ドラマ「卿卿三思」
第23集
<第23集>
柳月卿を助けたければ東の林に来い。
矢文を受け取った裵巡は走った。
「余鳴鶴、やはりおまえだったか!」
木に縛り付けられた柳月卿のそばに余鳴鶴が立っていた。柳月卿は口に布を突っ込まれているので、言葉を発することが出来ない。身もだえし、唸ることしか出来なかった。
余鳴鶴は余裕の笑みを浮かべて裵巡を眺めた。
「さて、役者は揃った。始めようか」
「直接私を攻撃すればいいだろう! 月卿を放せ!」
「いやいや、ひとり欠けても芝居は成立しない。今日こそ貴様を殺してやる!」
余鳴鶴の声を合図に、四方から兵士があらわれた。
余鳴鶴が柳月卿にささやく。
「卿児、きみの裵巡が切り刻まれるさまを、とくと見るがいい」
「月卿に触れるな!!」
叫ぶと同時に、裵巡は兵士たちに突っ込んでいった。
できるだけ兵士を傷つけないように、拳で彼らを倒していく。
「皇太子殿下、気を付けたまえ」
にやにやしながら、余鳴鶴は柳月卿に短剣を突き付ける。裵巡は思い切って闘うことが出来なくなった。
注意が逸れて、兵士の剣が彼の左胸に突き立った。余鳴鶴は高笑いし、柳月卿は泣き叫ぶ。
「兵士の剣には毒が塗ってあるのだよ」
毒と多量の出血に耐えながら、裵巡はすべての兵士を斬り伏せる。そして、地面に膝をついた。
柳月卿が悪夢で見た彼の姿だ。
「裵巡、心配しなくていい。貴様が逝ったあと、卿児もそっちへ送ってやる。あの世で一緒になるがいい!」
余鳴鶴が短剣を振り上げた。
「余鳴鶴!!」
渾身の力を振り絞って、裵巡が剣を投げた。見事に余鳴鶴の腹部に突き刺さる。吹っ飛んだ余鳴鶴が地面に落ち、こと切れた。
柳月卿に駆け寄った裵巡が縄を解いてやる。
「裵巡…!!」
柳月卿は泣きながら彼に抱きついた。
だが、裵巡の気力が保ったのはここまでだった。大丈夫だと言いながら、もう目も開けていられない。
裵巡は、震える手で懐から紙包みを出した。血の付いた紙包みには飴が入っていた。
「私たちが初めて会った上元節を覚えているかい?」
永徳六年当時、裵巡は翊王に封じられたばかりだった。彼は庶民が祝う上元節を直接見たくて、翊王を抜け出した。
その時に出会ったのが柳月卿だった。彼女は露店で買った飴を食べながら、京城で知らない道は無いからと言って裵巡を北街へ連れて行く。ところが、お祭は南街で行われていた。
だからこそ、柳月卿が竹林に呼び出された時、帰りに迷子になるのではないかと裵巡は危惧したのだ。
柳月卿がくれたあの飴はこの上なく甘かった。
「そのあと、猜灯謎へ一緒に行ったでしょ?」
血にまみれた裵巡を胸元に抱き、柳月卿は泣きながら訊く。
「景品の兎のランタンは、きみが持って帰ったはず…」
「あなたが持って帰ったのよ」
「そうだったかな…」
「来年…来年、もう一度ランタン祭に出かけましょう、ね?」
柳月卿の頬に触れようと伸ばした裵巡の手がぽとりと落ちた。
「裵巡、裵巡…!!」
裵巡の亡骸を抱えて、柳月卿は号泣した。
<第24集大結局へ続く>