阿津川辰海さんの舘ミステリ。 〈館四重奏〉シリーズの第3作です。

 

このシリーズは「地水火風」という四元素になぞらえて、第1作「紅蓮館の殺人」では山火事、第2作「蒼海館の殺人」では水害、本作では地震が発生。

 

その結果、クローズドサークルとなった館で起こる殺人事件が描かれます。

 

「蒼海館の殺人」は最近読んだ舘ミステリの中でも屈指の傑作だったので、本作も期待が高まっていました。

 

殺人を企む一人の男が、土砂崩れを前に途方にくれた。 復讐相手の住む荒土館が地震で孤立して、犯行が不可能となったからだ。 そのとき土砂の向こうから女の声がした。 声は、交換殺人を申し入れてきた――。

同じころ、大学生になった僕は、旅行先で「名探偵」の葛城と引き離され、荒土館に滞在することになる。 孤高の芸術一家を襲う連続殺人。 葛城はいない。僕は惨劇を生き残れるか。 (文庫裏紹介文)

 

舘ミステリ+交換殺人という興味深い組み合わせで物語が進行します。

 

土砂崩れによって荒土館の外と内に分かれてしまった名探偵・葛城と助手の田所。

 

第一部は荒土館の外。 交換殺人を引き受けた男・小笠原の視点で語られ、いおり庵という旅館の若女将を狙うのですが、そこには名探偵・葛城が逗留していて・・・

 

第二部は荒土館の中。 300ページに渡る本作のメインであり、孤立した荒土館で起こる連続殺人が助手・田所の視点で語られます。 物理トリック、アリバイトリック、消える犯人などなど、本格ミステリらしい仕掛けが目白押しです。

 

第三部では、ようやく救助隊が荒土館に到着。 5名もの連続殺人を企てた真犯人が明らかになります。

 

トータル600ページ越えの大冊ですが、起伏のある展開で退屈しません。 島荘作品を思わせるようなスケールの大きな謎解きも良いですね。

 

名探偵・葛城、「紅蓮館の殺人」に登場した元名探偵・飛鳥井、助手・田所の関係性も読みどころでした。 あと、友人の三谷もいい味出してます

 

残念なのは、肝心かなめの真犯人と動機が早い段階でわかってしまったことでしょう。 ネタバレになるので詳述できませんが、登場人物表とか、もう少し工夫出来なかったのでしょうか?

 

「蒼海館の殺人」には及ばなかったけれど、楽しく読むことが出来ました。 次は四重奏の最後ですね。 ”風”だから台風で孤立した館が舞台かな?