旅の道具のうち、カバン選びは大切でしかも楽しい作業です。私は長年ハートマンというアメリカの老舗の鞄メーカーの製品を愛用しています。モービルトラベラーという名前の、ハンドルのついたトローリーケースです。
 
バリスティックナイロンという防弾チョッキの素材を使っているので非常に丈夫な上軽量です。革製や他の生地のものもありますが、私はナイロン製がお気に入りです。生地が丈夫なだけでなく、ジッパーが頑丈なのが心強いです。

 デザインはクラシックなアメリカンテイストで、例えばかつてのアメリカ大陸横断鉄道の旅などに雰囲気がぴったりです。もう20年以上も前の製品ですが、旅慣れた航空会社のキャビンアテンダントに時々注目されるのが嬉しいです。

 この鞄は百貨店の三越が輸入をしていたのですが、何年か前に扱いが中止になりました。そこで私は新しいタイプの製品はアメリカから取り寄せています。残念なのは、時代の波にさからえないのか、このところやや華奢な作りを感じる箇所が目立つ点です。従ってどちらかというと古くから使っている鞄にどうしても愛着を感じてしまいます。

 なおビジネス用のバッグは最近は本革製のTUMIを愛用していますが、革の質が以前とは変更になり、なかなか気に入っています。

 長期の旅ではジュラルミンのケースを愛用しています。南米の空港で随分乱暴な取り扱いをされましたが、小さなへこみが出たくらいで大丈夫でした。鞄を壊された際にはすぐにバゲッジクレームを申し出て修理を依頼することです。私は海外の空港で何回かクレームを入れましたが、帰国した後の日本での修理を紹介してもらいました。

 さあ、お気に入りの鞄で、楽しい旅に出発してください!

 
 以前にある人からこんな話を聞いた事があります。
 日本の公園の父と呼ばれる本田静六は、苦学生の頃ににカツ丼のうまさに驚嘆したそうです。十分豊かになった後年、カツ丼を2杯は食べられないし、それほどうまくない事に気づき、資産を寄付に使ったという逸話を聞いた事があります。

 私はこの話に感動しました。どんなに豊かになっても食事の量が倍になるわけでもなし、一度に着れる服、同時に乗れる自動車はひとつに決まっています。そう考えると年収200万円の生活と年収200億円の生活は違いにだけ着目するとその差は大きいように思いますが、視点を変えるとそれほど違いはないとも言えるのです。

 お金や物の充足を求めても、消費できる時間には限りがあります。限りなく蓄財を追い求めることは極めて空しいと言えると思います。

 私は本田静六がお金への視点が変わり、すぐにそれを実行に移したことも彼の非凡さを象徴しているように思います。
 まだニートという言葉がない1960年代、梅棹エリオ氏は就学も就職もせず仲間と共に日本初の熱気球飛行を成功させました。「熱気球イカロス5号」はその青春の記録です。やりたいことをひたすら追い求めるエネルギーと、それを仲間と共に成し遂げるさわやかさが、読む者を最後まで魅了し、読んだ後は壮快な気分にさせてくれます。成績不良で落第した2度目の夏休み、屋久島を旅したことがきっかけで熱気球飛行を思い立ったと言います。
 梅棹エリオ氏の生き様には、就学や就職をしないだけで単なるニートとは呼ばせないだけの説得力を感じます。父上の梅棹忠夫は著名な学者ですが、親の七光りどころか厳格なルールと真の自己責任をご子息に示されているところに感動しました。
 若い方のみならず、若者が心の葛藤を抱えつつもそれを乗り越えて前に進むエネルギーを脳裏に再現したい中高年の方にもおすすめの書籍です。



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