酒⑬「スナック」(2)「バカラック」(神戸) | 獏井獏山のブログ

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神戸勤務を初めて半月ほど経った頃に見付けたのは「竹本」という小売酒屋だった。1日の仕事を終えて同僚とここに立ち寄ると「ワリッカ・サワー」を「タコ天」のアテで飲む。これが何とも云い様のないほど美味い。乾き切った喉に染み渡る。一杯目はあっという間に空になる。コップを差し出すと、強面の番頭が面を切るようにチラッと睨んでから黙って2杯目を作ってくれる。ここでは連れとも余り話はしない。小声で訳もない事を数分話しているうちにコップが空になる。そのコップを差し出しても番頭はチラッと目を流すだけで横を向いてしまう。「もう一杯だけ。」と頼んでも軽く手を横に振って3杯目は決して注いでくれない。已む無く心を残して店を出るが、2杯でもワリッカの酔いは気持ちよく回ってくる。その足でよく行ったのがスナック「バカラック」である。

 「バカラック」は美人の中国人ママさんが1人で切り盛りしている店だった。仲間の塚山さんに紹介された店で神戸に在任中、通い詰めて馴染になった。店内は細い通路にカウンターと5~6人が掛けられる椅子が置いてある。宵のうちは他の客が居た(ためし)がなく、4~5人で行くと店を占領した形になる。各々ウイスキーの水割やカクテルなど飲み始めると直ぐ唄になる。順に好きな歌を唄う。一通り唄ったところでママさんの歌をリクエストするのが恒例のようになっていた。リウエスト曲は「夜来香」か「君いつ帰る」だ。何時聴いても何回聴いても良い。ママさんはそれ程に美声の持ち主だった。再び各人の下手な歌に戻り、場が盛り上がったところで、塚山さんが「そろそろ ホ、ホ、ホ、行こか。」と云って2~3脚の椅子を壁ギリギリまで後に下げて“舞台”作りをしてくれる。

「骨まで愛して」…この曲は宴会後の二次会が宴会場から、時代背景の変化を受けてスナックに場替わりした際、私がそれまで宴会場で唄っていた河内音頭や甚句、俗謡などから演歌に鞍替えするに当って、私なりの唄い方を開発した最初の歌である。唄い出しの所は普通に唄うが後半の部分「…♪骨まで~骨まで~」を「…♪ホ、ホ、ほねまで~ホ、ホ、ホ、ほねまで~ホ、ホ、ほねまであいして~ホ、ほしいの~よ」と唄う。「何やそれ。」と人に言われた時は「この歌は骨までしゃぶるように唄うんや。」と(うそぶ)いた。…この唄い方が思いのほか受けた。少し持ち上げられると調子に乗る(たち)の私はスナックで唄う度に必ず1曲はこれを唄った。事務所の忘年会が行われた有馬グランドホテルの二次会で、地下のスナックで唄った時も好評を得た。天満橋のスナック兼喫茶のマインで唄った折は「ホ、ホ、ホ…」の部分にきた時、隅の方でコーヒーを飲んで睦んでいた若いカップルが話を止めて、歌の後半を終りまで聴いてくれた場面は今も頭の隅に残っている。その他のスナックでも数え切れないほど唄いまくった。…「骨まで愛して」はスナック「バカラック」と仲間、特に塚山さんが培い育ててくれた私の持ち歌である。