新世界より(上) (講談社文庫)/貴志 祐介
新世界より(中) (講談社文庫)/貴志 祐介
新世界より(下) (講談社文庫)/貴志 祐介
  
     
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異世界ファンタジー/SFというのは、独自の世界観や歴史をもつ架空の世界(異世界)を舞台とした物語であり、古くはE.R.バロウズの「火星シリーズ」やトールキンの「指輪物語」、国内では栗本薫さんの「グイン・サーガ」、小野不由美さんの「十二国記」などなど、数多くの作品が書かれてきました。
    
このジャンルの小説を、私が面白いと感じられるのは、次のような条件があります。
   
第1に、異世界での冒険や物語が魅力的であること (これはまあ、当たり前ですけれど)、
第2に、異世界の成り立ちや歴史がロジカルで納得感があり、できれば異世界創生の謎がテーマに組み込まれていること
   
第1の条件がクリアしていれば、物語としては楽しめるんですが、SF好きの私としては第2の条件を重要視したいです。 いいかえれば、第2の条件をしっかり書き込むとSF寄りになってしまうと言う事かな。
    
本作、「新世界より」という小説は、中身はまさしく異世界ファンタジーです。 舞台は千年後の日本。
   
人類はその頃、科学技術ではなく呪力(念動力)を文明の基盤としており、周囲を結界で囲まれた町の中は平和で、豊かな自然にはぐくまれた子供たちの歓声が響きます。 しかし、外界では化けネズミ、風船犬、ミノシロ、オオオニイソメなど、恐ろしく奇妙な生物群が繁栄していました。
   
主人公の早季たちは、小学校を卒業して呪力を自在に使えるようになり、初めて結界の外に出てサマーキャンプに向かいます。 そして途中でミノシロモドキを捕まえるのですが、実はそれは生物ではなく、先史時代の人々が残した図書館アーカイブ機械だったのです。
   
早季たちはその機械を通じて、町の大人たちが封印してきた人類の歴史を知ってしまいます。 そして、それがこの世界を根底から揺るがす大事件の最初のきっかけだったのです・・・・・
     
    
呪力をベースにした文明やグロテスクな生物群など、まさしく異世界ファンタジーの道具立てなんですが、この物語では世界がなぜそうなったのかをキッチリと論理的に説明してくれます。
   
科学文明から呪力による文明に移行した理由、世界を自壊させる「悪鬼」「業魔」の出現など徐々に明らかになる世界の成り立ちの謎は、ぞくぞくするほどスリリングです。
   
このしっかりした世界観の中で繰り広げられる早季たちの冒険は、少年少女小説の瑞々しさも織り込みながら展開していきます。 最後の化けネズミとの戦いはノンストップ、怒涛のクライマックスです。 そして最後に明らかになる化けネズミの最大の謎。
     
異世界ファンタジー/SFとしての2つの条件を完璧にそなえ、なおかつ生物学、文化人類学、超能力、ホラー、ミステリーなど、さまざまな要素が文庫本1500ページにぎっしり詰まった読み応え十分な小説です。 お勧め。