ドラマ「南城宴」
第1集 後編
<第1集 後編>
戯院から逃げ出した小強子は人ごみに紛れた。
お腹は空いたが、お金が無い。考えた小強子は、腰牌がお金の代わりにならないかと思って饅頭屋に見せた。
「五つがダメなら、ひとつでも…」
突然、腕を掴まれた小強子は路地に引きずり込まれた。
「腰牌をどこで手に入れた!? 小強子はどこだ!」
咬みつかんばかりに詰問したのは、本物の小強子を捜す大太監、劉一刀だ。
「私が小強子だよ!」
「嘘つけ! 小強子のところへ連れて行け!」
路地から出ようとしたら、街を巡回する千羽衛の姿が見えた。あわてて引き返す。
「大哥、話を聞いてくださいよぅ」
できるだけ哀れを装った小強子は記憶を失っていること、目覚めたらこの服を着ていて小強子の腰牌を持っていたことを明かした。
小刀を突きつけながら、劉一刀はじろじろ小強子を観察する。
頭は悪そうだが、容姿は太監として合格だ。失踪した小強子の代わりになりそうだ。
「行くところはあるのかね? 衣食住に加えて毎月の給金が保証された職があるぞ」
この男は愚鈍そうだ。腹いっぱい食べてお金をくすねたら逃げ出そう。
へらっと笑った小強子はうなずいた。
小強子に太監の服を着せ、劉一刀は王宮内にある内侍省へ連れて行った。彼女を少年だと思った劉一刀は、ここで太監となる手術をするつもりだ。
「人呼んで温柔一刀の私に任せておけ!」
いやいや、女とバレてしまうじゃないか!
専用の手術台に縛り付けられた小強子は、目をつぶって思いきり暴れた。
どさっと音がして、劉一刀が床に伸びる。どうしたのか、縄が解けた足で蹴り飛ばしたらしい。
どこに逃げても千羽衛がいる。彼らを避けるため、小強子は近くにあった太医署に逃げ込んだ。
よりによって一番会いたくない相手、晏長昀がいた。彼は背中の傷の治療を終え、着替えに四苦八苦している。周囲に太医はいなかった。
今さら出て行くわけにもいかず、命じられるまま着替えを手伝う。晏長昀は顔を伏せている小強子のあごを掴んで上を向かせた。
「どこの太監だ?」
「ええと、今日入ったばかりで…」
「名は?」
「し、小強子です」
突き放された小強子が床に倒れた。右腕の傷に痛みが走り、顔をしかめた。
「老大!」
腹心の部下、呉承が飛び込んできた。郭振を殺害した刺客について、新たな証拠を発見したと報告する。
晏長昀は足早に太医署を出て行った。
南国の皇后、蕭蘅は蕭丞相の娘である。顔を見ればそばへ寄ってくるので趙沅は苦手だった。
今日も太皇太后の言いつけで鳳儀宮に顔だけ出したら、どこまでも追いかけてきた。
もちろん相手をしてやらない趙沅が悪い。けれども彼はできるだけ蕭蘅を避けたかった。
逃げ込んだ御花園で、趙沅は偶然にも小強子と出くわした。気の合ったふたりは兄弟と呼び合い、再会を喜ぶ。
「私はここで暮らしているが、きみは?」
「わ、私もここで暮らしていて…太監なんだよ。でも、ここから出たくて」
「奇遇だね、私もだよ。さ、行こう!」
遊ぶお金はあるのかと小強子が訊ねたら、いい方法があると趙沅はいたずらっぽく笑った。
千羽衛を率いて捜査していた呉承は、京城から五里の河辺であやしい小舟を発見した。小舟には血の付着した衣服と長剣が残されている。そして近くの岸辺で太監の死体が見つかった。
衣服と剣を検分した晏長昀は、定国公府で剣を交えた刺客のものに間違いないと話す。
「老大、奇妙なことがありましてね、ひとり死んでいるはずなのに宮中の太監の頭数は減っていないんですよ」
趙沅は小強子を妙音閣に案内した。ここには京劇関係の財宝がたんまり保管されている。ふたりは風呂敷に包んだ財宝を抱えて妙音閣を出た。
すでに日は暮れている。コソコソと回廊を歩いていた小強子と趙沅は、宮中を巡回警備する千羽衛に見つかってしまった。
趙沅は先に小強子を南門へ逃がす。追いかけてきた千羽衛は、相手が皇帝だったことを知ってあわててひれ伏した。
その頃、内侍省は大変な事態に陥っていた。いなくなった小強子の行方を誰も把握しておらず、それが晏長昀にバレたのだ。
名簿に目を通した晏長昀は、集めた新人太監の中に小強子がいないことに気付いた。
そういえば小強子の目元は刺客の目とそっくりだ。
晏長昀は全千羽衛へ向けて小強子の捕縛を命じた。
「老大、小強子は偽の太監なんですか?」
「そうだ。郭振を殺し、定国公府で私を狙い、今また私を暗殺するために宮中に紛れ込んだのだ」
「では、捕縛しだい絞り上げましょう」
「いや、私の正体を知っているやもしれん。殺せ!」
千羽衛が一斉に動いた。
小強子は南門の近くで捕えられた。宮中の財宝を窃盗した罪で斬り捨てようと、晏長昀が剣を構える。
「待て!!」
突然、趙沅の声があたりに響いた。ひれ伏す千羽衛のあいだを縫って小強子のそばへ行った趙沅は、自身が南国の皇帝であることを彼女に明かした。
御泉殿に関係者が集められた。もちろん、新人太監をあずかる劉一刀も招集される。
晏長昀は小強子が偽物であり、宮中の財宝を盗んで逃亡を企てたと主張した。そして、小強子の体が太監かどうか確かめれば真偽が分かると断言する。
「無理です! そ、その、太監にも尊厳というものがありまして…」
「うむ、それもそうだな」
「皇上、賊だったらどうなさいますか。太皇太后や後宮の方々の安全に関わります」
「確かに、晏統領の言う通りでもある」
抵抗むなしく、太医が呼ばれた。小強子の意見も取り入れられ、別室で検査を行う。
しばらくして戻ってきた太医は、間違いなく小強子が太監だったと証言した。
「しかし、こやつは盗人です!」
「晏統領、誤解だよ、誤解。あれは朕が褒美として小強子に与えたんだ」
そうそう、と小強子がうなずく。それでも晏長昀は小強子を千羽衛へ連行しようとする。
「ああ、小強子は私の内侍なのだよ!」
「いつお決めになられたのですか?」
「たった今…」
皇帝が口に出した言葉は撤回出来ない。面子に関わる。さすがの晏長昀も引き下がるしかなかった。
だが、これで小強子に対する晏長昀の追及が終わったわけではない。
<第2集前編に続く>