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クラシック音楽とお散歩写真のブログ

座右の銘は漁夫の利、他力本願、棚から牡丹餅!!
趣味のクラシック音楽をプログラミングする事に没頭、あとは散歩中に写真を撮りまくること。

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ウィーン夜会の贅沢な音楽体験を現代に

 

今回は、ヨハン・ネポムク・フンメルによる《セレナード第2番 ハ長調 Op.66》をご紹介します。

この作品は、かつてウィーンの夜会で奏でられた華やかなサロン音楽。その輝きを、打ち込み音源ですが丁寧に作成してみました。

J.N.フンメル/グランド・セレナーデ第2番 ハ長調,Op.66

 


ポプリ形式で紡がれるヒット曲集

フンメルの《セレナード第2番》は、前作《第1番》と同様、当時のヒット曲を巧みに織り交ぜた“ポプリ形式”で構成されています。 ピアノ、ギター、ヴァイオリン、クラリネット、ファゴットという室内楽編成は第1番と共通し、出版社アルタリアから「第2番」として出版されました。
注目すべきは、譜面上に演奏者が演奏中に立ち位置を変えるという指示がある点。これは、屋外サロンや宴席での演出効果を意識したものと思われます。

 

舞台はシェーンブルン宮殿──音楽の夜会

1810年代、ウィーンのフランツ・フォン・パルフィ伯爵は、シェーンブルン宮殿植物園で「音楽の夜会」と題した演奏会シリーズを開催しました。フンメルはそのために2曲の《グランド・セレナーデ》(Op.63とOp.66)を作曲し、伯爵に献呈しています。
この夜会では、ギターの名手マウロ・ジュリアーニ、ヴァイオリンのマイゼダー、2名の管楽器奏者、そしてピアノを弾くフンメル自身が出演。初演時はフルート、ギター、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの編成だったとの記録もあります。
演奏風景は銅版画としても残されており、その一部はCDジャケットにも採用されています(※原画は未確認です^^;)。

 

 

作品に登場する「ヒット曲」の数々

 

《セレナード第2番》の冒頭は、モーツァルトの歌劇《皇帝ティートの慈悲》の序曲で始まり、続いて《魔笛》よりタミーノのアリアが登場します。さらに、フランソワ=アドリアン・ボイエルデューの歌劇《バグダッドのカリフ》よりスペイン風アレグレットが続きます。その後、ジャン=フィリップ・ラモーの《ゼフィール》がギターを主役に牧歌的に歌い上げられます。続くのはケルビーニの歌劇《二つの旅》の行進曲。この曲は当時大変人気があり、多くの作曲家が引用しており、フンメル自身もトランペット協奏曲(約10年前の作品)の第3楽章のコーダにこの旋律を使っていました。
 この行進曲を変奏しつつ、次に登場するのはヴィヴァルディの《海の嵐》ですが、「海の嵐」というタイトルの作品が複数存在するため特定が困難です。この部分のピアノの名人芸は、フンメルの幻想曲 Op.116(ピアノと管弦楽)にも登場しており、もし本当にヴィヴァルディの作品からであれば当時すでにヴィヴァルディの作品が再発見されていたことを示しています。

※ただし、本作で使われているメロディーが本当にヴィヴァルディによるものか、あるいはフンメルの創作かは未確認です。(個人では確認取れていません。ヴィヴァルディのフルート協奏曲やヴァイオリン協奏曲に「海の嵐」がありますが、似ていいる個所はありますが、「ここだ」というところが見つかりません)

 Op.116の幻想曲はウェーバーのオベロンがフューチャーされてますが、この作品はウェーバーのオベロンより10年以上前の作品なのでウェーバーの作品でもありません。私が知らないフンメルの自作からなのか、これが最初のオリジナルなのかは分かりません。
 そしてこの技巧的なピアノソロによる「嵐」の直前には、他の演奏者が舞台上の離れた位置へ移動するよう指示されており、ここではフンメルのピアノソロにスポットが当たるような演出が指示されています。一種のパフォーマンスショーの部分ですね。

 「嵐」が去り、静寂の中から再び現れるのは、モーツァルト《魔笛》より三人の童子の歌。さらに、ハープ職人ジャン=アンリ・ナーデルマンの息子であり、音楽家としても活躍したフランソワ=ジョセフ・ナーデルマン(1773–1833)の行進曲が続きます。 
 最後は当時ウイーンで流行していたワルツによる華やかなコーダで締めくくられます。このフィナーレにワルツを加えたことにより、ウィーンの当時の聴衆がこの作品に大いに魅了されたことは想像に難くありません。

 

サロン音楽への再評価を

日本におけるクラシック音楽の受容は、ベートーヴェンをはじめとするドイツ・オーストリアの“重厚な”作品が中心でした。
戦争や時代背景の影響からか、「軽やかで華やかな」サロン音楽は長く軽視されてきた歴史があります。
実際、ショパンのような哀愁と情熱を帯びた作品は愛されましたが、同時代のエルツやカルクブレンナーといった名手たちの作品は忘れ去られました。
しかし、サロン音楽は本来、演奏者と聴衆が一体となって楽しむ私的な時間のためのものでした。
即興で親しまれたメロディーを演奏する贅沢な音楽体験──それこそが、当時の「娯楽」であり「芸術」でもあったのです。

 

今だからこそ楽しめる、クラシックの贅沢

フンメルやジュリアーニのサロン音楽は、今も私たちに新たな発見と喜びを与えてくれます。
録音や譜面も容易に手に入る現代は、こうした音楽を身近に楽しめる最高の時代。
だからこそ、あの夜会の音楽を、現代の音源で蘇らせてみたくなったのです。

 

今回の制作環境(DTM)

今回も以下の環境で制作しました:

  • 楽譜作成:MuseScore4(フリーソフト)

  • 音源:クラシックギター:MuseSounds
       クラリネット、ファゴット、ヴァイオリン:GARRITAN PERSONAL ORCHESTRA
       ピアノ:HALion Sonic 7(Yamaha Piano)

 

クラシック音楽に馴染みのない方も、
**「名曲を味わう贅沢なひととき」**として、ぜひ気軽に聴いてみてくださいね。
※サムネイル画像はChatGPTに演奏風景を描いてもらいました。

 

 

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今回は、19世紀初頭のウィーンで話題となった、とっても贅沢な“ヒット曲メドレー”をご紹介します。

宮殿で行われた伝説の室内楽コンサート

1811年ごろから数年間、ウィーンのシェーンブルン宮殿の植物園では、名だたる演奏家たちによる特別な室内楽コンサートが開催されていました。ピアノのフンメル、ギターのジュリアーニ、ヴァイオリンのマイゼーダーやシュポア、チェロのメルクなど、当代一流の名手たちが集結。入場料が「1ドゥカート」だったことから、このコンサートは「ドゥカーテン・コンツェルト」と呼ばれていました。

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ジュリアーニとマイゼーター

 

その中で大きな話題を呼んだ曲の一つが、フンメルの《グランド・セレナーデ 第1番 ト長調 Op.63》です。

 

 

 

 

ヒット曲満載の“ポプリ形式”

 

 

このセレナーデは、1814年に作曲された2つの作品のうちのひとつで、もう一つは《第2番 変ホ長調 Op.66》として知られています。演奏される編成は柔軟で、ヴァイオリン・ギター・ピアノのほか、フルートまたはクラリネット、ファゴットまたはチェロなど、さまざまな組み合わせが可能です。

曲の内容は、当時大人気だったオペラや民謡のメロディを織り交ぜた「ポプリ形式」。いわば“ヒット曲メドレー”で、それを超絶技巧の演奏家たちが披露するという、まさに耳のごちそう。

第1番で取り上げられている収録曲一覧

このOp.63では、以下の11曲が取り上げられています:

 1.ヨーゼフ・ヴァイグル:オペラ《皇帝ハドリアヌス》
 2.モーツァルト:オペラ《魔笛》
 3. ケルビーニ:オペラ《二つの旅》
 4.ケルビーニ:オペラ《アバンセラージュ》
 5.フンメル:3つの変奏曲(ジュリアーニ&マイゼーダーのために)
 6.スポンティーニ:オペラ《ヴェスタの巫女》
 7.民謡《家に帰ってそこに居なさい》
 8.モーツァルト:オペラ《フィガロの結婚》
 9.モーツァルト:オペラ《ドン・ジョヴァンニ》
10.フンメル:マズルカと2つの変奏曲
11.モーツァルト:《フィガロの結婚》序曲

現代にも蘇る魅力

今でも知られる名旋律が並んでいますが、当時はまさに“最新ヒット”ばかり。しかもプロの演奏家向けの高度な技術がふんだんに盛り込まれ、各楽器が代わる代わる主役になるような工夫も光ります。
19世紀後半には「サロン・ミュージック」として軽んじられた時期もありましたが、現在では多くの録音が存在し、演奏会でも頻繁に取り上げられるようになりました。理由はシンプル──聴いていて、そして演奏していて、とにかく楽しい!

今回の制作環境(DTM)

この作品は、以下の環境でDTM化しました:

  • 楽譜作成:MuseScore4(フリーソフト)

  • 音源

    • クラシックギター:MuseSounds

    • クラリネット、ファゴット、ヴァイオリン:GARRITAN PERSONAL ORCHESTRA

    • ピアノ:HALion Sonic 7(Yamaha Piano)

フンメルの音楽と、名曲の魅力を、現代の音源でお楽しみいただけたら嬉しいです。
クラシック音楽に馴染みがない方も、「名曲を味わう贅沢なひととき」として、ぜひ気軽に聴いてみてくださいね!

※サムネイル画像はChatGPTで描かせたこの曲の演奏風景

 

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フンメルの遺作 Op.posth.2 をめぐって ~空想・憶測・妄想~


フンメルの死から2年後、彼の手元に残されていた完成された手稿譜のうち9曲が、1939年に出版されました。出版番号「Op.Posth.」の「Posth」は“posthumous”(遺作)を意味し、「Op.」は“Opus”(作品)の略で、主に出版された作品番号を表しています。

以下が、その遺作群です:YouTubeリンクは私が制作したDTM音源です。

 

  • Op.posth.1 ピアノ協奏曲 ヘ長調(※1825年作曲)
  • Op.posth.2 ヴァイオリン(またはフルート)とピアノのための序奏とドイツ民謡による変奏曲 ヘ長調(※詳細不明)
  • Op.posth.3 3つのスコットランド舞曲によるロンド ト長調(※詳細不明)▶︎YouTubeリンク
  • Op.posth.4(WoO.6) ピアノ四重奏のための序奏とアレグロ ト長調(※1811年作曲)
  • Op.posth.5 ピアノ連弾のための序奏とロンド 変ホ長調(※詳細不明)▶︎YouTubeリンク
  • Op.posth.6 カプリッチョ 変ホ短調(※詳細不明)▶︎YouTubeリンク
  • Op.posth.7 オルガンのための2つの前奏曲とフーガ(※詳細不明)▶︎YouTubeリンク
  • Op.posth.8 オルガンのためのリチェルカーレ ト長調(※詳細不明)
  • Op.posth.9 6つのピアノ小品(2つのロンド、2つのカプリース、2つの即興曲)(※1825年頃作曲)▶︎YouTubeリンク

 


 

 今回はその中から Op.posth.2「ヴァイオリン(またはフルート)とピアノのための序奏とドイツ民謡による変奏曲 ヘ長調」 を取り上げ、いつものように Dorico にて譜面を打ち込み、音源には GARRITAN PERSONAL ORCHESTRA 5 のヴァイオリンとピアノを使用しました。リバーブやミックスもすべてDorico内で完結しています。

【DTM】J.N.フンメル/ヴァイオリンとピアノのための序奏とドイツ民謡による変奏曲 ヘ長調,Op.posth.2

 


この曲はいつ書かれたのか?

実はこの作品、作曲された時期や背景が一切不明なのです。近年の研究で言及があるのかもしれませんが、今回は私の得意(?)とする 「空想」「憶測」「妄想」 を交えて、個人的な作曲年代推定を述べてみようと思います。
もしこのような妄想にお付き合いいただける方は、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。


ヴァイオリンとピアノ、それぞれの観点から見ると…

この曲のヴァイオリンパートは、変奏の前半では比較的平易ですが、第3変奏や第5変奏では スピッカート などの技巧も見られます。フィナーレとなる第10変奏も動きは多いものの、フンメルが未完のヴァイオリン協奏曲で見せたような名人芸的な技巧性までは感じられません。
一方でピアノパートには、フンメルの初期作品にはあまり見られない技巧的なパッセージや運指、音形が多く登場します。これにより、この曲は中期以降の作品と推測できます。


どこで、誰のために?

ドイツ民謡を主題としていることから、ロンドンやパリといった演奏旅行中に書かれたものではなく、ヴァイマル、ドレスデン、ライプツィヒなどのドイツ圏出版社の依頼で書かれた可能性も考えられます。
ですが、私の妄想では……
「フンメルがウィーンを再訪した際に、私的な目的で書かれた作品ではないか?」
と考えています。
その理由は以下のとおり:

  • ピアノ書法が中後期の特徴を持っている

  • ドイツ民謡が主題(ロンドンなど外遊中の意図とは考えにくい)

  • 生前未出版で、死後も自宅に保管されていた


作曲された時期:妄想による3つの候補

①1816年:ウィーンを離れる時期

この年、フンメルはウィーンを去り、シュトゥットガルトへ移ります。ベートーヴェンが友人帳に書いた言葉が印象的です。
「芸術は長く、人生は短い」
「良い旅を、親愛なるフンメル。ときどき、あなたの友人ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンを思い出してください。」

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ベートーヴェンがフンメル送った別れの言葉(1816年4月4日 ウィーン)

②1827年:ベートーヴェンとの別れ

この年、フンメルは弟子のヒラーと妻を連れてウィーンを訪問。病床のベートーヴェンを3度訪ね、3月23日には臨終の3日前に面会。葬儀にも参列しています。

③1834年:ウィーンでの最後の演奏会

晩年にウィーンで演奏会を行った年。この時期もまた候補に挙げられます。


妄想の決定稿(笑)

私の中では、②1827年「ベートーヴェンとの別れの年」が最もふさわしいと感じています。というか そうであったらいいな、です。
なぜなら、この変奏曲を聴いたとき、全体にウィーンの香りを感じたこと、そして第9変奏がどこか「葬送行進曲」のように響いたからです。

若き日に競い合ったベートーヴェンとの思い出、そして彼の葬儀に立ち会った時の情景。それらがこの音楽に滲んでいるように感じたのです。
 


 ここまで「空想」「憶測」「妄想」にお付き合いいただきありがとうございました。曲の方は素敵な曲ですので是非聞いていただけたらと思います。

 

 

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