伊吹亜門さんの歴史ミステリは、「刀と傘」雨と短銃」を読んでいます。 この2作の時代設定は幕末だったのですが、本作は太平洋戦争直前、舞台は満洲国です。

 

1938年満洲国で、革新官僚・岸信介の秘書が急死した。 秘書は元陸軍中将・小柳津義稙の孫娘の婚約者で、小柳津邸での晩餐会で毒を盛られた疑いがあった。

 

岸に真相究明を依頼された私立探偵・月寒三四郎は調査に乗り出すが、初対面だった秘書と参加者たちの間に因縁は見つからない。 さらに、義稙宛に古い銃弾と『三つの太陽を覚へてゐるか』と書かれた脅迫状が届いていたことが分かり……。 次第に月寒は、満洲の闇に足を踏み入れる。 (BOOKデータベースより)

 

例によって岸信介、椎名悦三郎、甘粕正彦、石原莞爾など、歴史上の人物の名前が出てきますが、幕末と異なり、この時代の歴史に疎いので、岸信介以外の人物はよく知りませんでした(^^;)

 

ただ、巻末の膨大な参考資料で分かる通り、時代考証はよく出来ているので、その人物が実在なのか架空なのかを調べながら読むのも結構面白かったです。

 

ミステリ的には主人公の私立探偵・月寒三四郎が、連続毒殺事件の真相を追って行くというオーソドックスなものなのですが、その裏には満洲国ならではの大きな要素がからんでいました。

 

この要素に関しては、満洲国をテーマにした小川哲さんの直木賞作「地図と拳」でも語られなかったもの。

 

ラストの謎解きでは、怪しげな人物が揃っている中での真犯人の意外性もさることながら、その動機には仰天させられました。

 

また、満洲国で大きな権力を得、戦後はA級戦犯被疑者となりながら放免され、その後総理大臣まで上り詰める岸信介。 ”昭和の妖怪”とまで言われた彼に、ストーリー上で大きな役割を与えていることも面白さを増している一因でしょう。

 

やはり伊吹亜門さんの歴史ミステリは面白いですね。 お勧め。