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グラン・シャレは、バルテュス夫妻が長きにわたり住んだ家ですね。
やはり、無意識のイマジネーションの力はここでも発揮されたようで、節子さんの
本などを読んでいると、若いころからこのような家に住んでいる自分を楽しくイメージしていたらしく、このグラン・シャレを見たときに直感でここに住むことになる、そう感じたそうです。
私は、どういうわけか、北海道で今は暮らしていますが、豊川生まれ。
妹は、福島。父親は岩手、母親は京都の近くという、いわば、根無し草みたいな、
家族です。
北海道もまた、昔から、歴史が浅く、いろいろな人達がこの森と湖の大自然を開拓したわけですから、伝統というよりも開拓精神の方が強く、友達なんかを見ても、郷土愛はもちろんありますが、意外に根無し草愛好みたいなところもあるんだと思います。
友人の川俣正氏も、日本そのものには、こだわりがなく、今はパリで暮らしています。
先日も仲間で飲んだ時も、どこで暮らしてもいいんだということをよく、私たちは言いますね。
そんなときに、この本をぱらぱらと読みます。
すると、ひとりの日本人として、最初のうちはとにかく必死にバルテュス、つまりローマでの生活をなんとかこなそうとしている中で、どうやって、日本人としての心を昇華させていくのか、自分の体と魂のなかで、純化させ、表現していけば、バルテュスが喜ぶのか、そんなことを考えていくのですね。
バルテュスは、私の一番好きな画家のひとりですが、彼は、日本人と非常によく似た感性を持っていたのかもしれません。
成熟した西洋の女性、生々しい大柄の女性よりも、中性的なアリスのような少女をよくモデルにしていましたし、節子さんに発見した日本の美というものも、やはり、西洋の大胆な主張主義理論理屈のロゴスというよりも、節子さんに感じられる、身のこなし、シャイな感性、控えめなるパッションそんなものに惹かれたのでしょうか。
以前も坂本龍一氏が絶賛した節子さんの文章がありますが、こんな記事でした。
見る美 聞く美 思う美―「画家バルテュス」とともに見つけた日本の心/節子・クロソフスカ・ド・ローラ
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この本の帯に坂本龍一が書いたように、ミラノ・コレクションが某リッチ・ホテルで深夜開催されている、ごったがえすホテルのラウンジで、キモノをまとった比較的小柄な節子さんが歩くと、まるで、海が別れるように金髪のモデルたちが彼女のために道をあけるのだった、ということが信じられる節子さんの容姿・雰囲気。それは写真だけしか知らない彼女であるが、十二分に伝わってくる。
この本を五年ぶりかに読み返してみてまたまた、新しい発見があった。
呉服屋に働いていた私にとって、白州正子や青山二郎やこのバルテュスの奥様は、いつも気になる存在であった。
バルテュスは大好きな作家だ。
その不思議な非日常空間を、ネコや少女のモデルを使って、キャンバスの中に創造する。
彼らは、少しおもしろいポーズで、私を魅惑した。
しかしながら。
アガサ・クリスティーはともかく、日本の万葉集から、能から、徒然草などに精通していたバルテュスは、もちろん奥様である節子さんの推薦する日本の古典をつぎつぎに素直に読んでいたということ。
そして、日本美が現実の世界で結晶したとまで絶賛した「節子」さんの力は大きい。
まるで、タイプとしては比較にはならないが、レノンとヨーコはアメリカ文化と日本文化であったが、バルチュスと節子は、フランス文化と日本文化だった。
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しかしながら。
バルテュスの日本びいきはそれにしても、すごい。
日本人であることが誇りであるとともに、彼の方が普通の日本人よりも、日本のことに詳しいことに驚かされ反省させられることも多いのだ。
たとえば、源氏物語を普段から愛読しているバルテュス。
私も辞書や、現代語訳やら英訳やらと必死に格闘しながら読んではいるが、彼は好きな日本の古典は日本語で暗記までしていたという。雨月物語を!!!
三島由紀夫の金閣寺は、ドストエフスキーたりえていないと批判しながらも、三島由紀夫のフランス語訳ではあっても、文章論やら能論やら作家論特に泉鏡花論が大好きだったというから、まさに、驚き。
神田祭りでハッピ姿の日本の男性を見てなんと美しいのだろうか、と呟いたと言う。
節子さんにしても、最初から日本の文化に深く精通したわけではなく、最初の頃はお嬢様であっても、感覚的には西洋の影響をたっぷり受けた普通の女性。
その節子さんも、日本が大好きなバルテュスの影響で、日本文化を見直していく。
今や日本の一部の若者は、自分たちを虐めている、奴隷にしているのはまさにリッチや老人たちなのだと、騒いでいるのを見ると情けなくなる。
節子さんがいろいろな日本文化の直な経験(キモノ・茶・華・万葉集などなど)を積めたのはひとえに祖母のおかげである。
年をとって、経済的に豊で知識や経験がある老人達が、若い人と話をすれば、おたがいに引き出したり、与え合う素晴らしい関係になるはずなのだが、最近は、そのようなコミュニケーションも足りないらしい。
勝手な憶測と嫉妬と羨望と憎しみが、若者の老人嫌いを促進しているかもしれない。
話はそれたが、この記事は自分のために書いている。
せっかく呉服屋で、キモノと33年間もつきあったわけなので、再度、キモノを見直してみたいと考えることにした。
見る美 聞く美 思う美 (朝日文庫 せ 6-1)/節子・クロソフスカ・ド・ローラ
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そんな記事だったですね。
一年前の記事。
気負いがあるのは、好きな画家だからでしょう。笑。
そんなわけで、私はたぶん、根無し草的なところが多いので、伝統的なものにあこがれるのでしようね。
自分にないものを求める、そんな力の働きでしょうか。
今は、北海道といういわば、伝統が浅い、自然の中で、鳥や、犬や、雨や風や木々の呼吸の中で、ゆったりと暮らしていますが、ときおり、こんな日本の匂いをどう嗅ぐのかという、発見の書物をひもといて、気分を変えることもありますね。
日本。
不思議な、魅惑的な国だといつも感じます。
そして、それは、感じ方を少し学ぶことで、さらに、感銘が大きくなるのです。