広島大学病院 乳腺外科の笹田です。
8月19日の記事で、イブランスは減量しても効果が落ちないことが書かれていました。
治療薬の減量について心配するコメントも数多くいただきました。
多くの方が、治療の薬が減ることに心配を感じているということと思います。
抗がん剤はどうして減量するのでしょうか?
副作用が強いから・・・
・・・間違いではありませんが、実はその裏でいろいろなことを考えています。
今日のブログは理屈っぽい話ですので、とばしていただいてかまいません。
まず、普通の薬と抗がん剤の大きな違いは、
抗がん剤は、安全に治療できる投与量の範囲が狭い
ということがあります。
抗がん剤は、治療効果が出る投与量で副作用がかなり増えてくるため、使用できる量が副作用の程度で決まってしまいます。
そのため、投与量の細かい調節が必要な薬なのです。
難しいのは、この調節にいろいろな要因が関わってくるためです。
キーワードは「薬物動態」と「薬力学」です。
薬物動態は、治療薬が人間の体の中にどの程度存在するか。
薬力学は、体内に入った治療薬が、どの程度働くか。
というものです。
薬物動態では、体に入る薬剤量と体から出ていく速度が大切です。
薬が体に入ると血中濃度が上がり、薬が肝臓や腎臓で代謝・排泄され体外へ出ていきます。
ある1点の血中濃度だけでは不十分で、薬がどれだけ体内に存在するか(オレンジ色の部分の面積:AUCといいます)が大切と言われています。
体格については、体表面積や体重によって投与量を調節しますし、
代謝・排泄に関しては、肝臓や腎臓の働きに合わせて調節しています。
この工夫によって、薬剤が体内に存在する量(AUC)ができるだで均一になるようにしています。
難しいのは、同じ血中濃度、AUCの投与量(薬物動態)であっても、人によって出てくる影響が違う(薬力学)ということです。
薬物動態に関しては、第1相試験という臨床試験で、この投与量なら何とか続けられそうという量を決めます(多くの場合、3分の2の方が続けられるという意味です)。
その後、その投与量で有効性がどうかが確かめられます。
残念ながら、薬力学に関しては、現在の医療では予測がつきません。
そのため、決められた投与量で治療を開始し、患者さんでの働きを見ながら量を調節していきます(減量)。
つまり、減量の最大の目的は、
その人に合った治療量に合わせる、という手段なのです。
それば、効果と副作用の最適なバランスをとって、最大限の効果を得ようということになります。
この考え方は、殺細胞性抗がん剤に関して考えられたもので、ホルモン薬や分子標的薬には必ずしも当てはまりません。
このように考えても分からないことはまだまだ沢山あるのですが、
減量や休薬といった対応は、理論に基づいた理由があることは知っていただきたいと思います。
減量すると治療効果が落ちるのでは、と不安になると思いますが、
自分に合わせた投与量にしており、適切な投与量は他人とは違うことがある、ということです。
適切な減量をしてくれる担当医の先生は、患者さんのことをよくよく考えています。