第6章 創作・随筆(第5節…創作「病院(仮題)」連載⑪) | 獏井獏山のブログ

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 私(山本正一)の母がシャツやパンツと卵、その他の食料品少量を持ってきた。母は私の退院の事を気にしていた。「まだ出来ないのか?」と母は尋ねた。「うん、はっきりしない。」と私は云った。「医者が、余り急ぐな、と云わはるし…」「そら、当たり前やで。無理に早よ戻ってきたかて、しょうがない。…そやけど、もうええのやろ、大分…」と心配そうに云う。「大丈夫、退院も近いよ。」私は、自分が病気を気にしていない事、退院が本当に近い事を母に伝えた。私がすべきことは母を安心させる事だった。入院した事で既に母にショックを与えた私には、これ以上心配を掛ける事は犯罪に等しいと思われた。

中隈君にしろ齋藤君にしろ同様だ。この日、齋藤君の父が来、中隈君には妹が来ていた。彼女は若く美しく女性らしい嗜みを備えていた。この女性に心を燃やし掛けた男性が現れた。しかし彼女は目にも留めなかった。彼女にしてみれば、それ所ではない。大事な兄は長い病気をしてるというのに…。入院者は何時の間にか気付かぬ間に異常であり、世間的な考え方を忘れがちになってしまう。異状でない者にとっては病院は特殊な社会?であり、其処には恋も何もあったものではないのだ。外来者が病院を恋する場所として考えもしなかったとしても、それは当然のことである。恋どころか、闘病以外の何物であってはならないのだ。

 

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 ここに度重なる失恋に打ち拉がれた1人の男があった。    (続く)