ドラマ「与鳳飛」
第9集
<第9集>
草むらに潜む男たちの矢が蒼府の車列を襲った。
「山賊だ、逃げろ!!」
右往左往する家丁や保鏢たちが狙い撃ちされる。
首領と思われる男が馬車に近づいた。覆面をしているので、人相は分からない。
馬車の中を覗く。無人だ。
「誰を探している!?」
声のする方を見る。山道の向こうから蒼寒聿と南娰、保鏢、家丁があらわれた。
蒼寒聿と南娰は襲撃を予見して、策を講じていたのだ。
「やれ!!」
首領の合図で男たちが斬りかかる。保鏢や家丁に混じって、蒼寒聿と南娰も迎え撃つ。
南娰の簪が山賊の首を斬りつける。簪に血が付着した。
その赤い血を目にした途端、南娰は眩暈と頭痛を覚えた。脳裏に覚えのない光景が浮かんでは消える。
竹林の中を逃げ、紅い傘を手にした男たちと戦う南娰、宮中らしき場所で群がる兵士に剣を振るう南娰。
「娰児!!」
よろめく南娰に蒼寒聿が駆け寄った。
首領の男がこちらへ向かってくる。蒼寒聿も駆けていく。
蒼寒聿が首領の男の左腕に傷を負わせた。
「もう少しだ、すぐに官兵が到着する!!」
蒼寒聿の叫びを聞いた首領が撤退を命じる。男たちは山中に消えた。
「娰児、怪我は!?」
「私は大丈夫。でも、さっき頭に浮かんだ光景は何だったのかしら…」
あの光景が浮かんだ瞬間、南娰は胸が締め付けられるような悲しみを感じた。まるで実際に体験したかのように。
蒼雲澤は左腕に怪我を負って帰ってきた。白依依が包帯を巻く。
そう、山中で蒼府の一行を襲ったのは、山賊に扮した蒼雲澤だった。
「奴らは早くから襲撃に気づいていた!」
次こそは仕留めてやると、蒼雲澤が気炎を吐く。だが、果たして次の機会はあるのだろうかと白依依は半ば呆れた。今回の襲撃は藪蛇になった可能性が高いのだ。
「ところで白姑娘、南娰なのだが、妙だとは思わないか?」
南娰の身のこなしは、明らかに訓練された者の動きだ。
「最近になって、性格が激変したように感じるわ」
以前の南娰は間が抜けていて、お世辞にも賢いとは言い難かった。ところが、最近の彼女は確固たる意思を持っている。
「しかも、厚かましいし」
「実家は?」
「没落した貧乏家よ」
考え過ぎだろうか。過去の記憶の無い蒼雲澤だったが、それでも南娰には引っかかるものがあった。
「姑姑はもう長くないはずだから、鸞凰簪を手に入れるためにも早く南娰を始末してちょうだいな」
南娰を殺害して表哥を得たら、あとは家業を好きにしていいわ。
一方の蒼雲澤も、似たようなことを考えていた。
家長の座を手に入れたら、おまえと蒼寒聿は生かしておいてやる。
塞がっていた蒼寒聿の背中の傷から出血していた。山賊を撃退した時に傷口が開いたのだ。
「娰児が無事で良かった」
蒼寒聿は南娰に手当てしてもらう。
「自分の体も守れなくて、どうして私を守れるのよ」
「じゃあ、きみのために、この先ずっと体を大事にするよ」
「何がこの先ずっとよ…」
赤面モノのセリフを吐かれて、南娰はちょっと恥ずかしい。そんな彼女を、蒼寒聿は膝の上に乗せた。
「痛い!」
いたずら心から、南娰が背中の傷を軽く押した。
「痛いなら、しょうもないことを言わないの!」
「じゃ、痛くない」
「もう!」
ふたりは笑い合った。
「姑姑?」
白依依は夜の薬湯を蒼老夫人の居室へ運んだ。
そろばんが落ちている。蒼老夫人は机に突っ伏していた。
生気のない横顔が見える。確かめてみたら、彼女は息をしていなかった。
「やっと閻魔のところへ行ったのね」
つぶやいた白依依は、居室の中を捜し始めた。
どこかに鸞凰簪を保管しているはず。しかし、どこを探っても簪は見つからない。
あとは蒼老夫人の懐か、袖の中か。
白依依は動かない蒼老夫人のほうへ手を伸ばした。
その時、蒼老夫人の目がぱちっと開いた。
<第10集に続く>