范小隠はこわごわ彼に近づいた。
突然、目を見開いた段生が范小隠の胸倉をつかんだ。いくら体をねじっても放してくれない。恐怖で我を忘れた范小隠は彼の頭をつかみ、夢中で何度も石にぶつけた。
ふと冷静に戻った范小隠は、手を止めて段生の息を確かめた。死んでいる。震えながらも彼はこのあとの処理を考えた。幸い、夜の后院を歩く者は限られている。証拠を隠滅してしまえば、きっとなんとかなる。まずは血を洗い流さねば。
范小隠は水を汲みに走った。途中で庭を掃除する郭大哥と出会い、箒を奪うようにして当番を替わる。そうして誰にも気づかれずに范小隠は石にこびりついた血を洗った。
「おまえは花壇に仙人扇が植わっていたのに気づかなかった」
血を洗い流した水で、仙人扇は枯れた、それが証拠だ。
「そうか、天は見ていたか…」
范小隠は天を仰ぐ。
「小隠!!」
ほかの学生に聞いたのか、周生が駆け付けた。
「小隠、匕首を離すんだ!」
「公子、申し訳ありません、私が段生を殺してしまいました…」
范小隠は泣きながら詫びる。
「しかし、なぜ張大人や黄生まで手にかけたのだ?」
「黄生に殺害の現場を見られたからです。張大人は答案の策論を買い、学生の前途を潰すからです。公子は朝廷の官吏になるのが夢なんです!」
「小隠、馬鹿なことをするんじゃない!」
周生は必死に范小隠を説得する。
「公子、私はこれ以上あなたの足手まといになりたくありません。死んでお詫びします…」
「待て! 段生は自業自得だし、衙門の役人が来ても皆が庇ってくれるはずだ、そうだろう!?」
周生は集まった学生たちに問いかける。学生たちはうつむいた。
「…もういいんです。公子、科挙で状元を獲ったら、私の墓へ報告に来てください」
「小隠…!!」
次の瞬間、范小隠は匕首で自分の首をかき斬った。
周生が駆け寄り、倒れる范小隠をその腕に抱く。
「小隠…」
范小隠は段生を殺害したことに間違いない。だが小柄な彼が体格のよい張大人を絞殺できるだろうか。
范小隠は共犯者を守るために自害したのではないか。
その共犯者とは周生だった。
范小隠は段生殺害を彼に告白し、ふたりで後始末をしたのだ。周生は范小隠を守るため、段生の舌を切って荊芥を詰めたのだった。
では、張大人殺害は?
<第13集に続く>