学生に贈る社会人100人の言葉 -9ページ目

学生に贈る社会人100人の言葉  NO.15

「社会人から学生へのメッセージ」というお題だけれど、おそらくこのサイトを運営する僕の友人は人選を誤ったに違いない。

というのも、僕は、大学で教鞭をとったり、調査研究の請負、物書き、テレビやラジオのコメンテーター、といった
仕事をしているものの、未だ博士課程に籍を置く、学生でもあるからだ。
一般的な意味で「社会人」かと言われると、結構グレーだけれど、でも、普通の「社会人」よりは、広く社会に言説が伝わる仕事もしている。
一応、先月は『朝日新聞』の論壇時評でも取り上げられたりもした。
たぶん、月収で見ると、平均的な同世代のサラリーマンよりも少し多いものの、
年収でならして考えるとボーナスがない分、少し少ないといった感じで落ち着くのではないかと思う。
そんな僕の仕事の多くは、僕の好奇心とつながっている。というよりも、好奇心の発露の仕方に、ちょちょっと手を加えたようなものが大半だ。
したがって、気分はいまでも大学生の延長線だし、できれば一生そうありたい。

そんなわけで、あんまり大学生に向かって偉そうに何かいえた義理ではないけど、最近の大学生を見ていて感じるのは、「もっと好きに生きればいいのに」ということ。
最近の大学生たちの多くは、どこか窮屈そうだ。無理もない。
メディアや、まわりの大人は、なにかあるとすぐに、大仰に「就活が大変だ。早く準備しろ」と言うのだから。
けれど、結局のところ、今の大学生が置かれているような未曾有な不況を経験した世代はいない。
したがって、言ってる人たちの大半は、経験的に理解しているわけではないし、
また、大抵は統計的に何か意味があることを言っているわけでもない。彼らのアドバイスの大半は役に立たない。
適当に聞き流して、自分の頭で考えるしかない。

また、どうせ不況は社会と経済の構造の問題なので、新卒就職状況は今後すぐに大幅に改善することは期待できない。膨大な努力をしても、
同じ大学の先輩たちほど報われはしない。だったら、そんな実りの少ない作業はほっぽり出してしまってもいいのではないか。

研究、趣味、旅行、最近だと社会貢献活動もある。大学院に進学するのもいいだろう。
とにかく、自分の好きなことに時間とコストをつぎ込んだほうがいいのではないだろうか。
確かに日本の大学の教育効果には疑問の余地がたくさんあるけど、
やりたいことを見つけた学生は好きなだけ、それに打ち込むことができるということが
長い間日本の大学の魅力であった。日本の大学生の「質」はそれによって保たれていたとい言ったら、言い過ぎか。

最近は大学も厳しくなって授業も出席しないことには単位がでないものが大半だけれど、それでも
大学生の4年間にはあとから振り返ると実に多くの時間がある。一見、遠回りにみえるけれど、好きなものを通じて培った経験は何者にも代えがたい。
自信や自己尊厳、そして、仲間の獲得にも繋がることだろう。
そのようにして培われたものは、くだらない、入れ替え可能な「コミュニケーションスキル」などとは違う。

とまれ、この「社会人100人のメッセージ」も読めばすぐわかるように、
自身の経験を、まるで自己啓発書のような「夢は諦めなければ必ずかなう」「学生のときの苦労は買ってでもしておけ」
というテンプレートで一般化してみせたものが大半で、物の役にも立たない。
どうやら「社会人」は、「学生」に大して偉そうに何か言いたいもののようだ。
僕が大学生だったら、まず読まないこと請け合いだし、改めて「社会人」にもなりたくなくなった。
まあ、「社会人」の人たちの側も願い下げだろう。

事程左様に、僕の話を特に真に受けて考える必要はない。
結局のところ、人は自分の頭で考え、経験から学ぶしかないのだから。


--
独立行政法人中小企業基盤整備機構
経営支援情報センター リサーチャー
東洋大学経済学部非常勤講師
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程
西田亮介
blog: http://web.sfc.keio.ac.jp/~ryosuke/tippingpoint/
twitter ID: Ryosuke_Nishida