ドラマ「欽天異聞録」
第3集
<第3集>
四年前の宇寧七年、欽天監は天外奇石を捜索するため、天策府に協力を求めた。
その夜、国境周辺の山中で落下の跡を発見したのは、蘇建翊とかれの同僚たちの五人であった。抉れた土の中央に赤黒く光る天外奇石を確認した同僚たちは、手柄を自分たちで独占しようと話し合う。上司に報告しても、功績は欽天監に持っていかれるだけなのだ。
「しかし、報告と保護を命じられているのだぞ」
反対するのは蘇建翊だけである。欲に駆られた同僚たちは、天外奇石を野営地に持って帰り、報告は郭将軍に任せようと決める。
四人は天外奇石の回収を蘇建翊に押し付け、戻って行った。
ひとり残された蘇建翊は天外奇石に近づき、触れた。
蘇建翊の記憶はそこまでだった。
「じゃあ、天外奇石はあったんだ」
当時の朝廷は発見できなかったと結論づけている。ということは、天外奇石を運ぶ途中で異変が起き、野営地にたどり着けなかったのか。そしてその天外奇石が原因で窮奇営は全滅し、時空の乱れで蘇建翊は四年後の落花榻に飛ばされたのかもしれない。
では、落花榻にあらわれる以前の蘇建翊は誰だったのか。
蘇建翊は西洲商人のふたりと会ったことも無く、聞香の心得など無いと言う。
「もしかして双子?」
それも違う。欽天監の管理下で、双子の記録は無い。
百草廬の面々が首をかしげていた時、童肦秋の腰から下がる天星引が回りだした。天星引は過去の天外奇石を利用した通信装置である。
「また失踪事件だ。東北の方角、安慶坊の方向だ」
「ちょっと待って。かれはどうするの?」
かれとは蘇建翊のことである。
「天策府に戻ります」
蘇建翊はそう言うが、死亡したことになっているかれが今さら報告にあらわれても、誰も信じないだろう。
「しかし、死んだ仲間のためにも、窮奇営全滅の原因を知らねば!」
「けどなぁ、一応解決済みの案件だから…」
「窮奇営執戟中郎将、蘇建翊!」
童肦秋に名を呼ばれた蘇建翊は、片膝をついて拱手した。
「そなたが我々の捜査に協力するなら、窮奇営全滅の真相解明に手を貸そう。どうだ?」
「喏!」
蘇建翊は即座に提案に応じた。
童肦秋、白洛書、蘇建翊が現場へ向かおうとした時、百草廬にひとりの若い男が駆け込んできた。慌てて戸を閉める。外から男の名を呼ぶ黄色い声が聞こえる。
「顔十三、なんで入ってくるのさ!」
若い男は最近、一方的に孫淼淼に熱を上げている顔十三で、かれは異様に女性にモテるが、孫淼淼は彼に対して関心が無かった。
「淼淼姑娘、昨日、約束の場所に来なかったでしょう? 今日、誘拐事件があったと聞いて、心配で」
孫淼淼は約束に応じた覚えがない。
「おまえ、誰が失踪したか知っているのか?」
「たぶん、兵部の劉侍郎の娘かと…」
「えっ!? 巧雲!? 巧雲がいなくなったのか!?」
騒ぎだしたのは李思霖である。懐から”聖都羣芳譜”、いわゆる美人一覧を出して広げ、大げさなほどに嘆く。
その姿が見るに耐えなかった童肦秋は、李思霖を殴り倒して百草廬を出て行った。
天誅司司主、余瓊は天牢の通路を歩いていた。奥から獣のうなり声が聞こえ、足を止める。
「山魈ですよ」
かれを案内する看守は、逃げ出した安楽侯の山魈を童肦秋が捕らえ、天牢で保護していると話した。
<第4集に続く>