私にとっての最初の彼のイメージは、植草甚一主義という本があり、私はその頃、
36歳くらいでした。
1990年くらい、平成2年の頃ですね。
私はとうじ、一番目の妻と、別れたばかりでしたから、かなり、気持ちが荒廃していたのでしょう。
休みとなれば、酒に煙草、そして、何も考えないように、神田の古本屋へ大きな肩から麻のしっかりしたショルダーをかけては、出かけていました。
そこで、ストレス解消とばかり、古本を買いあさっていました。
ワゴンの上の100円本の買い方、見方は、植草サンの本からすべて学びましたね。
植草甚一スタイル (コロナ・ブックス (118))/平凡社
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植草甚一ジャズエッセイ 2 (河出文庫 724B)/河出書房新社
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神田の植草サンのよく行く喫茶店に行っては、彼の真似をして、重たい古本をイスに置いては、珈琲を飲んだものでした。笑い。
神保町で地下鉄を降りてすぐ出口から出たあたりに植草さんのよく入り浸った喫茶があります。
その、私の大好きな植草サンを人物評論して、丸谷才一氏はこんなことを書いています。
植草氏ならば、映画の俳優という線もいいかもしれない。
ギャングの親分の役を、ダーク・スーツを着て、あの独特の声で、
「テッド・ヒューズの新しい詩集、どうも感心しませんね」とか、「イアン・マキューアンという新人短篇小説集、ちょっといけますよ」
そんなことを言うのだ。
そういうことを書いている。
この表現は確かに、植草サンをよくあらわしていますが、またまた、丸谷才一さんの本の嗜好をもあらわしていますね。
たぶん、ふたりは仲がよかったんだと思いますね。
日本の私小説的な暗さを嫌ったのかもしれませんね。
アメリカやらヨーロッパの古典・からミステリー・新人のほとんど知られていない珍作まで、ふたりとも、よく知っていました。
これは、私の勝手な想像ですが、丸谷才一氏の私の大切にしている「私の文章修行」という本のなかで、翻訳をしっかりやることが日本語の言葉のセンスを磨くのには良いんだという、丸谷サンの考え方があって、彼がそんなことを考えながら、ジョイスや、グレアム・グリーンやTSエリオットの作品を訳していたと考えることも楽しいです。私の文章修業 (朝日選書 247)/朝日新聞出版
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この本には、澁澤龍彦氏や、倉橋由美子氏、ドナルド・キーン氏、そして、植草甚一氏ものっていて、皆、日本の言葉について書いていて、なかなかの、あまり知られてはいませんが、名著だと思います。
その丸谷さんは、村上春樹を好きだったんだと思います。
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それは、村上サン自身が、植草サンのjazzの評論をはじめ、あのサブカルチャー的な宇宙のエキスを吸っていたからでしょうね。
また、音楽についても直感的に、jazzやらクラシックの本質を見えていますから。
芥川賞かなにかの、村上氏の作品を褒めたりけなしたり、いろいろな作家が、勝手気侭なことを言うのですが、私の記憶では、丸谷さんと、吉行淳之介氏じゃあなかったかなあ、村上春樹氏を押したのは。
やはり、自分の嗜好とあうと、押したくなりますものね。
村上春樹氏をけなす人は、たぶん、初期の頃の、彼のアメリカ小説の翻訳的な文体を嫌うのでしょうね。
翻訳についての考え方は、たぶん、春樹氏と、丸谷氏は、似ているのだと私は勝手に考えていますが・・・・
審査委員のことといえば。
吉行淳之介氏のあるエッセイで、埴谷雄高氏がとある作家の作品を押し始めた話があり、
賛否両論あるなかで、埴谷雄高氏が、いったん、話をはじめると、もうその候補の作品なんかは、どこかへ、飛んで行ってしまい、笑い、埴谷氏の巨大な宇宙論・哲学論がはじまるそうです。
わくわくしますね。
それで、みんなが、そのまま埴谷氏の押す作家に賞をあげたらしいです。笑い。
まあ、ある意味、賞なんていうのは、みんなそんなものでしょうね。
純粋客観的に作品の評価をくだせるはずがありませんから。
人間が、人間に一番ちかづいてい見ることを一番大切にする「純文学」を語る訳ですから、したがって、どうしても審査員の主観=哲学で、判断せざるをえないでしょう。
だから、ノーベル賞にしても、あの三島由紀夫氏のことを「日本の左翼だからだめ」と言ったいい加減な、笑い、確かイタリア人の審査員が今でも話題になりますものね。
ほとんど、三島由紀夫氏にきまっていたらしいのですが・・・
もしも、決まっていたら、三島由紀夫氏は死んでいなかったという人もいますね。
さらには、代わりに賞を取った川端康成氏もまた、自殺しなかったのではと・・・・
今回の村上春樹氏の、受賞を逃したのは実に残念ですが、もともと、彼の作品は、あまり、ノーベル賞とは違う種類のものかもしれません。
まあ、とにかく、そんな植草甚一氏という不思議なjazz評論家を中心に、私のなかでは、この丸谷才一氏と、村上春樹氏は、ぐるぐる、いつもまわっているのです。
そういえば、皆、対談が得意だと思いますね。
サブ・カルチャー的な、雑多な知識やウィット、ユーモア精神、個人に対する信頼、翻訳などから育て上げた言葉に対する微妙な美的センス、
だから、ある意味、珈琲を飲みながら、自由自在に、語り尽くす巨きな心の器を持っているのでしょう。
歓談そして空論―丸谷才一対談集/立風書房
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そろそろ、仕事にもどらねば。笑い。
ふと、ベッドの横の書棚を見ると・・・・
20代から読むぞ、とはりきって、買ったはいいですが、いまだに、読めていない、ジョイスのユリシーズの本があります。
いつになったら、この小説にまた、チャレンジできるか、・・・やはり細切れの時間を利用しながら、すこしづつ、読み込むしかないでしょう。
この翻訳者もまた、言うまでもなく、丸谷才一氏ですね。
やすらかにお眠りくださいませ。
合掌。