酒⑭「スナック」(3)「スナック冨田」(広島) | 獏井獏山のブログ

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「スナック冨田」は同僚の中芳さんと2人で週に1度は通った店である。

 数あるスナックの中で此処ほど喧しい店は見たことがない。

 夕方の6時頃にドアを押し開けると既に客が2~3人居り、7時頃には10席あるカウンターの大半が埋まって歌声が響き渡る。このような状況が10時過ぎまで続いた後、一時的に客足は少なくなるが歌声が止むことはない。しかし、ここまでは序の口である。この店の喧騒が頂点に達するのは12時を迎えてからなのである。…

…11時半を回った頃、一旦空いた店にポツポツと新たな客が入ってくる。所謂、同業者…店の営業を終えたスナックのママが1人、2人と入ってくるのだ。その半数は自分の店の常連客を連れてくるのである。毎夜のように顔を合わせるらしいママ同士の話し声と、歌声が混ざり合って喧騒の世界が創出されるのだ。

 私と中芳さんはここに来ると大概11時過ぎまでいるが、ある日たまたま宵の6時から翌朝の4時まで呑んだことがあり、その時にこの状況を知ったのである。

初めて経験する豪華な(?)メンバーと耳を(つんざ)くような喧騒の中で浮かれ浮かれた私は例のお調子も頂点に達して河内音頭を唄うと、ブレーキの掛からない身体が勝手に靴を脱ぎ捨て椅子に乗ったかと思うとカウンター上に立ち上がって客たちの手拍子に合わせて端から端まで踊りながら往復していた。

…後で思い出すと、誰も止めようとせず手拍子まで打って呉れた事、狭いカウンターの上で客達のグラスや瓶などを踏まず倒さずに歩けた事、酒量でいえば5~6合以上呑んだ状態でカウンターから降りる時によくぞ滑り落ち引っ繰り返って怪我しなかったな、と背筋が冷める思いをしたものだ。こんなことは後にも先にも初めての経験である。