ドラマ「青雀成凰」
第21集
<第21集> 愛意如痴山雨欲来
「雲煥哥哥、誤解していたわ…」
簪で刺してしまった雲煥の左胸に触れたいが、青雀はどうしても触れることが出来ない。ぽろぽろと涙をこぼした。
「軍師が教えてくれたの。もう私に隠し事はしないで」
青雀は、いつから彼女だと気付いていたのか訊いた。ひと目で分かったと雲煥は答える。
「きみのことばかり考えているのに、間違うはずがない」
「それなら、どうして私にきつく当たったの?」
「きみを慕王府から出すためだよ」
雲煥がどれだけ苦心して青雀を遠ざけたことか。それなのに彼女は舞い戻ってきてしまった。それならいっそ鵲夫人として、青雀とは別人として彼のそばにいたほうが安全なのではないか、とも思った。
雲煥は涙をぬぐってやり、青雀の額に口づけた。
趙力士が慕王府に帰ってきた。
青澄は慕王府の現状を簡単に説明しながら、彼を后院に通す。
「郡主、安心してください。私めが義父の憂いを一掃してみせます!」
「では、慕王府に巣食う賊に会いに行きましょう」
青澄と趙力士は、雲煥の書斎へ向かった。
断りなく豪快に扉を開け、ずかずかと室内に入る。雲煥は立ち上がって趙力士を迎えた。
「義兄、お久しぶりです」
ちょうど茶を入れていた青雀を、青澄が鵲夫人と紹介する。趙力士は大きな声で名乗ったが、青雀は彼のほうを見もせずに小さく会釈した。
「鵲夫人はどうして娘婿の世話を焼かれるのかな?」
「鵲夫人、良い茶葉ですね。義兄もどうぞ」
雲煥が代わりに相手をする。促された趙力士はひと息で飲み干した。
「確かに美味い。だが、この一杯は高価すぎますな」
趙力士は手にした茶器を握りつぶした。割れた茶器が床に落ちる。
しかし雲煥と青雀は顔色一つ変えなかった。
書斎をあとにした趙力士は、ひとりで慕王のもとへ挨拶に行った。
寝台のそばでひざまずくと、慕王が起き上がる。
「義父、雲煥を調べて参りました」
趙力士は、慕王府に戻る寸前に命じられていた調査の結果を報告する。
調べによると、慕王が倒れるなり雲煥は私兵を養成し始めたという。
「私兵営に入るところを見計らって、督察司に通報してやります」
「雲煥め、玉佩を手に入れたのちは、ただではおかんぞ!」
その時、廊下に人の気配がした。慕王は慌てて横になり、昏睡を装う。
居室に入って来たのは青雀だった。薬湯を運んできたのだ。
「外まで声が聞こえたのだけれど、趙力士殿の独り言だったのかしら」
趙力士がちらっと寝台のほうを窺う。彼は青雀から薬湯を受け取ると、枕元に座って慕王の口元へ運んだ。
その様子を眺めていた青雀は違和感を感じた。慕王の足もとの布団がめくれ上がっている。
危険を察知した青雀は、足早に居室を出た。
雲煥の私兵営で大規模な騒ぎが起った。
私兵営には、厳詢蒼とともに武器を取り上げた旧淮王軍を収容している。騒ぎが外部に漏れて督察司の知るところとなれば、重罪に処されることは間違いない。
軍師から連絡を受けた雲煥は、馬の準備を命じた。
そこへ青雀が走ってくる。慕王の異変を伝えようとした青雀の目の端に、趙力士の姿が映った。
<第22集に続く>