ドラマ「欽天異聞録」
第2集
<第2集>
聖都いちの風流者を自称する若き安楽侯こと李思霖は、幼なじみでもある童肦秋に呼び出された。てっきり失踪事件の容疑者にされたと思い込んだ李思霖は、百草廬に着くなり、童肦秋にすがって無実を訴える。
「安楽侯たる私が女性をかどわかすなど、あり得ないよ! 童爺、信じてよ~!」
「そっちじゃない」
白洛書の合図で、ふたりの男が室内に入って来た。李思霖を見て平身低頭する。
「申し訳ございません! 大事な荷を失くしてしまいました!」
「命だけはお許しを!」
西洲商人のふたりが紛失した荷とは山魈のことである。荷主は李思霖だったのだ。かれは一か月後に迫る皇帝の祝宴で山魈を出し物に使おうと考え、私的に購入し、運ばせたのだった。
直接取り引きした男、西洲商人のふたりの兄貴分、老三は、落花榻で山魈に殺されている。
「すまん! 酒の席を設けるから、許してくれ!」
李思霖は童肦秋に手を合わせて許しを請う。
青年が目を覚ましたと聞き、童肦秋たちは部屋を移動した。李思霖と西洲商人のふたりも一緒だ。
怖かったからという理由で孫淼淼に縄でぐるぐる巻きにされた青年は、さるぐつわまで咬まされていた。童肦秋がさるぐつわを取ってやる。
西洲商人のふたりが青年としゃべったことがあると言い出した。二日前の城外で、山魈を運ぶ老三とふたりに話しかけてきたと言う。休憩している三人に酒を奢ったらしい。
「嘘をつけ! 二日前なら、私は国境の外にいたはずだぞ!」
童肦秋は縄を解き、天誅司の腰牌を見せた。即座に片膝をつき、青年は頭をたれて名乗った。
「神策軍玄武衛窮奇営執戟中郎将、蘇建翊と申します!」
窮奇営。その名を童肦秋は久しぶりに聞いた。天外奇石に関わった窮奇営は、四年前に全滅していた。
白洛書から記録を見せられた蘇建翊は愕然とする。兵士の名前の下には遺体確認済みと未確認の赤字が並んでいた。蘇建翊は未確認となっている。
「まさか…天外奇石を見つけたばかりなのに」
蘇建翊には、四年間の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。白洛書が説明してやる。
四年前、天外奇石の落下を観測した欽天監大祭酒の岐天意は、天外奇石が大黎国に災いをもたらすとして天策府に協力を求め、捜索を始めた。しかし数か月たっても発見することが出来ず、また、岐天意の預言は起こらなかった。そのため、世を騒がせた罪で岐天意は天牢に収監された。
岐天意は玄門易術に精通し、星読みにも長けている。かれを敬う童肦秋は汚名を雪ぎたかったが、この四年、天外奇石に関する情報は皆無であった。また捜査も打ち切られているため、彼女には手の出しようがなかった。
それが今、蘇建翊という手掛かりを得た。
「その天外奇石は本物だったのか?」
「間違いなく。大きさは両手で持てるくらい、形は球状で真っ赤だった」
「当時、何が起こったのか詳しく話してくれ」
<第3集に続く>