ドラマ「南城宴」 第1集 前編 | 江湖笑 II

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ドラマ「南城宴」

 

第1集 前編

 

 

 

 

 

 

 

<1集 前編>

 

 

 両足の不自由な白弋率いる万事閣は、勧善懲悪が信条の武術集団である。その万事閣に拂暁という女弟子がいた。幼い頃から武芸を学んで十五年、ようやく彼女も一人前の仕事を任せられるほど成長した。

 下山を命じられ、拂暁は任務に就く。初の任務となる今回の標的はふたり、辺関将軍の郭振と千羽衛統領の晏長昀だ。長年に渡って辺境を守る郭振は罪無き者を虐殺し、千羽衛を束ねる晏長昀は特権を乱用して民を苦しめている。

 拂暁は京城に帰還する途中の郭振を襲って殺害、そののち晏長昀を暗殺するため京城へ入った。

 

 

 雲韶司。ここは京城でも選りすぐりの妓女が籍を置いている妓楼だ。中でも最高級と名高い雪初月は、何年も前から晏長昀の庇護を受けていると有名だ。

 その晩、晏長昀は久しぶりに雲韶司を訪れた。女将にたんまり銀子を渡し、二階にある雪初月の部屋へ入る。

「晏統領、いらしたのね」

 雪初月とは違う声がした。

「春の宵は値千金と申します」

 目元以外を面紗で覆った女性、彼女は拂暁である。拂暁は晏長昀を寝台に誘い、馬乗りになる。そして身を寄せたかと思うと枕の下に隠した短刀で彼を襲った。

 晏長昀はあわてず拂暁の腕を掴んだ。

「私の命を狙う者は多い。姑娘、焦りすぎだ」

 晏長昀の腕から逃れた拂暁は技を繰り出すが、彼には通じない。拂暁は枕の中の羽根を煙幕にして、窓を破って逃げた。

「老大!

 晏長昀の側近の呉承と魏添驕が飛び込んでくる。

 室内の箪笥から物音が聞こえた。箪笥を開けると、縛られた雪初月が入れられていた。

「手配書を貼り出せ!

 

 

 満月の夜とは言え、廃墟は暗くうら寂しい。長らく打ち捨てられている定国公府は雑草が生い茂り、今にも妖が出てきそうだ。

 そんな定国公府にふたりの男がやってきた。無言で邸内の祖堂へ入り、用意した位牌や供物を並べる。

 ひとりは晏長昀、もうひとりは雷豹というごつい体をした中年男性だ。

「少主、郭振が暗殺された直後、和三元が消えました」

 雷豹は郭振の部下だった和三元が怪しいと言う。

「和三元は長いあいだ郭振に仕えていた。知っていることも多いだろう。捜し出せ」

 雷豹が祖堂を出て行く。

 ふと人の気配を感じて、晏長昀は剣を投げた。剣の切っ先を避け、梁から長剣を持った人物が飛び下りてくる。顔を面紗で隠しているが、雲韶司で晏長昀を狙った人物と同一だ。

 拂暁。彼女は人の寄り付かない廃邸で休んでいたのである。

「貴様が捜す郭振は、私があの世へ送った!

 拂暁が声を低くして叫ぶ。

 ふたりの武術は互角か、晏長昀のほうが上だった。拂暁の剣が晏長昀の背中を切り裂くと、晏長昀の剣は拂暁の右腕をかすめ切る。

 はずみで晏長昀のにおい袋が弔いの火鉢に落ちた。晏長昀の視線がにおい袋を追う。拂暁は祖堂を飛び出し、逃げた。

 

 

 右腕の傷は思ったよりも深かった。河のそばまで逃げてきた拂暁は、幌付きの小舟を見つけて乗り込む。中は無人で、風呂敷に包まれた男物の衣服だけがあった。

 ちょうどそれに着替え終えた時、突如、棒を持った男が乱入してきた。拂暁の頭に振り下ろす。同時に彼女は男の腹を短刀で突いた。

 たたらを踏んだ男が腰牌を落とし、小舟の縁に足を取られて河へ落水する。他方、頭を殴られて眩暈のする拂暁は仰向けに倒れた。後頭部を強打し、気絶する。

 

 

 拂暁は小舟の中で気が付いた。

 なぜここにいるのか、ここがどこなのか、自分の名前すら思い出せない。散らばった衣服や長剣に見覚えが無い。

 足もとに”小強子”と彫られた腰牌が落ちていた。

 これが私の名前なのか?

 とりあえず拂暁は腰牌を懐に入れ、小舟を降りた。

 

 

 一切の記憶を失くした拂暁は南国の京城に入るため、文昌門をくぐる人々の列に並んだ。あとひとりというところで、晏長昀率いる千羽衛が出張ってくる。

「南国都城四城の九門は、これより千羽衛の管轄に入る! 腕に傷のある男はすべて捕えろ!

 晏長昀は刺客の拂暁を男だと思い込んでいたのだ。

 晏長昀の顔を見た拂暁は、なぜか恐怖を覚える。しかも彼女の右腕には傷があり、男装の理由も説明できない。

 拂暁の前にいた猟師が腕の怪我を理由にしょっ引かれた。次は彼女の番だ。おそるおそる腰牌を見せると、千羽衛の態度が和らいだ。

「ああ、小公公でしたか」

 公公とは太監の俗称だ。

 その時、民を蹴散らしながら一台の馬車が門に近づいてきた。晏長昀の前で停まる。

 馬車から降りてきたのは丞相の息子で侍郎の蕭権である。彼は各県で冤罪事件を解決してきたばかりだと話す。

「では、捜査にご協力願えまいか?

「当然、協力いたしますとも」

 

 

 拂暁こと小強子は、晏長昀と千羽衛が蕭権に気を取られているうちに門をくぐった。

 いったい自分は何者なのだろう。顔ですら、初めて見る気がする。なぜ男物の衣服を身に着けていたのだろう。

 小強子は医館へ行って相談してみた。”失魂症”つまり記憶喪失だと診断されたが、薬の代金が払えなくて追い出される。

 

 

 その頃、本物の小強子を捜す集団がいた。大太監の劉一刀とその部下である。新人とはいえ宮中の太監がいなくなったのだ、露見したら上司である劉一刀の命は無い。

 彼らは手分けして街中を捜した。

 

 

 南国の皇帝、趙沅はまだ若い。そのため政治の実権の大部分を丞相の蕭万礼や魏国公に握られていた。

 ところで、名ばかりの皇帝趙沅は京劇が趣味だ。宮中に建てられた妙音閣にこもり、暇さえあれば舞台でひとり稽古に励んでいる。

 この日も妙音閣にこもっていると思ったら、貼身太監の馮公公を身代わりにして宮中を抜け出していた。

 目的は京劇鑑賞だ。立派な戯院の二階特等席を陣取った趙沅は、舞台上の役者にやんやと喝采を送る。

 卓の下から手が伸びてきた。手探りでお菓子を掴んで引っ込む。気付いた趙沅は悪戯してみた。お菓子の皿を遠ざけ、頃合いを図って卓の下を覗く。

 少年が潜り込んでいた。いや、小強子だが、まだ趙沅は彼女を知らない。

「き、今日恵んでくれたら、あとで十倍にして返すから!

 ひもじい思いをしている小強子は、卓の下に隠れて盗み食いしていたのである。

 ところが人の好さそうな趙沅に奢ってもらおうとしたら、またしても晏長昀がやってくる。小強子は卓をひっくり返し、趙沅を囮にして逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

<1集後編に続く>