ドラマ「与鳳飛」
第1集
<第1集>
武国歴三十年八月、斉王こと蒼雲澤は藍月国と結託して反乱を起こし、兵を率いて皇城を囲んだ。武国皇帝蒼寒聿と寵妃の南娰は抵抗、援軍の到来により反乱軍を退ける。
だが戦乱中に臨月の南娰が産気づき、その命に危険が迫る。
「娰児!!」
寝宮で眠っていた蒼寒聿は飛び起きた。
「娰児、どこにいる!?」
「ここよ」
衝立の向こうから南娰があらわれた。婚礼用の紅い衣装をまとっている。
「蒼寒聿、婚礼を挙げましょう」
南娰はにっこり笑った。
雲が垂れ込める夜空から粉雪が舞い落ちる。
蒼寒聿と南娰は、祭司府で婚礼を挙げた。
「娰児、これできみは私の妻だ」
ほほ笑んだ南娰が突然吐血した。蒼寒聿は驚き、倒れる南娰を抱きかかえる。
「これは一体…!?」
「今まで病を隠していたのですよ」
東華は、赤ん坊を南娰に抱かせる。この赤ん坊は蒼寒聿と南娰のあいだに生まれた子だ。蒼寒聿と南娰の目に涙が浮かんだ。
「蒼小七、名前をつけてあげて」
「では、小鳳凰と」
「いい名だわ。でも、私はこの子の成長を見守ることは出来ない」
南娰は天からの裁きを受けるのだ。
本来、ふたりは結ばれてはいけなかった。子を生してもいけなかったのである。
「蒼小七、悲しまないで…」
蒼寒聿の涙を拭こうとして、南娰が手を伸ばす。しかし彼女の手が涙に触れることは無かった。
「娰児、娰児ー!!」
蒼寒聿が号泣する。
「…本当に私たちが助かる方法は無いのか?」
「本来なら無いが」
小鳳凰が無事生まれているので、可能性がないことも無い、と東華は話す。
武国の天牢内で異変が起こった。明日、処刑が決まった蒼雲澤が隙をついて看守を殺害、脱獄したのだ。
巡回する禁衛兵を不意打ちして、彼は蒼寒聿の居場所を聞き出した。
「時空の扉を開けば、後戻りは出来ません。南娰はまた二十歳まで生きられないかもしれませんよ」
それでもまだ続けるのか、と東華は蒼寒聿に訪ねた。
ただの固執であることは分かっている。しかしそれでも、蒼寒聿はこの運命を変えたかった。
東華は一本の金の簪を蒼寒聿に渡した。金の鸞凰と宝石をあしらった簪だ。
「この簪は、あなたがたとこの世界をつなぐ唯一の物です。大切に保管なさってください」
東華が手のひらに白く輝く玉をあらわす。術を始めたのだ。
その時、天牢を破った蒼雲澤が乱入してきた。
「蒼寒聿!!」
蒼雲澤が突き出した剣の刃を、蒼寒聿が素手でつかむ。
東華は構わず術を続けた。
今夜は蒼家の大少爺、蒼寒聿が第二夫人を迎える。母である蒼老夫人は使用人を庭に集め、特別に祝い金を振る舞う旨を伝えた。
「翠児」
蒼老夫人は、侍女の翠児をそばへ呼んだ。声をひそめて訊く。
「あの女は?」
「納屋に閉じ込めております」
「大少爺と依依の婚礼に邪魔が入ってはならない。しっかり見張っていておくれ」
「承知致しました」
蒼老夫人は懐から簪を取り出した。金の鸞凰と宝石の付いた簪、鸞凰簪だ。
「依依、つまらない意地を張ってはダメよ。あなたはいずれ蒼家の女主人になるのだから」
蒼老夫人はつぶやいた。
花嫁の白依依が被る紅蓋頭を取り、蒼寒聿は好色な笑みを浮かべて彼女を寝台に押し倒した。
これからというところで、蒼寒聿は急な頭痛に襲われる。激痛のあまり我を失った彼は、誘ってくる白依依の頬を叩いてしまった。
<第2集に続く>