日記 ⑩「長い手紙を書く」(S38.5.26) | 獏井獏山のブログ

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S38..26)

 東京に出てきて今日を以て、20日を終えたことになる。早いといえば早いものだ。そろそろ仕事(実態調査)が来週から始まる。この地にも少し慣れてきたようだ。

 

 落ち着いたところで、ここ数日かけて何人かに長い手紙を書いたが、記録が残っていない(下書きをしないものだから)。この次から取っとこうと思う。…今日は義兄(長姉の旦那)宛てに手紙を書いた。

 

「拝啓 深春の候 益々ご清栄にご活躍の事とお察しいたします。小生

5月6日東京に参りまして早や20日、物珍しさの所為か知らぬ間に過ぎ去って、あれは昨日のように思えてなりません。

(義兄の声掛けで親族集まって送別会をして貰ったのを思い出す。餞別にモンブランの万年筆とパーカーのボールペンを貰った。)

 東京に来て暫くは鈴木という友人の家で厄介になっていましたが、この度(5月17日)武蔵野のアパートに居を移しました。2階の4畳半、大きな窓が2つあり、そこを開きますと深い緑の木々が一杯です。何となく静かな感じがあり、成る程ここが文学のふるさと、詩の街というに相応しいものが感じられます。しかし、その「感じ」の中に、傍を通る中央線の電車の音や、頻繁に通る自動車の音…そういった現実が容赦なく闖入してまいります。これは仕方ないと割り切らざるを得ませんが、それにも拘らずなお依然として落ち着いた自然美が喧騒やゴミに汚される事なく存在する尊さを感じない訳には参りません。丁度、現代の喧騒と落ち着き払った自然の中間に居るようです。決して混同されることのない二つの世界を覗き見ているようで面白いです。空気の美味しさを感じることが出来ます。…とはいえ、いずれにしても私にとって生活できる、或いは動ける範囲は極めて狭いので、小さな部分のことしか言えないのが残念です。もっと歩かねばなりません。勿論、東京の由緒ある全てを見るということも今度のここへ来た宿題の1つとしております。全面を知ることによってもっともっと偉大な美しい何かが現れてくるだろうと思います。半面、私が今感じることが出来る美しさが目の錯覚で終るような汚らしさに()つかってガッカリするかも知れません。それはいずれ分ってくるでしょう。

 今のところは気持ちよく元気にやっておりますからご安心ください。

 

 そちらはお変わりありませんか。会社の方も益々ご発展の事と存じます。なお一層のご発展をお祈りいたします。

(義兄は「○○圧延工業所」という、粗い鉄板を圧延機で伸ばしてピカピカに仕上げる、工場を経営していた。)

 

ご家族様方はお元気にお過ごしでしょうか。もうすぐ梅雨…いやもう既に梅雨に入っている感じがありますが、この天候不穏の折柄、くれぐれもご自愛され皆様お元気でお過ごし下さいますよう祈ってやみません。

 

 折あって当地に来られた際は何卒お立ちより下さい。栄一君も鈴ちゃんも英次君も、夏休みに一度旅行に来ませんか。その時分には少しは土地勘もついてご案内出来ると思いますから。

 

 それでは皆様のご多幸をお祈りしてペンを置きます。 敬具」

 

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 午後、東京競馬場へダービーを見に行った。予想通り「メイズイ」ト「グレイトヨルカ」が1,2着に入った。