本来SF作家ではないミステリ作家が突然、SF設定を使った傑作小説を執筆することがあります。 代表的なものは、貴志祐介さんの「新世界」や、高野和明さんの「ジェノサイド」など。 「新世界」は日本SF大賞も受賞しているので、もう正真正銘のSFと言っていいでしょう。

 

本作も、不老不死を実現した社会の行く末と言うSF的設定で書かれていますが、作者の山田宗樹さんはSF作家ではなく、「嫌われ松子の一生」などミステリを執筆されてきた方です。 さらに日本推理作家協会賞も受賞していて、これは「ジェノサイド」と同じ。 期待が高まった読書でした。

 

不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て死ななければならない――国力増大を目的とした「百年法」が成立した日本に、最初の百年目が訪れようとしていた。

 

処置を施され、外見は若いままの母親は「強制の死」の前夜、最愛の息子との別れを惜しみ、官僚は葛藤を胸に責務をこなし、政治家は思惑のため暗躍し、テロリストは力で理想の世界を目指す・・・・・。 来るべき時代と翻弄される人間を描く、衝撃のエンターテインメント! (文庫上巻裏紹介文)

 

人の老化プログラムに関する遺伝子を書き換え、人の不老化を実現するウィルスの発見。 そしてそのウィルスを接種することにより、不老化が実現した世界。 事故や病気にならない限り、若い容姿で永遠に生きることができる・・・・

 

しかし、それによって人材は固定化され、イノベーションの土壌が失われ、日本の社会は徐々に衰退していくのです。

 

昨今の遺伝子工学の進歩からすると、遺伝子書き換えによる不老化の実現というのも決して絵空事ではなく、近い将来訪れるかもしれない未来の仮想シミュレーションとして非常に面白く読むことが出来ました。

 

また、衰退状況を打開するため”百年法”の制定を目指す勢力と、それに反対する勢力。 2つの勢力の繰り広げる政治ドラマも読み応えがあります。 国民投票で信を問いつつ、独裁制の活用もいとわないなど、危機的状況の変革に成功するのか?

 

不老化技術についての科学的ディテールの説明は少々不足気味で、SF小説というよりも未来シミュレーション・政治小説と言ったほうが良いのでしょう。 しかし、エンターテインメント性も十分で、文庫上下巻950ページというボリュームを退屈せず読むことができました。

 

「新世界」、「ジェノサイド」の完成度には及ばないものの、読み応え十分の大作でした。