ドラマ「欽天異聞録」
第4集
<第4集>
兵部侍郎の娘、劉巧雲はその夜、幼い頃から一緒に寝起きしている侍女の香蓮を自室から追い出し、ひとりで眠りについたという。香蓮が追い出されてから朝まで、物音ひとつしなかった。
だが朝、香蓮が劉巧雲を起こしに部屋へ入った時には、彼女の姿は消えていた。
劉巧雲は数日前の中元節の晩に出かけて以来、少し様子がおかしかった。話しかけても心ここにあらずといった状態だった。医者は思い悩みが過ぎたからだと言う。
「体に傷や痣が出来ていましたか?」
捜査に訪れた童肦秋が訊ねる。両親よりも劉巧雲の生活に詳しい香蓮は首を振った。少なくとも異客に乗り移られてはいないようだ。
「もしかしてご自身で出て行かれたのでは」
「何を言う! 劉家は格式ある家柄ですぞ! 巧雲はそこらの娘とは違う!」
蘇建翊の問いに劉侍郎が激怒した。
童肦秋、白洛書、蘇建翊は二階にある劉巧雲の部屋を調べた。室内に変わった様子は無い。
童肦秋が寝室の窓に手を掛けた。内側へ引っ張ると、難なく開く。鍵は掛かっていなかった。
昨今の失踪事件を受け、窓の鍵は工部で特別に作らせたものを取り付けていた。つてを頼ったという。劉巧雲が消えた夜はいつもの通り、香蓮が何度も鍵が掛かっていることを確かめていた。
窓から覗くと、すぐ下に一階の軒が見える。そこから東屋の屋根まで、そして東屋の屋根から屋敷の塀まで、軽功が出来なければたどり着けない距離だ。
念のため、童肦秋は蘇建翊に窓の真下の地面を調べさせたが、何の痕跡も残されていなかった。
軒の瓦に白い粉が落ちていた。如意吉祥雲図の靴跡もある。童肦秋は靴跡を紙に写し、白い粉を指で掬った。
靴跡は、劉巧雲のものであると香蓮が証言した。去年の寺院のお祭りで買った靴だという。
劉巧雲は自ら窓を開け、軒の上に立ったということだ。だが、軒の上からどこへ、どうやって消えたのだろう。
「童大小姐、素手は危ないって、いつも言ってるだろ」
白洛書が白い粉を童肦秋の指から拭い取った。匂いを嗅いでみる。
「…鱗粉だ。童大小姐は子供の頃から虫が嫌いだったから知らないだろうが、これは蝶や蛾の鱗粉だよ」
劉府の近所に花畑は無い。どこからこの鱗粉は来たのだろう。
「まさか、巧雲は蝶になって飛んで行ったとか…」
劉夫人は不安そうに夫を見た。
劉府を辞した童肦秋、白洛書、蘇建翊の三人は、頭を悩ませながら通りを歩いていた。
これまでの捜査で分かっていることは、失踪した女性が良家の令嬢だったこと、美貌の持ち主だったことくらいである。
犯人はどうやって彼女たちに接近し、操って攫ったのか。
前方から頭巾を目深にかぶり、仮面をつけた男が歩いてきた。すれ違いざま、蘇建翊が殺気を察知すると同時に、男が斬りかかってきた。
<第5集に続く>