ドラマ「卿卿三思」
第24集 大結局
<第24集 大結局>
永徳九年、春。
柳月卿は四度目の人生を歩んでいた。彼女はまだ嫁いでおらず、また嫁ぐ予定もない。
新任の教師が初めて柳府に来るので、柳月卿は出迎えるために后院の庭に出た。
咲き誇る木々を眺めながら、彼女はとなりに控えている阿蘿に質問した。
「阿蘿、もしもあなたが嫁ぐとしたら、どんな相手がいい?」
「そ、そんなこと、訊かないで下さい」
恥ずかしがった阿蘿は、用事を済ませてくるからと言って逃げた。
柳月卿がひとりになったところへ、青年がやってきた。彼が新しい柳月卿の教師だ。
青年の顔を見た柳月卿は、驚いて一瞬声が出ない。彼は裵巡だったのだ。
裵巡は”慕郷”と名乗り、挨拶した。この”慕郷”は柳月卿を慕うと読み取れる。
「…皇帝になりたかったんじゃないの?」
思わず柳月卿は口走ってしまった。裵巡が慌てて彼女の口元を手で塞ぐ。
「柳小姐、みだりにそんな事を言ってはいけません! 良からぬ人に聞かれたら利用されてしまいますよ!」
とうとう安穏な生活を裵巡は選んでくれたのだ。嬉しくて柳月卿は彼に抱きついた。裵巡もほほ笑み、優しく抱きしめる。
裵巡は、はっきりとこれまで三回の人生を覚えていたのだ。
裵巡が毎年上元節へ出掛ける理由は、柳月卿と再会するためだった。
何度も裵巡が書いた柳月卿の詩、あれは一度目の人生で彼女が書いて見せた詩だ。
郷郷不惜鎖窗春、去作長楸走馬身
これは、実は裵巡が帝位を求めて争うことを悲しんだ詩である。それなのに彼は、家に閉じ込めるなら塀を壊してでも外へ出るよと柳月卿に言ってしまった。
柳月卿が嫉妬のあまり壺を投げて壊した時、裵巡は激しい性格だなと思いつつ、そんな彼女を可愛らしいとも思うのだった。
柳月卿が竹林に呼び出された際には、三年前の上元節を思い出して彼は飛んで行った。
前世最後の柳月卿の泣き顔も覚えている。
「来年…来年もう一度、ランタン祭に出かけましょう、ね?」
今年もまた上元節の時期が来た。
軒先で、講談師が裵巡と柳月卿の物語を民衆に語って聞かせる。講談師はなんと韓真だ。
「本日の物語は如何だったかな?」
韓真が訊ねると、民衆から拍手と歓声が起こる。
ひとりの女性が皆の期待を代表するように質問した。
「それで、公子は小姐のことを未来の妻だと気付いたの?」
「それは次回のお楽しみですよ!」
韓真の語りに満足した民衆が、次々と小粒銀や銅貨を置いて帰っていく。突然、そこへ金錠が投げられた。
投げたのは例の部下を連れた裵岩だ。彼は辰王ではなく、この国の皇帝となっていた。
お忍びで訪れたのだから出来るだけ目立つ行為は控えてくれと、裵岩は部下から叱られる。
裵岩の前方から女性がやってきた。にこやかに裵岩と腕を組み、仲良く通りを歩き出す。
女性は上官燕だった。
「聖上、お聞きしたいことがあるのですが」
上官燕は、春猟会で初めて会った時、なぜ面紗を取ったのかと訊ねる。裵岩はにこにこ笑って答えた。
「それはな、内緒だよ」
今世の裵岩が面紗の意味を知ったとき、あまりに邪魔臭い風習だと思ったのだ。面倒を嫌う彼らしい行動だ。
ところで、裵岩と上官燕が歩く通りの上に橋が掛けられている。その中ほどに、寄り添う裵巡と柳月卿の姿があった。
ふたりは降り出した雪に手を伸ばして楽しむ。
「慕郷、今年の雪は綺麗ね」
「ああ、綺麗だ」
裵巡は柳月卿を見つめて言う。そして、ランタンの明かりが照らし出す幻想的な景色の中で、ふたりは口づけを交わした。
願裵巡歴尽千帆亦有歳月可回頭
願郷郷此后余生無惧無畏亦無憂
願天下有情人穿越風雪更懂珍惜
<完>