砂原浩太朗さんの作品を読むのは、「高瀬庄左衛門御留書」「黛家の兄弟」に続いて3作目になります。

 

これらは架空の藩である神山藩を舞台としたシリーズ物の長編時代小説で、藤沢周平を思わせる端正な文章とストーリー展開の妙でとても楽しめました。

 

今回は上記2編と異なり、神宮寺藩の差配役・里村五郎兵衛が主人公の連作短編集です。 本作も面白ければ、青山文平さんと同様、全作品を追って行くことになりそうです。

 

里村五郎兵衛は、神宮寺藩江戸藩邸差配役を務めている。 陰で“なんでも屋”と揶揄される差配役には、藩邸内の揉め事が大小問わず日々持ち込まれ、里村は対応に追われる毎日。

 

そんななか、桜見物に行った若君が行方知れずになった、という報せが。すぐさま探索に向かおうとする里村だったが、江戸家老に「むりに見つけずともよいぞ」と謎めいた言葉を投げかけられ……。 (BOOKデータベースより)
 

会社で言えば総務部に該当するような”なんでも屋”の差配役ですが、江戸時代にこういう役があったわけではなく架空のもの。

 

でもそのおかげ?で下記のような興味深いエピソードの連作になりました。

 

「拐かし」 :桜見物の途中で行方不明になった若君の捜索

「黒い札」 :御用商人を決めの入札に不審なものを感じた五郎兵衛

「滝夜叉」 :新たに雇い入れた妖艶な女中を巡って喧嘩が勃発

「猫不知」 :藩主正室の愛猫がいなくなり、大勢で探すのですが・・・

「秋江賦」 :江戸藩邸内で江戸家老と留守居役の対立が激化して・・・

 

それぞれの問題に対して、主人公の五郎兵衛が快刀乱麻に解決するというわけではありません。 それどころか猫の捜索などは、部下の若侍に「それはわれらのお役目なのでしょうか」などと不満を言われてしまいます。

 

しかし五郎兵衛は、差配役として真摯に問題に向かうのです。 曰く「誰もやらぬ・・・いや、できぬお役を果たすのが差配方じゃ」。

 

各編には意外な真相が隠れていてミステリ的な面白さがあるし、ラストの「秋江賦」では、各編に配置された伏線が一気に回収されるクライマックスは痛快でした。

 

文章は、相変わらず自然描写を織り込んだ端正なもので、読んでいて気持ちが良いですね。

 

主人公の五郎兵衛、2人の娘、部下の若侍、若君、家老などなど、個性的なキャラクターが揃っているので、続編も期待したいところ。

 

砂原浩太朗さんはお気に入り作家になったようです。 お勧め。