ドラマ「与鳳飛」
第10集
<第10集>
死んだはずの蒼老夫人に腕を掴まれて、思わず白依依は悲鳴を上げた。
「白依依、あんなに良くしてやったのに、飼い犬に手を噛まれるとはこのことだわ! 南娰がいなければ、殺されていたわね!」
京城への出発前夜、咳で眠れない蒼老夫人の居室にあらわれたのは南娰だった。白依依が毒を盛っていると知らせたのは、彼女だったのである。
白依依の動きを監視していた蒼寒聿と南娰が居室に踏み込んできた。あわてて白依依は蒼老夫人の足もとにひざまずく。
「姑姑、今回ばかりは許して下さい! 亡くなった両親に免じて、許して下さい!」
しがみついてくる白依依を、蒼老夫人が足蹴にする。
後ろ手に縛られた白依依は、納屋に放り込まれた。
同じ頃、蒼雲澤はうなされて飛び起きた。
にっと笑い、左腕を包帯の上から強く掴む。包帯が赤く染まった。
血で汚れた手で口元をぬぐう。
南娰、蒼寒聿、覚えていろ!
蒼雲澤は前世までの記憶を取り戻したのだ。
彼は声を立てて笑った。
白依依の悪事を暴き、問題がひとつ解決した。
寝支度をする南娰に、蒼寒聿はある物を見せた。蒼老夫人から預かった鸞凰簪だ。
蒼老夫人は彼女を蒼家の女主人と認めたのだ。
「失くさないように、しっかり持っているんだよ」
蒼寒聿は簪を南娰の手に握らせる。その刹那、南娰の脳裏にまた見知らぬ光景が浮かんだ。顔をしかめる。
「娰児!?」
「知らない記憶が浮かんできて、頭痛が… でも、何故か胸が締めつけられるようだわ」
彼女は思い出しつつあるのだ。
簪を取り上げた蒼寒聿は南娰を抱き上げ、寝台に寝かせる。となりに横になり、蒼寒聿は彼女の不安を包み込むようにそっと抱きしめた。
「娰児、明日はきみの二十歳の誕生日だ。お祝いをしよう」
「邪魔臭いでしょ、別にいいわ」
南娰は蒼寒聿の懐の中で眠りに落ちた。
蒼雲澤は、扉に掛けられた鎖を剣で断ち切って、納屋に入った。
後ろ手に縛られた白依依が、はっと顔を上げる。
「大表哥、助けに来てくれたのね!」
「助ける義理がどこにある?」
納屋から出たい一心の白依依は、鸞凰簪の秘密を教えると言う。
「言ってみろ」
蒼雲澤の耳元で、白依依は声をひそめて秘密を打ち明けた。
「そんなことが…!?」
「姑姑から直接聞いた話だから、確かよ」
白依依は蒼雲澤に背を向けた。縄を切ってくれと促す。
だが、剣の切っ先は彼女の体を貫いた。刃の生えた腹部から、血がしたたり落ちる。
「白小姐、おまえにはもう利用価値は無いのだよ」
薄笑いを浮かべた蒼雲澤は、剣を引き抜いた。
早朝から蒼寒聿は厨房にこもった。麺を打ち、南娰の誕生日を祝う長寿麺を作る。
何度も失敗を繰り返し、ようやく出来上がった長寿麺を、蒼寒聿は居室に運んだ。
身支度を終えた南娰の前に置く。彼女の髪には鸞凰簪が飾られていた。
一度、挿そうとした時には頭痛が起きたのに、二度目は何とも無かった。不思議だ。
熱いうちに食べてくれと勧められ、南娰は箸を取った。
そこへ、翠児がやってくる。貢品に問題があり、蒼老夫人が呼んでいるという。
蒼寒聿はひとりで蒼老夫人に会うことにした。
ところが、彼を先導する翠児は、蒼老夫人の居室とは逆の方向へ廊下を歩いていく。蒼寒聿が問うと彼女は身をこごめ、畏まって答えた。
「少爺、お許し下さい、老夫人のお言いつけなのです。…白小姐が殺されました」
南娰は、蒼寒聿が作ってくれた長寿麺をひと口食べてみた。
塩辛い。まるで厨房の塩を全部入れたようだ。
けれども、せっかく彼が作ってくれたのだから。
南娰は我慢して食べ続けた。
開け放たれた居室の前に男が立った。中へ入ってくる。
<第11集に続く>