先日読んだ筒井康隆さんの「モナドの領域」に続いて、神もしくは超越者を扱ったSF小説を読みました。

 

山田宗樹さんの「存在しない時間の中で」です。

 

山田さんは本来ミステリ作家ですが、SF的設定を用いている作品も多く、2012年の「百年法」は不老不死技術が実現した日本を舞台にした小説で、日本推理作家協会賞を受賞しています。

 

本作は2021年刊行で、SF設定というより完全なSF小説というべきスケールの大きな作品。 正直「百年法」よりも、こちらのほうが面白かった!

 

ある日、若手研究者たちが主宰するセミナーに謎の青年が現れ、ホワイトボード23枚に及ぶ数式を書き残して姿を消した。 誰も見たこともないその数式には、人類の宇宙観を一変させかねない秘密が隠されていた。


つまりその数式は、この宇宙、そして世界の設計図を描いた<何ものか>が存在する可能性を示唆していたのだ。 にわかに<神の存在>に沸き立つ世界。 ほどなく人類は、<神の存在>にアクセスしようと試みる。 そして、その日から現実は大きく変わることになる――。 (BOOKデータベースより)

 

「この宇宙は、何か超越的な存在によって設計され、創造されたものである」というアイデアは、戦前に発表されたハミルトンの「フェッセンデンの宇宙」という短編に書かれており、このバリエーションを古今東西の様々なSF小説が採用しています。

 

本作もまたその中の1つではありますね。

 

しかし最近執筆された作品だけあって、超弦理論やAdS/CFT対応、ホログラフィック原理など最新の理論や概念が登場し、うまくストーリーに組み込まれていきます。

 

中でも「頭の中だけで考える数学が、なぜ現実の物体や現象、果ては宇宙までも記述出来てしまうのか?」という疑問からの考察は面白いです。

 

この宇宙の設計図を描いた<何ものか>は、創造主であり<神の存在>となる。 その存在が判明した時の人類の反応や宗教界の反応、さらに何の目的で宇宙を創造したのか? 人類に対して何を望むのか?

 

これくらいスケールが大きくなってくると、物語を収束に向かわせるのが難しいのですが、本作は比較的スマートにわかりやすくストーリーをまとめていると思います。

 

できれば前半のような理論的(ハードSF的)考察が後半にも欲しかったですが、望みすぎかなー。

 

ハードSFを読み慣れない方にもわかりやすく書かれた傑作だと思います。 興味のある方は是非読んでみてください。