昨年末に読んだ「紅蓮館の殺人」の続編です。 「紅蓮館の殺人」は謎解きロジックは面白かったものの、文章が未成熟というか青臭いというか、かなりのマイナスポイントでした。
なので、正直読もうかどうか迷ったのですが、読んで良かった! 文章も多少こなれてきて気にならなくなってましたが、それよりも綿密なプロットと論理の積み重ねが前作を大きく上回っていました。
このミス5位というのも納得の作品です。
学校に来なくなった「名探偵」の葛城に会うため、僕はY村の青海館を訪れた。 政治家の父と学者の母、弁護士にモデル。 名士ばかりの葛城の家族に明るく歓待され夜を迎えるが、激しい雨が降り続くなか、連続殺人の幕が上がる。
刻々とせまる洪水、増える死体、過去に囚われたままの名探偵、それでも――夜は明ける。 新鋭の最高到達地点はここに、精美にして極上の本格ミステリ。 (文庫裏紹介文)
前作で「名探偵」であることに挫折した葛城は、まるで腑抜け状態で使い物にならない。 さらに、台風による大雨でダムが決壊し、館に水没の危機が迫る。 そんな危機的状況の中、連続殺人が起きて・・・・・
という、いわゆるクローズドものですが、文庫630ページのボリュームに詰め込まれた伏線の数が凄い。
・心臓発作で亡くなったという祖父は、実は殺されたと主張する記者が知る秘密とは?
・同じく「おじいちゃんは殺されたんでしょう?」という葛城の従弟・夏雄の見たものとは?
・一週間に一回、館のお皿が1枚づつ減っていくという現象は?
・認知症を患っている祖母の言動の一つ一つ などなどなど
膨大な伏線が最終的にすべて連続殺人に集約されていく回収も見事ですが、さらに、これらを利用して関係者を操る「蜘蛛」と呼ばれる黒幕の存在。 これは、どうしても京極夏彦さんの「絡新婦の理」を思い出してしまいますね。
腑抜け状態の葛城の代わりに、田所と三谷が事件を調べる前半は多少冗長な感もありますが、葛城が覚醒してからの後半はまさに怒涛の展開でした!
叙述トリックや変な物理トリックを持ち出さず、真正面からの直球勝負。 度重なるミスリードによって見失っていた真犯人がロジックの積み重ねによって明らかになる瞬間は、久々にぞくっときました。
本格ミステリファンなら必読。 そうでなくても楽しめる作品だと思います。 お勧め。